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しばらくすると突然大きな岩のような洞窟が現れた。彼らの目的地はこの中であった。
「じゃあ、私はフィーと一緒に外で待っているから、お願いね」フィリアはポーチから袋を取り出してフレアに渡した。
「はいこれ、だいたい手で収まるくらいの大きさがあれば大丈夫」
「はぁ…すぐ戻る、行くぞライ」 フレアは観念した顔をしていた。「うん!」 一方ライガはフレアとは対照的に楽しそうであった。二人は光魔法で光球を作り中に入っていった。
洞窟は入り口が二か所ありライガたちが入っていったのは裏口の方であった。入り口は普通の家の扉ぐらいでそこまで大きくないが、中に進むと広く一本道であった。二人は足音をできるだけ消してしばらく進むと、奥から光が見えてきた。 『ここだよね?』 『そうだ、いくぞ』 空中に光魔法で文字を書いて、意思疎通を図っていた。
互いにうなずき光球を消して、先に進むと、開けた場所に出た。
そこは大きな円形の部屋であった。天井からは日がさしているため明るく、地面はかなりデコボコで部屋の中心には巣があった。フレアは部屋を一通り見まわすととりあえず安堵した。
「今はいないみたいだな、急ぐぞ」 フレアが小声でそう言うとライガは無言でうなずき二人は巣へと向かった。巣の中には純白の大きな鉱石が散乱していた。二人は分かれてフィリアの条件に合いそうなものを探していった。しばらくするとライガが両手で持てるくらいの大きさのものを見つけフレアのもとへ行った。
「レア、これはどう?」
「ナイスだ、ちょっと大きいが、フィーの言ってた条件を満たすだろ」
「うん、早くあいつに見つからないうちに戻ろう」 「だな」フレアはフィリアからもらった袋に石を入れた。ちなみにこの袋も空間魔法が施されているため持ちやすくなっていた。
ゴゴゴゴゴゴゴ その瞬間地響きが部屋に起こった。
「やっべ、戻ってきやがった!」二人は即時に身体強化魔法をかけて急いで元の道へと引き返した。しかし部屋を出るところの土が盛り上がったため二人は急停止をして距離をとった。
バァァァァン
そして盛り上がった土が吹っ飛んで、そこから巨大な芋虫みたいな魔物が現れた。シロムグラと言う魔物で、地面を移動しながら鉱石を食べるためその排せつ物は純度の高い鉱石となっており、それがシルクライト鉱石であった。全長は四、五メートルで白い甲殻に覆われており、先端は黒い大きな口となっていて口の大きさだけでも二人よりずっと大きかった。
「でたぁぁぁぁ」
「まずい、出口を塞がれた!」 厳密にはもう一つ出口はあるのだが、そちらはこの魔物も通れるぐらい太いため、振り切るには適していなかった。
「あいつをどかして逃げるぞ!」フレアはそう言い自分の腰の鞘に挿していた剣を抜いた。ライガも腰に挿していった短剣を抜いた。村の掟で子供たちは自分を守るために武器を必ず持ち歩いていた。ちなみにフィリアは棍棒を、エレナは弓をいつも持ち歩いていた。しかし臨戦態勢になったもののシロムグラは烏合気配がなかった。フレアはその状況に舌打ちをした。
「っち、あいつ、自分から動く気ねーな」 二人にとっては一番困る状況であった。
「どう動かす?」 二人はシロムグラから視線を離すことなく作戦を立てていた。両者ともに、いつもの軽い雰囲気は全くなく、ピリピリとしていた。
「俺がおとりになる、なんとか道作るから先に行け、俺の方が足速いからあとは何とかする」
「了解、ならそれは僕が持っていく」
「そうしてくれ、飛び出したときに投げるからちゃんと拾えよ」
「分かった」そしてまたしばらく膠着状態が続いていたが、フレアが大きな火の球を作りシロムグラの口めがけて飛ばした。キシャァァァァ シロムグラは不意を突かれ甲高い声をあげた。
「ほらよ」 「サンキュー」 魔法を撃った直後フレアはライガに袋を投げ、右前方向に走って行った。ライガは袋をつかむと腰につるしフレアと反対方向へと走って行った。
「おらおらおら~~!これでも喰らいな!」 フレアは走りながら火の球を作って放っていた。先ほどはかなりの時間を貯めてから作ったためダメージを与えていたが、今の攻撃は気をそらす程度にしか効いていなくて、表層で消し飛んでいた。
「っち、さすがに堅いな」 フレアをうっとおしくシロムグラはフレアめがけて突進してきた。フレアはライガがまだ部屋から出ていないことを確認すると、剣を鞘に納め壁のそばまで走り、一気にジャンプしてしがみついた。獣人の脚力と身体強化魔法があるからこそできる技である。シロムグラは勢い余って壁にぶつかりライガはその衝撃で部屋が揺れた。
「うおっと、へへ」フレアは笑っていた。そして壁から飛び降りシロムグラの頭のすぐ後ろあたりの背中に飛び乗った。
「おりゃァァァァ、背中ががら空きだぜ!」そのまま剣を抜きシロムグラの甲殻の隙間めがけて突き立てた。緑色の血が舞いフレアの顔にも少しだけ付いた。シロムグラは背中にいる存在に気付いたのか落とそうと暴れ始めた。フレアは突き立てた剣と甲殻にしがみつき何とか振り落とされないようにしながらマナを溜めていた。
「っぐ、そいやァァァァ」そしてギリギリまで耐えたところで溜めたマナで火球を作り、剣を突き立てた場所に放った。キシャァァァァァ さすがにこの攻撃は効いたのか苦しそうな声をあげていた。フレアは火球の反動で剣を抜ながらシロムグラから飛び降り、剣を鞘に入れて出口へと駆け抜けていった。
「ハァ…ハァ…」ライガは出口にほど近いところまで来ていた。すると後ろから「ライ!」と呼ぶ声が聞こえた。振り返るとフレアの姿があった。「レア!無事だったんだね!」 「おうよ!それよりもまだ止まるな。外に出るまで油断できないぞ」 「分かった!」 ライガはフレアが追い付くと彼の背中を追っていった。そこから数分後二人は無事外に出ることができた。