古びた一冊の本
魔導決闘が決まった次の日、俺が教室に入ると、教室内にいた生徒全員が俺を見て、小さな声で笑い出した。これは最早いつもの日常な為、俺も特に気にしないで自分の席に座る。すると三人の男子生徒が俺に話しかけてくる。
「おいマルス!聞いたぜ?何でもお前の退学を懸けてあのケルヴィンと魔導決闘をするんだって?他のクラスでもその話題が持ちきりだぜ!」
「不適合者のお前がケルヴィンに勝てる訳ねぇだろ!」
「怪我する前に辞退する事を薦めるぜぇ?」
そう口々言うと、教室中から大きな笑い声が上がる。どうやら俺とケルヴィンの魔導決闘は学園全てに知れ渡ってる様子だった。
「身の程って言葉知らねえのか?」
「どうせケルヴィンの圧勝だろ!」
「不適合者が大きく出たわね」
クラスメイトがそう言うが、俺は何も言えなかった。教室中に響く笑い声は教師が入ってきた所で鳴り止み、今日の授業が始まる。
今日一日の授業が全て終わり、俺は直ぐに家に帰る。
「ただいま」
「あら、マルス。お帰りなさい」
家に帰ると、キッチンで母さんが料理を作っていた。
「今日は貴方の好きなシチューよ」
「ありがとう、母さん。部屋で勉強をしてるから時間になったら呼んで」
「分かったわ。相変わらずマルスは勉強が得意よね」
そう言って俺は自分の部屋に行って、机の上に図書館から借りてきた魔法の本を開き、勉強をする。暫くして夕食の時間になり、俺は母さんと一緒に食事をする。すると母さんが学校での生活について聞いてきた。
「そういえばマルス、学校はどうなの?楽しい?」
「…まあ楽しいよ」
嘘だ。毎日のようにいじめられている学校生活が楽しいはずが無い。でも俺は母さんを心配させまいと、こうして嘘をついている。
「それは良かったわ。父さんにも貴方の成長を見てもらって欲しかったわね」
そう言うと母さんは悲しそうな表情を見せる。父さんは十年前、俺が五歳の頃に、病気で亡くなった。父さんは魔導師で、俺の憧れだった。物心ついた時から父さんの背中を追っていたくらい、俺にとっての憧れだった。だから十年前、父さんが亡くなった時は凄いショックだった。
その為、母さんは女手一人で俺をここまで育ててくれた。そんな母さんを助ける為に俺は魔導師を目指しているのだ。
「俺も、父さんみたいな立派な魔導師になって母さんを楽にしてあげるからね」
「ありがとね、マルス」
あれからから三日たったが、あの日から俺は大きな進展はなかった。他の人なら簡単に使用できる魔法すらも俺からすれば困難ばっかりだった。
「クッソ!何で俺には魔法を使う才能が無いんだ!」
改めて俺の無能さを呪った。どうやっても上手くいかず俺は歯噛みしていた。このままでは俺はケルヴィンに負けしてしまい、学校を退学させられてしまう。その焦りが俺を苛立たせていた。
「…そう言えば、母さんから父さんの遺品の整理を頼まれてたっけ」
頼まれごとを思い出した俺は父さんの部屋に入る。あまり入った事が無い父さんの部屋は、沢山の本や書類でいっぱいだった。それらを整理していた時、とある一冊の本が目に入った。他の本と違いそれは表紙が無く、かなり黒ずんでおり、かなり古い物なのか本の至るところがボロボロだった。
気になった俺はそれを読むが、見たことも無い文字ばかりで読むことが出来なかった。すると…
「なっ!?」
突然本が光り出したのだ。そしてその本はまるで意思を持ったかのように一人でに動きだした。
「す、吸い込まれる!?」
しかもそれだけじゃない。本から放たれる強烈な光に体が引き寄せられる。
「う、うわああああああああ!!」
そのまま俺は本に吸い込まれてしまい、意識を失った。
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