プロローグ・2
数分歩いて校舎に入り、そこからまた数分かけて教室へと辿り着く。
糸見が扉を開け、中に入っていく。
「おはよー」
「おはよう」
「よう、糸見ー。ちょっと聞きたい事があってさ……」
糸見の挨拶に、クラスの大半が返してくる。
その上、数人の生徒が近寄ってきて、糸見に話かけてくる。
これが糸見の日常である。
糸見はイケメンであり女子に人気で、フレンドリーさが有りつつも何処かカリスマ性を感じさせる雰囲気で男子にも人気だ。
そして、俺の場合は。
扉を開けて、中に入ると、クラス中が一瞬静まり返る。
「…………」
「…………」
俺は挨拶しないし、クラスメイトも誰も挨拶しない。
この静寂は、俺が席に着くまで続く。
席に座ると、止まっていた時が動き出すかの様に、皆が喋りを再開する。
これが、俺の日常である……。
ホント、この差は何?
糸見と俺では、雲泥の差と言えるぐらい何だけど?
これは入学式からの伝統だ。
最初に俺が教室に入った時から、ずっと同じ反応である。
正直、皆で結託して俺を悲しませようとしているのか、と勘ぐってしまうレベルだ。
まあ、さすがにそんな事は無いと思うけど……無いよね?
「おーおー、今日もご愁傷様だねー」
糸見がにやにやとした表情で近付いて来た。
「……そう、思うなら……止めさせろ……」
「そりゃ無理だな。だってお前の外見、怖いし」
それを言うな!という思いを込めて糸見を睨む。
「お、すまんすまん。お前のコンプレックスに触っちまって」
「……別に、いい……」
ここが糸見の良い所だよな。
フレンドリーに接してくるが、相手が嫌に思う事はしないし、もししてしまった場合も、すぐさま謝る。
ま、それは良いんだが……やっぱり、この身体のせいだよな……。
小説とかには無口キャラや無表情キャラみたいなのもいるし、そういうキャラは結構人気ある。
だからこそ、俺が怖がられるのは、体格と顔のせいだという結論に達する。
そりゃ、厳つい顔のでかい野郎が無表情で立っていたら怖いよなー。しかも碌に喋らないというおまけ付き。
うん、誰も声掛けたがる訳がない。
はあ。改めて確認すると結構へこむなー。
だって体格とか顔とか、どうやって改善しろって?
無理に決まっている。
つまり、俺は一生このままだ。皆から怖がられ、友達も少なく、恋人も出来ない。
はあー……。
これで俺が美少女とかだったら、もうちょっと皆の反応も違かったのかな?
ま、そんなもしもの話したって仕方がない。
俺に出来るのは、せめて糸見みたいな俺と友達してくれる奇特な奴が多くいる事を祈るぐらいしかないか。
「おい、今俺の事貶さなかったか?」
「…………いや、別に……それより……授業、始まる……」
誤魔化そうとする俺の顔を、糸見がじっ、と見てくる。
だが、特に反応しない様に努める。
こういう時、無表情というのは便利だ。
表情が無いから、感情を読まれない。
「ま、良いけどよ……で、一限目なんだっけ?」
「……数学」
「マジか!初っ端から嫌な奴だなー。じゃ、また休み時間に!」
そう言って、自分の席に戻っていく糸見を見送る。
さて、俺も授業の準備するか。