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折節荘の大家と愉快な住人ども  作者: 後畑ヨシヒロ
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プロローグ

プロローグ



私は今、父の願いを安易に引き受けてしまったことを猛烈に後悔していた。そのわけと言うのが・・・

「ねぇー、花梨ちゃんご飯まだー?早くしないと学校遅れちゃうよー! ねぇってばー! 」

「あーはいはい、今できるから静かに待っててよー。」

この、幼女(本人に言ったら怒られるが)はこれでも私の一つ上の先輩だ。

「はぁ、胡桃ちゃん今日も可愛いなぁー、もう俺の妹とは思えないくらい可愛い! マジ天使! 」

「あんたは毎日それしか言えないのか、このシスコン! 」

「えへへぇ/////」

「シスコン言われて照れるな、変態! 」

こいつは、幼女の兄で重度のシスコンの変態野郎。

「おい、花梨。俺、昼飯は学食行くの嫌だから。弁当よろしく~。」

「お前は少し遠慮とかしろよ! 」

「だって、学食は生徒が多いから行きたくないんだよ。つーか、教師に向かって『お前』は無いだろ。『お前』は。俺のことは『雨ヶ谷様』と呼べ。」

「うるさい! 寝言は寝て言え、クソ教師! ついでに永眠しろ! 」

「なんだと、クソガキ! 」

そして、こいつがもっとも手を焼く問題児(立派な大人ではあるが)で私のクラスの副担であり一応『保護者代理』である。

「ふぁー、皆さんおはようございます。あら、また朝から夫婦喧嘩ですか? 」

「「 だれが夫婦だ! 」」

「まぁ! 息もピッタリですわ。とってもお似合いだと思いますよ。うふふふ。」

「はぁ、先輩は毎朝こんな状況でよく優雅に過ごせますね。」

椿さんは一つ上の先輩でとても美人で一年生の間でもすでに有名になっている。おまけに成績も優秀らしい。

前の三人を見ていると先輩は一見して普通の常識人に見えるかもしれない。

しかし・・・

「そうね、私の部屋にも他に二人くらいいるから騒がしいのは慣れっこなのかも・・・。」

「「「「・・・・・・・・・・・。」」」」


やっぱりここに常識人はいなかった・・・。


・・・・・・と、まぁこんな感じで開始そうそう一応の主人公の私がなぜこんな暴言を吐きまくるという状況になったのか。

それは約一ヶ月前に遡ることになる―――。



   ☆   ☆   ☆



高校入学を目前にひかえた三月下旬。無事高校にも合格し、四月から始まる高校生活に胸を躍らせ淡い青春に期待をして過ごしていた春休み。その事件は突然起こった・・・。

「ハァ? 海外に引っ越す? ちょっと、待ってよ。いきなりすぎでしょ。」

「いやぁ、実は前々から話はあったんだけど・・・。まさか本当に海外に転勤になるとは思ってなかったからさぁ、ハハハハww 」

「いや、笑って誤魔化してもダメだから。」

そう。私はお父さんから当然海外転勤を宣言されたのだ。だがそこまでは、まぁ会社の事情とかもあっただろうし、大目に見るとしよう。しかし、ここから問題だった・・・。

「それで、いったい私はどうすればいいわけ? 高校はもう決まってるし、私の住む家とか生活に必要なお金のこととか。どうするの? それにあのアパートだって・・・。」

「花梨は日本に残ればいいよ。それに、お金のことは心配いらないよ。口座に仕送りするから必要なときに下ろして使えばいいし。それで住む家のことなんだけど、お前はあのアパートに住んだらいいよ。住んでるのも同じ学校の生徒ばかりだし。」

「ゲッ、あそこに住むの~~~。」

実はお父さんは普通に仕事もしているが、数年前に亡くなったおじいちゃんから引き継いだアパートの大家もやってた。

「なんだ、嫌なのか? まぁ、少しぼろいかもしれないけど、高校入学前に学校の知り合いもできて一石二鳥だろ? それに・・・、お前にあそこに住んで欲しい理由はもう一つあるんだ。」

こんなふうにお父さんがもったいぶるときは大抵ろくなことない。でも、なんか聞いてほしそうにしてるし聞くしかないか・・・。

「それで、その理由ってのはいったい何? 」

「いやー、実はお前にはな『大家代理』になって欲しいんだ☆」

「・・・・・・・・・・ハァァァァァァァァァァァ??? 」

やっぱり私の予感は当たっていた。

なんと、お父さんは突然の海外転勤を告げた上にあろうことか一ヶ月前まで中学生だった私に『 大家代理 』という謎の役割を任命したのだ。

「いやー、だってさすがに大家いないとヤバイだろ? それに大家って言っても事務処理的なものは全部父さんがやるし、アパートのちょっとした管理だけやってくれればいいよー。」

「だからって子供に普通そんなこと任せる?」

「あぁ、そのことなら心配いらないよ。実は新しい人が越してくるんだ。父さんの友人の息子なんだけど、お前の行く学校で教師をしていて真面目で優しいしっかりした青年らしいから。保護者の代わりってことで。知り合いの大人が一人でもいれば安心だろ?」

(いや、そういう問題じゃないと思うんだけど。それよりも、娘を一人残していくことにこの父親は何も思わないのか・・・。)

「てか、学校の先生と同じ家かー・・・。」

「まぁ、いいじゃないか。それと、さっそくで悪いけど、彼、明日引っ越してくるから。あいにく父さん明日仕事で行けないからお前さっそく大家として挨拶しに行ってくれないか?」

「えぇ~~~。」

「なぁ、頼むよ~! お願いだから! 」 

こんな感じに半ば強引に流され『大家代理』という謎の役を引き受け、明日には私の『保護者代理』となる人に会うことになったのだった。



   ☆   ☆   ☆



そして翌日の朝9時すぎ。

私は家のすぐ近くにあるアパートへ向かった。朝早くから引越し業者のトラックが止まり、何人もの作業員が出入りしているそのアパートの屋根の少し下辺りには『折節荘』という大きな看板が付いている。(懐かしいなー、昔はおじいちゃんが住んでたからよく遊びに来たっけ。)とアパートの前で感傷に浸っていると、

「ぉぃ・・・・おい!」

「うわぁぁ!」

背後からいきなり(自分が気づいていなっかっただけだが)声をかけられ、私が驚いて振り替えると、そこには上下ジャージに軍手をつけて首にタオルをかけた、いかにも引越し作業中といった格好の長身の男が立っていた。(あれ、もしかしてこの人が昨日お父さんんの言ってた人かな? ・・・へぇ、身長も高いし顔もそこそこイケメンで、お父さんが言ってたとおり優しそうな人だなぁ。)

と、そんなことを思っていたやさき、

「そこ、通り道だから邪魔なんだよ。早くどけろ、ガキ。」

・・・・・・・・・私の淡い期待は一瞬で裏切られた。

(なんなのこいつ! いくら私がぼーっとして、道塞いでたからって普通初対面の女の子に対して「ガキ」はないでしょ! てか昨日お父さんから聞いた感じと全然違うんだけど!)

「おい、聞いてんのか? 」

「聞こえてますよ! てか、いきなり初対面の女子をガキ呼ばわりするなんて教師のくせに口悪すぎなんですけど! 」

「あぁ? ガキにガキつって何が悪いんだよ。つーかお前、俺が教師だってなんで知ってんだよ。」

「あなたお父さんの友達の息子なんですよね? 私は今日からこのアパートの『大家代理』の季崎花梨です!」

「あぁー、親父が言ってたガキってお前だったのか。」

「そのガキ呼ばわりは止めてください。」

「ふんっ、ガキのくせに大家だか何だか知らねーが、親父に聞いたところだと俺はお前の『保護者代理』らしいから俺の言うことはちゃんと聞くことだな。」

初対面からなんてムカつくヤツなんだこいつは!

「そういや、お前この後暇か? 」

「まぁ、今日は一応あなたに挨拶しに来ただけのなので、この後はまっすぐ家に帰ります。」

「ふーん、暇なのか・・・。(ニヤり)」

(あっ、なんか嫌な予感・・・)

「じゃあ、さっそくだが引っ越しの手伝いでもしてもらおうか。」

「はぁ? なんで私が。」

「そりゃ、俺がお前の『保護者代理』だからだ!」

「・・・それだけですか?」

「それだけだが。」

「なんでそれだけであんたの言うこと聞かなきゃなんないんですか、あなたバカなんですか? 」

「あぁ? 年上にバカって言うんじゃねーよ。だいたいバカって言うほうがバカなんだよ、バァーカ! 」

(・・・この人、思った以上にバカで子供っぽい。)

「とにかく、お前は俺の言うことに従えっていればいい。それと自己紹介がまだだったが、俺は雨ヶ谷櫂斗だ。雨ヶ谷は長くて面倒だから櫂斗でいいぞ。敬語も別に無理して使わなくていい。」

「はぁ。わかったよ。・・・。でもさすがに年上を呼び捨ては気が引けるんで、櫂斗さんで。」

なんだかよくわからないが、ひとまず私は仕方なくこいつの指示に従うことにしてた。

「でもなんで、そんな上から目線なのに呼び方とか敬語は使わなくてもいいの? 」

「あんまり堅苦しいのは好きじゃないんだ。だが、学校ではちゃんと先生と呼べよ。お前は最初うちの生徒だってわかんなかったし、道を塞いで邪魔だったから素で対応しちまったが、俺は学校ではイケメンで優しい先生ってことで通してるから。そこんとこよろしく~。」

(うわっ、こいつ学校で猫かぶってるとかサイテー!)

「わかったら、さっさとそこの段ボール運べよー。」

そう言い残し、こんな最悪の出会いから始まった、私の管理人としての生活。そして、これから始まる高校生活はいったいどうなるのか。

(はぁー、これ以上変な人が住んでいないといいなぁ。)

しかし、私のそんな期待はまたすぐに裏切られることになろうとは知る由もなっかた・・・。

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