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六ノ怪 ガシャドクロとEランク昇格

■昨日に引き続き連日投稿です。お楽しみください。


 リサが俺達の仲間になってはや1ヶ月。最初こそぎこちない態度のリサだったが、今となってはすっかり打ち解けている。同じ獣系妖怪としてなのか、(こう)とは特に仲が良く、口数の少なかった幸も目に見えて明るくなった。

 リサは全体の雰囲気にいい影響を与えてくれているのだろう。まだ、4人しかいないけど……




 「よしっ!これで全部かな」

 

 「はい。これで必要個数は揃ったと思われます」


 「デス!」


 「これで達成ですね!」



 今日の依頼は発火草30枚の納品で、場所はセリーヌの森。

 女の勘(?)を使って目標物を簡単に見つける雪音(ゆきね)。鼻の敏感さを活かして見つける幸とリサ。

 うん、実に頼りになる仲間だ――――俺が見つけた個数?……ゼロだよ。だって俺が探し始める頃には見つけてるんだぜ?いやはや参ったもんだよ。


 ~獲得個数~

・リサ 15個

・幸 13個

・雪音 10個

・俺 0個


 目標より8枚多く採れてしまったが、残りはギルドで換金してもらおう。それはいいとして――



 「また0でした。皆さん申し訳ございません」


 

 俺の獲得数0は今に始まったことではない。この1ヶ月、毎日のように採取依頼を受けたが、その全てを俺が見つける前に達成してしまうのだ。

 採取を向き不向きで判断したくはないが、いかんせん罪悪感が湧いてくる。これで俺の分も報酬が出るってんだから尚更だ。



 「なにを仰いますか。火月夜(かぐや)様は(わたくし)の命の恩人。そのような事、お気になさらないでください」


 それとこれとは別じゃ――


 「この程度の事で……恩をお返しできるなら、本望デス!」


 えぇ……恩返しとかホントにいらな――


 「独りぼっちだった私を救ったのは……火月夜さんですよ?これくらいの事はさせて下さい!」


 きっかけを作ったのはカイザーさんですよ――――


 ふぅ、ここまで好意を向けてくれる子たちが他にいるだろうか、否。だが俺は、そんな彼女たち好意に甘えすぎている。具体的な手段は思い浮かばないが、俺は俺なりに彼女たちの恩に報いたいと思う。偉そうにふんぞり返るだけが(あるじ)の仕事ではないはずだ。



 「3人とも、ありがとう」



 この世界に来てから感謝してばかりの自分に苦笑しながら、俺は足を街の方角へと向けた。





 


 「依頼の達成を確認致しました。こちらが報酬の銀貨5枚とギルド買取分の銀貨1枚、合わせて6枚になります。お疲れ様でした」


 

 今日の担当はユエルさんだった。妖魔である俺達に、少しの偏見も持たずに接してくれる数少ない人の一人である。他の冒険者からの偏見は酷いものである。

 口には出さないが、そんな彼女に感謝しながらギルドを後にした。


 まだ昼前だが少し小腹が空いてきた。軽く食事を摂れるところはないかな――



 「火月夜様、お食事にされますか?」


 「え!?……ああ、そうだな」



 エスパーだ、エスパーがいる。何でこうも簡単に思考が読まれるんだ。俺、そんな素振り見せてたか?



 「ご飯ですか!?どこで食べるんですか!?」


 「落ち着きなさい、リサさん。火月夜様がお困りでしょう」


 「あっ……す、すみません……」


 「うん、大丈夫だよ」



 リサは食べ物の話には怖い程食いついてくる。そしてやはりというか、食べる量も凄まじい。稼ぎがあまり良いとは言えない俺達には厳しいものがあるので、最近では少し自制してもらっている。

 ここに来て初めて、子を持つ親の気持ちと我慢させる辛さを理解できた。……リサは俺の子供ではないけどね。


 さて、リサも言っていたけど今日はどこで食べるか。やっぱり食べるなら安く済ませたいところだが、生憎安いところを知らない。ここ1ヶ月は酒場か宿で摂っていたが、支出と収入を計算したらこの先厳しくなることが分かった。宿はともかく酒場での食事は破綻の道を辿る可能性が高い。だからと言って宿の食事は少なすぎるし…………もう少し早く気付いていれば良かったんだけど……

 どこかに量と値段が両立している店はないものかな――と、ここで辺りに響く大きな声が俺達に届いた。



 「よう!火月夜御一行じゃねぇか、どうしたんだよ」


 「カイザーさん、こんにちは」


 「ご無沙汰しております、カイザー様」


 

 俺に続いて挨拶をする雪音。それに合わせてリサと幸も慌てて頭を下げる。カイザーさんの声でようやく俺達が変に目立っているのが分かった。確かにギルド前での立ち往生は悪目立ちするだろうな……


 

 「おうよ、リサも元気そうでなによりだ!で、どうかしたのか?」


 「実は食事処を探していまして……どこか安くてたくさん食べられる店はないですか?」



 カイザーさんは驚いたように目を見開いた後、豪快に笑いだした。



 「お前さん金欠かい!そんで安くて量となぁ!だったらいいとこ教えてやるぜ――ってか、ちょうど俺もそこに行くところだったんだよ」


 「では、ご一緒させて頂いても?」


 「おう!勿論来いや!案内してやるぜ」



 快諾してくれた。カイザーさんほどの巨漢が勧める店なら、かなりの期待が持てるかもしれない。みんなには腹一杯食べてもらいたいからなぁ……




 

 「おう!カイザーじゃねぇか!また食いに来てくれるたぁ嬉しいねぇ!」


 「元気そうだな、セルゴ。今日はこいつらの分も頼むぜ」


 「おう?なんだお前さんガキいたんか!?」


 「冗談言うねぇ!俺のギルドで登録してる冒険者だよ!」


 「そうだったのか!いやぁ、俺はてっきり……ガハハハハッ!」


 「ハッハッハッ!」



 店内は昼前だからか空いていた。そんな空間での巨漢2人による漫才じみた会話は嫌でも目立つ。

 ここらで切っておいた方がいいか。



 「初めまして、鈴谷火月夜と言います」


 「(こがらし)雪音です。そしてこちらが猫神(ねこがみ)幸、リサ・ノイン」


 「「は、初めまして!」」


 「ガハハハッ!おう、よろしくな!それと火月夜とやら、お前さん隅に置けんなぁ!」



 うーっわ、この人カイザーさんと同じこと言いおった。似すぎだろ、この店主。別に侍らせてなんかいないんだが……侍らせてなんかいないんだが!大事なことなので2度言いました。



 「まあ、いい。そらっ、座れ座れ!なに食うんだ?」


 「全員、例のカレーだ」


 「おうよ、ちょっと待ってな!」



 俺達も勧められたカウンター席に腰を下ろした。テーブルには汚れ一つ見当たらず、豪快な見た目とは裏腹に結構綺麗好きな店主なんだろうと思った。客としてはこの上ない喜びだが、この意外感はどこに持っていくべきだろう。


 暫くして、店の奥から盆にバケツを乗せた店主がやって来た。



 「バケツ……?」


 「いーっや、あれが俺の勧めるカレーだ!」


 

 えっ!かなり量があるように見えるんだけど――――



 「へい、お待ち!特盛カレーだぜ!……っと、カイザーの分は激辛な」


 「毎度すまんな!」


 「いいってことよ!さっ、食えや!」



 うん、でかい。その一言に尽きる。これ俺の顔入るよ?絶対食い切れんは、これ。



 「美味しいです!これは竜肉ですね?凄くジューシーです!」


 「確かに美味しいですね。見た目から大味かと思ったのですが、繊細な味付けで驚きました」


 「宿の食事……食べられなくなりそう……デス」


 

 3人娘からは好評のようだ。だけど宿の食事を食べられなくなるのは、お父さん困るよ?……っと、俺も食べるか。

 どれ、スプーンで一口…………ん!?――更に一口…………なんと、美味い!おいしいものを食べると声が出ないと言うが、あの話は本当だったのか。溢れる肉汁、程よく舌を刺激するスパイス、全体をうまく纏めるご飯の固さ。素晴らしいな、これは!


 その後も手を止めることなく食べ続けたが、残り半分くらいのところで流石にギブアップ。残りはリサに食べてもらうことにした、というか欲しそうな目でこっちを見ていた。

 そして驚くべきは、俺以外は完食となったことである。カイザーさんは分かるよ?でも、雪音と幸も完食するとは…………隠れ大食いか。思わぬ伏兵がいたな――食費が(かさ)みそうだ。



 「また来いよー!」


 「おう!」


 「ご馳走様でした」


 

 しかし、この量で銅貨5枚は安いな。ここならまた来てもいいかもしれない。十分以上に満足した俺達は『飯屋ガーネット』を後にした。




 


 「そんで、お前さんらはこれからどうすんだ。まだ日は高ぇよ?」


 「そうですね。あと一つくらい依頼をこなそうかと思います。採取系依頼は結構ありますし……」



 まあ、こなすと言っても俺ほとんど何もしてないんだけどね。何とかして役に立ちたいな――――と、その瞬間、カイザーさんが何かを思い出したかのように大きく手を叩いた。


 

 「あぁ!完全に忘れてたぜ!お前さんらEランクに昇格な」


 「Eランク?早くないですか?」


 「いーや。あんだけ毎日のように依頼こなしてたんだ。むしろ遅いくらいなんだぜ?」


 

 Eランク冒険者になったようだがいまいち実感が湧かない。折角だからEランクの依頼を受けてみようかな。俺達はカイザーさんと一緒にギルドへ向かった。幸とリサだけは、何のことかと言わんばかりに終始首をかしげていたが。


 




 「――――以上でEランク依頼の説明を終わります。これからも頑張ってくださいね」


 

 カイザーさんと別れた俺達は、真っ直ぐギルド総合受付へ向かった。Eランク昇格の話をすると、登録した時と同じようにユエルさんが出てきて説明してくれたのだ。

 曰く、Eランク依頼はこれまでとほとんど変わらない。ただ、若干取得の困難な採取依頼と簡単な討伐依頼が加えられるようだ。とは言っても小さめ獣とかそういう類だが……



 「火月夜様、まだお時間はありますが、どの依頼を受けられますか?」


 

 酒場のテーブル席に座っていた雪音達のもとへ戻ると、真っ先にそう切り出してきた。ランク依頼に心を躍らせているように見える雪音の表情に苦笑しながらも、ユエルさんに受けた説明と今後の方針をいくつか提示した。



 「Eランクからは簡単な討伐依頼と、少し難しい採取依頼が追加されるらしいよ。それで今後なんだけど、Fランク依頼を続ける道と、Eランク依頼に進む道がある。もちろん両方もオーケーだよ。ただ、Fランク依頼を達成してもDランク昇格への評価には繋がらないらしいんだ」


 「それでしたらEランクを進めるべきだと思いますが――いえ!当然、火月夜様のご判断に従います」


 「Eランク……やってみたい……けど、火月夜様に従います」


 「E……やって――火月夜さんにお任せいたします!」



 3人とも本音もれてるよ?Eランクやりたいのモロ分かりなんですが…………まあ、Eランク依頼やりたい気持ちは俺も同じだからいいけどさ。



 「じゃあ今後の方針はEランク依頼をこなし、Dランクへの昇格を目指す。これでいいかな?」


 「かしこまりました。お供致します」


 「分かりました……デス!」


 「必ず火月夜さんのお力になってみせます!」



 うん、これで今後の動きは決まったな。急がず焦らず進んでいこう。安全第一だ!――それと個人的な方針として、


 

 「と、同時にやることがあるんだ」


 「――え?それは一体……」



 雪音が一番に疑問符を並べる。それと、少し遅れて幸とリサも首を傾げた。これは俺達にしか出来ない、俺達だからやらないといけない、そんな気がするものだ。

 俺はワンテンポ置いてから話を切り出した。



 「仲間集め……やろうと思うんだ」



 4人掛けテーブルの狭い空間に沈黙が流れた。俺としては依頼よりも、こっちを重要視しているのだが……まあ、それは追々話していくとしよう。


 

 

 



 


 

 

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