表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界妖魔ファミリーズ~ガシャドクロに栄光あれ!~  作者: 皐月 猟
第一章 餓者転生
2/7

二ノ怪 ガシャドクロと幕開け

 

 「この度は(わたくし)共の命を救って頂き、本当にありがとうございました。この御恩には全力を以って報いる所存でございます」


 「ご、ございます!……デス」


 「重ねまして、あなた様のお命を奪ってしまった事、どのような言葉を以ってしても繕うことは出来ないでしょう。我々は如何なる罰もお受け致します」


 「い、致します!……デス」


 「ですからどうか!……どうか(わたくし)共があなた様のお傍に立つことをお許し頂けないでしょうか!」


 「で、でしょうか!……デス」


 「えーっと……そんな畏まらないでよ。俺そういうの苦手でさ……俺の傍にいてくれるってのは凄く嬉しいし」


 

 街で会うなり突然土下座を始めた2人に戸惑う。この2人こそがたまたま此岸で会った俺を殺してしまった張本人、『雪女』と『猫又』である。

 雪女に続いて猫又も頭を下げる。こう見ると姉妹のようにも見える。ちょっと微笑ましいな。

 どうでもいいけど、猫又さんの言葉使い……これは素なんだろうか?

 

 まあ、殺された時は「なんだかなぁ」みたいな思いだったが、今は特に何もない。てか、本当にもういいんだけどなぁ……こんなに必死に謝られたら誰だってこうなるだろう。なんか少し罪悪感を覚える。


 

 「勿体無いお言葉。これ程慈悲深い主様にお仕えすることが出来るなど、この上ない喜びにございます」


 「ご、ございます!……デス」


 

 うーん……この他人行儀どうにかならないかなぁ……それにすごく目立ってるんだけど……


 道のド真ん中で女の子2人を土下座させるなど、悪目立ちにも程がある。……いや、俺が土下座させてる訳ではないよ?彼女らが勝手にやっていることだ。

 だが街行く人はそんな目では見ない。「男が女2人を土下座させてる」そんな風にしか思えないだろう。それ以外の解釈のしようがないし、当の本人である俺ですらそう思う。大変不本意ながら。


 

 「と、とにかくさ、ここでは流石にマズいって。場所は変えよう?ね?」


 「主様がそう仰るのでしたら……」


 「で、でしたら……デス」



 俺は2人を連れて他人の視線が痛い街路を後にした。あんなの、ただの「晒し」だ。これ以上耐えることはできない。ここは「逃走」が最善の選択である。


 とりあえず、街から少し離れた草原まで連れて来た。街の中は人々で賑わっていたが、この辺はかなり静かである。草木は穏やかに揺れ、心地よい風が吹いている。

 ここならあまり人目もつかないだろう。さて、さっきの話の続きを……



 「主様を不快にさせてしまった事、お詫び申し上げます!重ね重ねの無礼、どうやっても償いきれるものではなく……」


 「で、ではなく……デスぅ………」


 「大丈夫!大丈夫だから、さ。ね?気にしないでよ。俺だって嬉しいんだ。一人で新しい生活空間に溶け込めるか不安だったから。2人がいてくれてホントに助かった。だからこれでお相子(あいこ)だよ」


 

 流石に謝られまくってるとこちらが疲れてくる。謝られる側の気持ちも考えて欲しいところ……とか言ったら、また始まりそうだから言わないけどね。とにかく、ここらで謝罪大会は幕引きにしたいところだ。



 「えーっと……そうだ!自己紹介まだだったね。俺は鈴谷(すずたに)火月夜(かぐや)。……ガシャドクロですって言った方がいいかな?」


 「主様は律義な方でいらっしゃるようですね。我々などのためにありがとうございます。……申し遅れました。(わたくし)(こがらし)雪音(ゆきね)と申します。聡明な主様なら既にご存知の事と思いますが、『雪女』にございます。冥界神様よりあなた様のお守りするように申し付けられました。末永くよろしくお願い申し上げます」


 「あ、これはご丁寧にどうも。……こちらこそよろしくお願いします」


 

 深々と頭を下げる雪音の可憐な姿に思わずドキッとしてしまった。

 プラチナブロンドのストレートヘアに真っ白な肌、紺碧色の瞳、そしてそれらを更に際立たせる雪のように透き通った着物。その妖艶な姿は、見た者の心を一瞬で鷲掴みにするだろう。現に俺もやられてるし……

 

 ん?そう言えば雪女って男を氷漬けにして食べるんだっけ?……俺は大丈夫だよね?……後で「いただきます」とか言い出さないよね?

 そんな事を考えてしまった俺は雪音をまじまじと見つめてしまった。



 「あ、あの……主様?」


 「あ、ううん!何でもないよ。ごめんごめん」


 「い、いえ……こちらこそ失礼いたしました」


 

 また深々とお辞儀をする雪音を見て、少々良心が痛んだ。今のは俺に非があったんだから謝らなくていいのに……

 そう思いながら俺はもう一人の()へ目を向けた。

 この()が猫又だろう。黒のショートヘアに金の瞳。そして黒を基調とした和装。この格好は……忍者、か?妖怪がコスプレなんてしないだろうから、これも素なんだろう。

 何より目を引くのが頭に付いた2つの耳。……これは俗に言う、猫耳娘というやつではなかろうか。本物初めて見た。実にキュートである。



 「あ!……その……私は……猫神(ねこがみ)(こう)……デス」


 「幸、その態度は主様に失礼よ」


 「ああ、大丈夫だよ。幸……だね。これからよろしく」


 

 俺は幸に握手を求める。恥ずかしがり屋なのだろう。これはこれでドキッとさせられるものがある。守ってあげたくなっちゃうよ。……俺に守られる程弱くないと思うが。

 


 「よ、よろしくお願いします……デス」



 幸は恥ずかしがりながらも握手を返してくれた。彼女の手は俺より小さく、温かかった。なんか思ってた猫又と違うな。もっと、サバサバした妖怪かと思ってた。やはり情報だけで判断できないこともあるということか。……ガシャドクロの俺が言うのもなんだけど。

 白の雪音に黒の幸。なんか白黒姉妹みたいだな。

 さて、あと一つは



 「えーっと……2人に頼みたいことがあるんだけど……いいかな?」


 「我々に頼み事など不要にございます。命令して頂ければ如何様にも……」


 「いやいや。命令じゃないよ、頼み事」



 うーん……まだ、2人と俺の距離は遠い……か?ならばこの溝を埋める更に埋めることにしなければならない。



 「俺の事は火月夜って呼んでほしいな。主様って呼び方は、何というか……仰々し過ぎるし。俺は2人と家族、友人のような関係になりたいんだ」


 「主様を尊きお名前でお呼びするなど度が過ぎた無礼極まりない行為。我々は冥界神様より主様に仕えるよう命じられた身、とてもそのような事は致しかねます。」


 

 あ、これかなり頑固だわ。ちょっとやそっとでは動かないだろうな。

 ならば致し方あるまい。主様権限を使うとしようか。……少し心苦しいが



 「よし!じゃあ命令する!雪音と幸は今日から俺を名前で呼ぶこと!そして仰々しい物言いは禁止!対等な立場であること!……守れるかい?」


 「そ、そんな事!…………火月夜様でご勘弁頂けないでしょうか?」


 「で……でしょうか!……デス」


 「……うーん、……まあ、いいか。改めてこれからよろしく。雪音、幸」



 少し堅いが仕方ない。今はこれが最大の妥協ラインなんだろう。まあ、これから少しずつ慣れていけばいい。初日でここまで距離が縮まれば上出来だ。雪音の性格上すぐには無理かもしれないが。

 あー……も結局命令調になっちゃったなぁ。嫌われないといいのだが……

 

 

 「はい。末永く宜しくお願い申し上げます。火月夜様」


 「よ、よろしくお願いします……火月夜様……」



 優雅にお辞儀する雪音とそれに倣う幸。実にしっくりくる絵面だ。

 妖艶な美しさを持つ雪音と、小動物的可愛らしさを持つ幸。白と黒、表裏一体。真逆の属性だが、どちらにせよ男なら即落ちだろう。ちょっとだけ今の状況が幸せだ、と心の隅で思った。

 

 ホント、砂かけ婆とか子泣き爺とかじゃなくて良かったな。失礼だけど……





 

 「ところで2人はいつ頃この世界に来たの?」


 「恐らく火月夜様と同時刻だと思います。冥界神様が誤って別々に転移させてしまったようで、見つけるまで苦労致しました」



 街の適当なベンチに腰を掛けて、今までの経緯を聞いてみた。2人はまた俺に跪こうとしたので、隣のもう一つベンチに腰掛けるように促した。もうあの痛い視線は御免被りたいところだからな。

 

 雪音の話によると、本来は人目の付かない裏路地に転移させるつもりが、俺だけ街のド真ん中にある広場に転移させられたらしい。意図的に目立つところに飛ばしたのか、と思っていたがあれは間違いだったんだな。周りの「突如出現したゲテモノ(そのままの意味で)」を見るような目が凄く痛かったよ、冥界神様。

 そして、俺を見つけた雪音達が土下座をするところから始まったという訳だ。



 「まあ、開幕色々あったけど無事に会うことが出来て良かったよ」


 「……火月夜様は冥界神様、いえ、我々妖怪に対してお怒りの感情はないのですか?」


 「え?どうして?」


 

 雪音の不意な質問に首を(かし)げる。何故俺が怒りをぶつけなければならないんだ?……いや、まあ確かに、変なところに飛ばされたのは困ったけど、怒る事でもないし。それは冥界神様の誤りだし。

 そんな事を考えていた俺に雪音は言葉を続けた。



 「火月夜様は我々妖怪に殺められ、天界に行くのも叶わず妖怪として転生されました」


 「うん、そうだね?」


 「ご不満ではありませんか?火月夜様のご意思を我々は完全に無視しているのですよ?……普通はお怒りになるものだと……ああ!いえ!火月夜様がおかしいと申している訳では断じてございません!ただ、不思議だと……思ったものですから……」



 ははん。つまりは俺がこの境遇に怒りを感じ、冥界神様と妖怪達の都合で異世界に転生させられたことを不満に思っていたとな。

 はぁ……ここらで矯正させてもらうか。こういう類いの思い込みは溜まると後々面倒なことになるし、負い目を感じられるのはもっと嫌だからな。



 「じゃあ、雪音。逆に聞くけど、俺がいつ天界に行きたいって言った?そもそも俺の意思ってなに?」

 

 「え……そ、それは……」


 「つまりはそういう事。俺は自分のこの境遇を不満とはこれっぽっちも思ってないし、むしろ感謝してるくらいだ。転生したから2人に会えた、これは俺のこの上ない幸運だよ」


 「火月夜様……!」



 ちょっとキツイ言い方しちゃったけど大丈夫だよね。意思云々(うんぬん)に関しては触れなかったけど、この境遇は本当に幸運だと思う。だからある意味では俺の意思なのかもしれない。

 

 さて、これで俺の気持ちを理解してくれると有り難いのだが……と思った矢先、雪音と幸が俺の前で揃って跪いた。……おいおい、またかよ。勘弁してくれ。ほら周りの人がまた見てるし。

 しかし、俺が2人を止めるよりも早く、雪音が口を開いた。



 「我が主君、火月夜様に最高の感謝と尊敬を。この雪音、火月夜様に一生お仕えすると再度ここに誓います」


 「わ、私も……誓う……デス!」



 周りの視線を受ける気恥ずかしい感情が、俺の頭からは失くなっていった。それくらい2人の真剣さ、熱意が伝わって来たからだ。周りが全く気にならない……まるで3人だけの空間が形成されたみたいだった。

 

 ここまで熱い好意をぶつけてくれたんだ。ならば俺も男として誠実に対応しなければならない。

 俺はベンチから降りる。そして2人と同じ目の高さまでしゃがみ、優しく2人の手を取った。雪音は俺のそんな行動に驚いたのか目を見開き、幸は少し恥ずかしそうな素振りを見せた。

 


 「俺も誓うよ。2人にとって最高の(あるじ)でいると。だから……俺に付いてきてくれないか」



 俺は2人を真正面から見つめた。かなり不器用だとは思ったが、これが俺なりの「誠実な対応」だ。この2人とならやっていけそう、やっていきたいと思ったから本気で対応した。

 今考えるとちょっと恥かしい事言ったかもな……

 

 俺の告白紛いのセリフを聞いた2人は互いの顔を見合わせた後、真剣な眼差しで見つめる。その美しい紺碧と金色の瞳は少したりとも馬鹿にした感情は含まれていなかった。

 そして雪音と幸はほぼ同時に口を開く。その言葉は「異世界生活」の始まりと、決意を告げるものであった。


 

 「仰せのままに……我が敬愛すべき主よ」「仰せの、ままに……デス、火月夜様」



■ガシャドクロ登場の回にしようかと思ったのですが、雪音と幸の蟠り解消に全て使ってしまいました。申し訳ありません。次こそは登場の回になりますので、ご期待ください。

■1/5 サブタイトルに若干の変更を加えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ