この気持ちが指す結末
話が180度転換しましたが気にしないことが一番です!
あの日を境に彼は彼女と共に行動をするようになった。
日々を生きることに懸命で明日の事など考えられなかったあの時とは違う。今は彼女と何をして過ごすかそんな事を考えるほどに余裕ができていた。それだけ彼女が与えた影響は彼にとって大きく、彼女と共に過ごす時間は満ち足りているものになっていた。
『みんなが笑顔でいる』という彼女の掲げた理想に彼が少しづつ同じ気持ちになっている事に自覚はないが、心がそう望んでいるのに気付き始めている。
しかし現実は非常であり理想を実現するには程遠い過程があることを知らない。ましてや忍び寄る暗雲になど注意するはずもなかった。
「今日は何をしようか?」
彼女は無邪気にそう質問する。街外れの草原で二人は久しぶりの休日を一緒に過ごしていた。何を望む事もなくただ二人きりでいる事に意味のある時間が彼にとって一番幸せだと感じる時にもなっている。
「特には、しりとりとか?」
彼は質問に不愛想な返答しかできなかった。最近、彼女に面と向かって話をしようとすると、どうしても心が締め付けられるような火照りが体を駆け巡るのだ。
羞恥心とは少し違う柔らかな温かみ、それは彼の知る範囲では形容できない初めての温度。
「いいね!じゃあ”えがお”からね?はい、お!」
「お、”オズの魔法使い”」
「オズの魔法使いいい話だよね、知恵、心、勇気。彼らが無いと思っていたものは初めから自分の中にありましたとさ、”いぬ”!」
「ぬ?ぬ、”抜き首”……。轆轤首の別称らしい」
「良く知ってるね、私が思うに轆轤首は想い人を待ち続けて首を長くした結果妖怪になっちゃったんだっと思うな」
「それ、ただ首を長くって言いたかっただけだろう?」
「あ、ばれた?じゃあ次は”ビリーブ”!意味は分かるかな?」
駄弁りながらしりとりは進む。俺の選ぶ言葉は変なものが多いが彼女はそれに反応しながら返してくる。良く知っているのはあちらの方ではないのか。
俺は彼女と出会ってからスラムを出ることを決意し、彼女の親が経営する商店で働くことになった。
何か変われるなら真っ当に働く事から始めよう。そう思い、彼女に頼み込んだのだ。働くにあたって文字の読み書きや様々な勉学も習い、少しづつではあるが自分を変え始めていた。
「そのくらいわかるわ、信じるだろ?」
「せいかーい、よくできました!」
彼女が太陽にも負けない微笑みを浮かべながら拍手をする。少し前まで何も知らなかったのにここまで良く成長しましたと褒めてくれているようで素直に嬉しかった。今までは生きるために必死で、見えなかった周りの風景が今は少しづつ見えるようになりやっと彼女と同じ目線に立てた気がしている。
その後もしりとりは続いた。真上で輝いた太陽は西に傾くまで談笑しながら時は過ぎ、半日もない時間は彼にとってどこまでも長く尊く感じられた。
前の状況では考えられないような平和で安心できる時間。変えようという気持ちは全てにおいて可能性を示してくれると実感させる。だが手を伸ばしても届かない現実があることには目を背けてはいけない。
彼は運がよかった。彼女と出会う事が無ければこんな日々を送ることなどあり得なかった。でなければずっとあのままだったろう。
「あー楽しかったね!でもまだまだ知識不だね」
「これでも結構勉強したんだからな、お前が知りすぎなの」
「私はそんなことないって、知ってることしかわからないよ?ただその幅が広いだけ」
「広すぎなんだよ!」
彼女は毎回彼の出す単語に一言加えながらしりとりをし、圧倒的な知識と無駄な豆知識披露で彼は手詰まりで負けた。それでも彼女との言葉を交わすことは楽しい。
「日も傾いてきたし、そろそろ帰る?」
「そうだな暗くなる前に帰ろう」
帰る場所がある。なんて事はないが迎えてくれる人いる、そんな当たり前の日々がいつまでも続けばいいと思っていた。
そのためにも歩みを止めてはいけない、日々を生きる術ではなく大切な人を守れる術を学ばなければいけないのだなと。
彼女のあの言葉を共に実現させたいから。みんなが笑顔でいられる世界の末に彼女が浮かべる表情を見たいと思ったからだ。
「ねえ、一つ質問。もし知ってしまったら後悔する真実があるならそれは言うべきだと思う?それとも後悔させないように言わないべきかな?」
「急にどうした?……まぁ後悔の度合いによるな」
「度合……か、もしそれが一生かかっても取り戻せない辛い現実だとしても?」
帰り道の途中、彼女はそんな事を聞いてきた。今まで前しか見ていないような明るい発言ばかりだった彼女から影を覗かせる言葉に少し違和感を覚える。
「取り戻せない……か。今までが生きるので精一杯でそんなこと考えた事なかったけどさ、知ってしまったら後悔する真実なんてないと思う。全ての真実は尊くてそれに嘘をついて隠した方が後悔になるんじゃないか?」
「……そうなのかな、だとしたら私は君に言わなきゃいけない事がある」
俯いて気持ちを抑えるために胸を押さえた彼女がそう告げた。表情は見えないが、ずっと言えないでいた胸の痞えを吐き出すように声は息詰まり震えている。
「あのね……私は君のことが好き!」
『好き』彼女が紡いだ一言にどれだけの想いが込められているか分からない。この事実がどうして後悔に繋がるか、彼はその気持ちを推し量れるほど彼女の心を知らないのだから。
「…………そう、なのか」
彼はどう返答していいのかわからなかった。正確には好きの一言から受け取れる解釈をどう自分の中で判断するべきなのか、彼女の伝えたい想いと齟齬があるのだろうか。そう考えると抽象的な言葉しか出なかった。
「こんなこといきなり言われたって戸惑うよね……」
「いや……突然で」
「でもっ、私は君が好きなの……私と一緒に時間を過ごしてくれる君が、前へ進むために努力する君が……。あの時君は恋をくれたの、ずっと……、ずっとこ気持ち伝えたかった……」
拙いながらに言葉を並べ、彼女は想い形作る。好きな気持ちに理由なんていらない、ただその人と一緒に過ごしたい。そう思う事が好きであることの証明であり恋なのだ、恋はするものではなく落ちるものと誰かが言っていた。
想いは目に見えない、だから形にして伝えなければいけない。その結果何を産むのかわかっていたとしても、気持ちを偽るほうが何倍も辛いのだから。
「気持ちは……伝わった。でもどう応えればいい?」
死ぬか生きるか、スラムでの生活にはそれしかなく、他人に対しての感情は無用の長物である彼にとって恋情とは最も遠い存在であり、彼女の言葉にどう答えを伝えればいいのかわからなかった。
「そうだね、私の事をどう思っているか……君の素直な気持ちが知りたい、かな?」
「……俺の気持ち」
その一言を復唱しながら自身の気持ちに問いかける。彼女からの言葉で少しづつ早鐘を打ち始めた鼓動がその答えだろう。今まで感じていた胸を締め付ける温度、それが彼の気持ちであり鼓動が彼女への返答だ。
「好きとか恋とかよくわかんねえけど。俺もお前と一緒にいたい……」
「……うん」
「曖昧だけど、俺はこの時間がずっと続いてほしい。お前といることが幸せで、俺の中の大切な何かだから。この気持ちが好きなら、きっとそれが恋ってことなんだよな……」
「紛れもなくそれは恋だよ。……お互いに同じ気持ちだったんだね」
彼女はそのまま黙り込んでしまった。相思相愛だとわかったのに、浮かない顔をしていた。お互いに好きだという事実が、好きだと告げてしまったことを後悔しているような表情。
「どうした?」
「とっても嬉しい事なんだよ……でもっ、でも私ね?」
「でも……?」
その表情が少しづつくしゃくしゃになり、涙を滲ませる顔を見て彼は彼女の告げた後悔の本当の意味を感じ取り口を噤んだ。
「あのね?ずっと黙ってたことがあるの」
「……黙っていたこと?」
黙っていたこと。それが後悔との因果を指す事実であり、取り返しのつかない真実でもあった。
「ごめんね……私もうすぐ死ぬの……。今生きているのが不思議なくらいな命、なんだ……」
「はは……なんだよそれ?」
「戦争でね毒に侵されたの。完全に人を殺すのに約10年かかる毒。……3日前がそのリミット……」
彼女の顔が大粒の涙でびしょびしょになる。この言葉が冗談でない事は言わなくてもわかる。
でもそんな事実信じられるはずがなかった。今までそんな兆候もなく、つも明るい笑顔を絶やさない彼女が死ぬ。
「……君を、傷つけるだけだから……死んでもこのことは黙っていようと思っていたの。この気持ちも残り僅かな命だという事も」
「……じゃあなんで!」
「私には……できなかった!この気持ちに嘘をつくのもっ!長くない命なのを隠すのもっ!それをしてしまったら君とは本当にお別れになっちゃうって……」
「……っ!」
その言葉は好きよりも重くのしかかった。お互いが好きだと分かったのに好きな人は数日後に命を落とす。そんな事実、受け入れられるはずない。
だが逆の立場の彼女はそうしなかった。気持ちを偽って真実を偽ることを選ばず伝えることを選択した。それが後悔する真実だとしても伝えなければいけないから。
「うっ、これを話せば絶対に……だから……逃げてた。うぅ……自分勝手でごめんなさい」
嗚咽の混じった声は所々言葉を掠れさせながら感情を表す。ずっと伝えられなかった伝えてはいけない真実。その結果が何を産むか、彼女自身痛いほどわかっている。
「君は今、こんなことを言う私に……幻滅した?」
「…………あぁ」
何も言えなかった。言葉は胸を張り裂くほど溢れるのに、喉で詰まって一つも形を成せない。
心は無数の感情の縄で雁字搦めになり、今の気持ちを明確には表せなかった。聞きたいことも言いたいことも、やりたいことも。止めどなく溢れ出す言葉と感情は行き場を失い彷徨った。そんな感情の坩堝の中でも変わらないものが彼の真意。
「……わかんねえよ……、なんで今言う言うんだよ?」
「今じゃなきゃダメだった……だって、後悔したくないんだもん……」
「違う!もっと早く言ってほしかった!お前が苦しいのに俺はそれに気づかなかった」
彼の言葉と感情の行きついた先はそれでも彼女と添い遂げたいという気持ち。彼女を失う、今までの思い出も、過ごした時間も温もりも。二度と戻ることがない。どんなに嘆いても、失うと分かっているのに何もできない。それでも彼女といてあげることが彼にできる唯一の事。
「なんで!そんな事言うの、私がどれだけ悩んだと思ってるの!君の事を思って、ずっと!」
「思うだけじゃ伝わらないんだよ!だから今こうして気持ちを伝えて初めて分かったろ?俺はお前のことが好きだ、たとえ明日死ぬとしてもこの気持ちに後悔なんてない」
「やっぱ君は変わったね、私も君の事が好き!死ぬことで君が傷つくのを恐れて悩んでたのがバカみたい」
何かの一線を越えたように気持ちの迷いが晴れた。好きな気持ちは変わることはない、それで十分だ。たとえ終わりがすぐに来るとしたも後悔のない日々を過ごしていけばいい。
「おう、だからずっと好きだいてくれ」
「うん!この気持ちはずっと変わらず君に捧げるよ」
彼女と目を合わせ笑顔を作る。泣き顔よりも何倍も素敵な笑顔が彼の心に消えない決意を刻んだ。それは彼女の言葉を必ず実現させることだ。
”どぽっ”
そして彼女は気張っていた体の力が抜けたのか、毒の侵蝕によって衰弱した体が悲鳴をあげ倒れた。多量の吐血と痙攣する全身は命の灯の最期を告げていた。
「ねぇ、私が死んだら君は悲しむ?」
弱々しく語り掛ける彼女は別途で横たわっていた。倒れた彼女を運び医者に診てもらったが体はも限界に寸前で死は時間の問題だろうと言われた。
「悲しくはない、お前が好きでいてくれるってわかってるから」
「そっか私は少し残念だな……もう君の温もりを感じることはできないもん」
死の淵ので彼女は何を思うのだろうか、生への固執、未練。または来世への希望的な観測。死の間際に彼女が望むことを彼は叶えてあげたかった。一瞬でも生きることが楽しかったと思う時間を延ばしたかった。
「輪廻転生って知ってるか?生きとし生けるものはまた巡ってこの世に生を受ける。だからお前が死んでも必ず会えるそう信じる」
「バカだねそんなのあるわけないじゃん、そうだとしても私は私じゃないから嫌だな。今の私じゃなければ来世で巡り合ったとしてもそれは恋じゃない。ただの運命という名の呪縛」
鼻で笑われ否定された。来世に期待するよりも今が重要なのはわかる、不確定な未来よりも確かな今が欲しい。
「天国と地獄。なんで人は死なないといけない場所を作ったと思う?善い行いをすれは救われ、逆に悪い事をすればその報いを受ける。行動を戒めることによって思想の面で真の平和を作り上げたいから?それとも生きることが辛いから死ぬことで苦しみのない世界に行けると、そう錯覚したかったから?」
その言葉は彼女が抱えた矛盾の全てを表していた。救済も断罪も、戦争や貧困もその発端を作るのはどちらも人間でる。善と悪二つが混在する時点で恒久の平和など不可能であり、苦しみからの逃避が死なのならば本末転倒だ。
知識を抱えればそれだけ答えが曖昧になる。生とは、死とは。目的なしに生きる価値を見出せず、また死も然り。他者と目的に相違があればいがみ合い、それが殺し合いに発展する。
「……生きることに意味なんてない。その価値を決めるのは自分自身で、死ぬときに満足だって思えれば俺はそれでいいと思う」
「答えになってないね、それは君の価値観。私はこの世界はどうして?って質問をしたんだよ」
「わかんねぇよ。今までの人だってみんながより良い世界になってほしいって思ったからじゃ……」
「その結果が今の世界だとしても?」
彼女は今までの彼女ではなかった。今までにない懐疑的で辛辣な態度は自身の死への恐怖と彼への想いのズレから生まれる感情の産物なのかもしてない。
「じゃあ今君は満足して死ねる!?ここで貴方の命はおしまいですって簡単に命を終わらせられるの?」
「あのな、」
「答えてよ!私に後悔しない生き方を教えてよ!君のことが好きでこんなにも死にたくないって思って、でももう死ぬのに私は何もできないでいて!沢山したいこともあったのにそれが終わりなんて嫌だよ!この世界が、私に死の期限を与えた戦争が憎い!」
感情の暴論。まだ生きていたいと思うから死がとてつもなく怖い。死ぬことを決めた戦争が憎い。まだ彼と一緒にいたい。ありったけの思いを吐き出し涙を流した。想いは彼女を支え、苦しめ今また心を締めつけた。
「私はどうしたらいいいの?どこで生き方を間違えたの?教えてよ私はどうしたら君とまだ一緒にいられるの?」
「……いい加減にしろ。だから死ぬ直前の人間は嫌いなんだよ!」
思いの丈をぶちまけた彼女に怒りではない感情が彼の今の言葉に結びつかせた。死と直面する度に向き合う感情。
「えっ?」
その怒声を聞きいて彼女は面食らった顔をしていた。
「死んだ先が何だ!?後悔したくない生き方がしたいだ!?戦争が憎いだ?甘ったれてんじゃねぇ!ひとは必ず死ぬんだよ、お前が死んだ後に俺だって死ぬ。何で全部終わったみたいな顔してんだ!後悔すんなら今できることしろ!俺と二度と会えなくなるってんなら今ある時間でできること全部してやるよ、だから死に絶望すんな……最後まで生きることを諦めんな……」
「うぅっ、最後まで君といたいよ……」
彼の言葉に込められた思いは有無を言わさず彼女に伝わっただろう。彼の願う事は共に生きること、たとえ死がふたりを分かつとしても思い続けている限り彼女は死ぬことはない。彼の心で生き続けるのだから。
「だから、今までみたいに笑ってくれ」
穏やかな笑顔と共に優しく抱擁をした。彼女はまだ生きていたいと溢れた涙で語り、己自身の儚さに慟哭した。
「ありがと……じゃあ、最後に私の願い聞いてくれる?」
「あぁ」
太陽のように明るい笑顔、ではなかった。明らかに無理をして取り繕っている作り笑い。一緒に生きたいと願っても体は叶えられる状態ではない、死は目前に迫っている。
「最後に私を愛して欲しい。それが私の望む最後の願い……」
濡れる頬を押し付け霞んだ声が染み込む。
愛。言わずもがなそれは形で表せることのできる愛。最後にしては行き過ぎた要求、でもそれでよかったのかもしれない。
「…………」
彼の唇が彼女に重なる。血色が悪く厚みもないのに彼には酷く扇情的で、重なる度にその心を揺さぶった。
「……っ」
舌が絡み、更に愛は熱烈さを増した。冷たく抱いていなければ凍ってしまいそうな温度も、細く容易く壊れてしまいそうな体も全て愛おしかった。これほどまでに心引き裂かれる愛を知らない、愛は惜しみなく奪うとはまさにこのことだ。彼の愛は彼女を貫き、花を散らす。
「こんな愛でよかったか?」
「うん、十分すぎるよ。ありがと」
「そっか……」
「私の想いは、君が死ぬまで私はずっとそばにいるよ。どんな形でも私が望んだ道だから……いつまでも君の事が好きだから、君の望んだ世界を……」
「いまさらそんな話……」
その言葉を最後に彼女はこと切れた。眠ったように止まった時は動くことは二度とない。別れとしてはあまりにも突然で最後の言葉と理解するまで時間がかかった。だが不思議と涙は流れず心に消えない傷をつけた。
「俺もずっとお前のことが好きだ」
彼は彼女に最後の口づけをすると………………。
っは!?
覚醒した意識は今が朝であることを知覚した。今まで夢を見ていたような気がするが思い出せない。断片的な情報しか残っておらず、どんな内容だったかも曖昧にしか覚えていない。
何の夢見てたんだっけ?確か最近やったゲームみたいな……あとすごい胸が辛くなるような。
夢はよほどのことが無ければ時間と共に掠れ、記憶の奥に消えてゆく。この夢もいずれそうなってしまうだろう。どんなに大冒険や恋愛をした夢を見ても夢は夢でしかない。何とも悲しい話しだ。
枕元に置いた携帯を開き現在の時刻を確認する。✕月◯日(土)午前9時48分、平日なら余裕で寝坊している時刻だ。
布団から出て休日に何をしようか考える。今は特にしたいこともなく怠惰をむさぼることが休日ですることだ。
本棚には先週打ち切られた漫画『魔法侍 まじかる武蔵』、昨日プレイしていた『新世紀革命テロリスト じゃすてぃす武田』。音楽プレイヤーには寝る前に聞いたルパン三世のテーマや蝶々夫人の履歴が残っていた。
それらを見ていたら夢の内容を少し思い出しそうだったが、既に記憶の海に飲まれ概要さえも把握できなかった。
ぼんやりと漫画や小説を読みながら時間が過ぎる。恋愛小説を読むと恋愛がしたくなる、同じ日の繰り返しでできた日常には刺激が足りないと思うが職場は恋愛できる環境ではないし、かといってそんなに人脈があるわけでい。
そんな事を思いながら日々は過ぎていくのだった。
どうしようもない日々は無為に過ぎ、そして何事もなく終わっていくのだろう。
「結局自分が何をしたい不鮮明でやりたいことも分からずに流されていくのかな」
溜息のように口から言葉が零れ、時間は午後に入っていた。
ピローン!
不意に携帯の通知音が鳴り誰かからのメッセージを表示する。その主は高校の先輩で暇だから遊ぼうというものだった。
特に予定もないのでそれを了承し、外出する。休日は一度も外に出ないのだが久しぶりに街に行くような気がした。毎日職場と家の往復でつまらなかったがたまにはこういう事もいいだろう。
外出の準備をしている中鞄に一冊の小説が入っている事に気付いた。タイトルは『二度と会えない君に伝えなきゃいけない想い』。
職場の休憩時間に読み進めていた小説で、その切ないストーリーと辛すぎるラストに涙をこらえて読んだ覚えがあった。
小説ねを手に取るとページをめくり内容を思い出す。記憶が蘇り目頭が熱くなる、こんな恋ができたらなと思うが現実にはそんなものは無い。夢物語でありながら現実に等身大の目線んだからこそ共感できて心を揺さぶる。
読んだ後に自分のこんな素敵な人になりたいと思って何もできずにいた事を思い出すと少し恥ずかしくなる。
それでも自分を変えるには行動しなければいけないのだなと実感する。
淡い希望を持ちながら毎日が少しでも楽しいものになってほしいと願って小説を本棚に戻す。
「じゃあ、自分も変わるために頑張りますか!」
具体的に何をしたらいいのかなんてわからない。でもあがいて掴み取れた方が楽しいと思う。そんな結果につながらない努力でもしたことに後悔はない。
そんな三歩歩けば忘れる覚悟をもって家を出た。
読んでいただきありがとうございます。
まさかの夢オチでしたね、なぜこんな結末になったのか?それは私にもわかりません!
少しでも読者様の何かに慣れたらと言う事で深いことは気にしないでください!
一条人間の次回作にこうご期待!