第97話 グラデツの戦い
ーーーグラデツ市街中央 カール橋
バーベンベルク軍 前線陣地
カール橋は現皇帝のカールが誕生した記念で建造された橋であるが、当時は皇位継承権から物凄く離れていたこともあり、誕生した頃は記事も大きく取り上げることもなかった事もあり、カール橋は地味で素朴な見た目である。
だが、この地味で素朴な橋は清貧で優しい国民思いなカールを写しているとも言われている。
この橋は街の中心部にあり、近くには教会や博物館、公園などあるが、橋の近くにはカズトとヴァイスが訪れたアオイと再会した小さな丘があり、その丘の頂上にはエステルライヒの前線司令部がある。
カール橋のみならず、すべての橋には機関銃が設置されており、機関銃の両脇には土嚢や木箱、そして近くの農家から馬や人をを渡れない様に有刺鉄線を全体的に設置した。
案の定、バーベンベルクのエルフは橋を渡ることが出来ず、遠方や建物の陰から隠れながら機銃手に向けて発砲していた。
「クソッ、機関銃なんぞ役に立たないお荷物だと思っていたが、確かに市街地の橋や道の真ん中で構えれば逃げ場は無い。更に有刺鉄線で引っ掛かるから馬や我々での白兵戦は不可能に等しい………」
バーベンベルクの司令官である俺は歯を食い縛りながら対岸を越える事が出来ないことにイライラを募らせている。
「だが、これらの機関銃との戦いは逐鹿連隊の突撃で勝った記録がある。彼らが出来るのなら我々エルフにだって可能だろう!それに後方部隊の魔導隊の攻撃も効いている………ん?そういえば支援魔術の攻撃が止んでないか?」
私は後方からの魔術による攻撃が止んでいる事に気づく。
私は不思議に思い、すぐに伝令係を呼ぶ。
「伝令!伝令係は誰だ!!」
「はっ、私です!」
「すぐに魔石無線で連絡しろ!!何故後方支援の攻撃が止んでいるのかを」
「はっ、承知いたしました!」
私は部下に命令し、魔石無線で連絡する。
エルフ社会では魔石を中心とした魔科学を発達させており、魔石無線は魔石を真空管代わりに使用し、連絡している。
この世界では科学技術による無線機はまだ実用化されておらず、有線による電話の様な有線が一般的である。
ただ難点は魔石から放たれる電波の範囲が短く、約1キロメートル程の距離しか繋がらない難点がある。
なので、途中途中に送られた魔力を強くする為の中継魔石を設置する必要がある。
伝令係はすぐに魔石無線で連絡を始める
「こちら前線部隊、後方部隊の攻撃が無いが異常発生したか?どうぞ」
だが伝令係は話すが、無線からは何の返答も無い。
「後方部隊、応答しろ!」
そう伝令係が叫んだ瞬間、微かに声が聴こえるようになる。
「………あー、こちら後方部隊。すみません、すぐに攻撃を開始します、どうぞ」
「まったくすぐに返答をしろ。何者かにやられたと思ったではないか、とりあえず魔法を放ってくれ」
「了解しました!」
伝令係は無線を切ると、すぐに俺に伝える。
「すぐに支援魔術の攻撃を行うそうです」
「そうか!だがこのまま突撃は厳しいな………誰か光魔法の使える奴は居るか?」
俺がそう叫ぶと、一人の兵士が俺の元にやって来る。
「司令、私は光魔法を使えます!」
「よし、ならば敵の機関銃に向けて閃光弾を放てるか?」
「はい、問題はありません。ですがあちらも我々の魔法の対策はしていると思われます」
「ふむ、確かに我々も敵と同じく元はノリクム連邦の軍だからな………」
そう私が声を発した時、地面が少しずつ揺れが激しくなり、ドドドドと轟音を響かせながら近づいてくる。
ゆっくりと音が聴こえる後方を見てみると逐鹿連隊が走ってくる。
「司令!逐鹿連隊です!援軍です!!」
「やったぞ!これで俺達の勝ちだ!」
エルフ兵は逐鹿連隊を見た途端、エルフ兵は腕を上げながら大きく振り、そしてとても喜んでいた。
だが司令官は逐鹿連隊の動きに懐疑的に感じる。
何故、逐鹿連隊はアオイという指揮官不在で進撃をしているのか………。
すると司令官は近くにいた女エルフ兵のローゼ少尉を見つける。
「ローゼ少尉!」
「大佐殿、ど、どうされましたでしょうか?」
「アオイが捕まっているから逐鹿連隊は来ないはずでは?」
「そうだったはずですが、他にもオーグどもが居ますし彼らのどちらかが司令官になったのかもしれません」
すると逐鹿連隊は銃を構えながらこちらを向く。
それを見た司令官は周りの兵士に咄嗟に叫ぶ。
「す、すぐに防御魔術を展開しろ!」
「ど、どうしてです!?」
「良いから早くーーー」
司令官がそう叫んだ瞬間、逐鹿連隊による一斉射撃が行われる。
防御魔術を行った一部の兵士は怪我は無かったが、逐鹿連隊による射撃で十数名が即死、もしくは怪我をする。
「畜生!獣どもが………騎兵には統制射撃の方陣になれ!急いで固まれ!!」
司令官がそう叫ぶと、ローゼ少尉がすぐにそれを制止する。
「それは危険です大佐!一つに固まれば機関銃の餌食になります!!」
「言われてみれば確かに………仕方ない、カール橋からの進撃は中止!左右に分散し、敵の左右双方、路地から攻撃を加えろ!!」
「「「はっ!!!」」」
エルフ兵は左右に分裂を始めたが、カール橋以外の左右の橋にも軍を送った。
だが、両方の橋にはエステルライヒ軍の機銃と少数の兵しかおらず、バーベンベルクの兵の死体すら無かった為、バーベンベルク軍は中央のカール橋への一斉攻勢と考え、左右の逐鹿連隊は中央のカール橋へと集結していた。
エルフ兵はすぐさま発砲するが、逐鹿連隊も幾度の地獄のような戦場を駆け抜けた者の精鋭、エルフ兵からの銃撃には動じなかった。
左右からも逐鹿連隊が向かってきた事で数日前の逐鹿連隊のエステルライヒ軍にも対する突撃の恐ろしさを知っているバーベンベルクのエルフ兵はその場で立ちすくみ、降伏を懇願する。
「降参だ!殺さないでくれ!!」
「俺達は武器を捨てるから非戦闘員だ!だから頼む………」
しかし逐鹿連隊は彼らの降伏を無視した。
一部の逐鹿連隊の鹿人はエルフからの恥辱を受けた者もおり、また逐鹿連隊の出身国である扶桑皇国ではエルフ種の勇敢さ、死を恐れない精神、戦場で死ぬことこそ誇りであるという話が伝わっていた。
「奴等はエルフは誇りある種族だ!奴等に名誉ある死をさせてやれ!!」
死を恐れない話とは違うこと、そして彼らに失望した逐鹿連隊の一方的な虐殺が開始した。




