第96話 魔力車
アオイは地図のとある部分を指で丸をつけ、敵軍の位置を俺達に伝える。
「とりあえず我々の軍は近くにいる後方支援部隊を倒してから、前線部隊の敵を倒します」
「後方支援部隊ってのがあるのか?」
「当たり前ですよ!バーベンベルクの後方支援部隊は魔導隊による遠隔魔術攻撃です。普通は大砲などで前線を支援しますが、エルフ族は魔術と砲撃、もしくは魔術だけの支援攻撃を行うそうです」
そういえば言われてみればエステルライヒの軍にも砲兵隊ど魔導隊が居たけど、やっぱりバーベンベルク軍にも居るのか。
確かに微かに銃撃音や爆発音が聴こえるが、砲撃音が聴こえない。
銃撃音も少ないから既に始まっていた戦いの事を忘れていたわ。
「じゃあ、まずは後方部隊の襲撃を行うとして白兵戦とかをするのかな?」
「そうですね、後方支援部隊は近接攻撃は苦手なので突撃は相手側を混乱させることが出来るのでそうしましょう。問題は前線のある市街地です」
アオイは難しそうな顔をしている。
市街戦って一般的なイメージがあるけど、考えたら現代が多いイメージがあるな………。
機関銃とか使わない頃を考えたら、要塞や平原などで戦闘が普通なんだろうな。
どちらかと言うと草原などの平地や山岳などの山地、あとは森林とかかな。
「やはり市街地は戦いとしては大変なのか」
「そうですね、市街地での戦いは最近でも我が国ではありましたが、西洋の街並みでの市街戦は我が国の軍では初となるでしょう」
「でも仲間のエステルライヒ軍は正面から機関銃で戦っているし、後ろから突撃奇襲したら問題ないのでは?」
俺がそう言うと、アオイは唸り声を上げながら腕を組み悩んでいる。
「後方支援部隊にも通信兵が居るはずですし、奇襲は難しいかもしれないです。それに細い路地では銃などの飛び道具を避けることも出来ず、勝つことはできますが、犠牲者は甚大でしょうね………」
「避けることが難しいなら、交差点などで隠れながら発砲や、交差点か広場に誘い込んで囲んで一斉に発砲とかどう?」
アオイは俺の発言に軽く頷きながら、再び地図を見て、川に注目する。
街の中心には川が表示されており、その街の中心地に存在する橋は3つある。
「ふむ、確か街の中心に流れの速い深い川があるので渡河は難しい。推定では我々の本拠地のあるこのケプラー、カール、テケトフ橋の機関銃にバーベンベルクの兵士が集中しているかもしれません」
すると何故かマルクスが近づき、アオイの持っている地図をじっくりと見つめる。
「どうしました、マルクスさん?」
「いや、撤退した兵士はどうしたかと思って」
そういえばパールに即席の機関銃部隊と少数の守備兵を作らせて、それを前線に立たせ、パール率いる大部隊を撤退を装っている。
まだマルクスには説明してなかったし、伝えるべきだな。
「一応、パールとかの大軍は撤退してないよ。遠回りしてバーベンベルクの兵士の左右の双方向から発砲する予定だ」
「そんな事したら多分バーベンベルクの奴等も混乱するし、撤退すると思う。だからそこに後方からマスターとアオイ様が率いる逐鹿連隊を襲撃すれば良いのではないのですか?」
………確かに双方からの侵攻はパニックになるし、撤退する可能性はある。
その撤退に襲撃したら投降してくれるかもしれない。
だが、そんなに上手くいくかは分からない。
どこかの場所が崩れれば、そこから敵が逃げるかもしれないし、まさかの敗北になるかもしれない………。
まあ、逐鹿連隊が約1500人、アオイの部隊だけでも500人ぐらい居るし、エステルライヒ軍を再編すれば、また進軍は可能性かもしれない。
「よし、それで行こう」
「そうですね、敵を殲滅してやりましょう!」
すると一人の鹿人が走ってこちらに近づく。
「アオイ様!先程敵の司令部で魔力車を見つけました」
「そうか!では私が使おうではないか」
鹿人に案内してもらうと、古風な黒色の小さい魔力車がそこに置かれている。
埃が被っているなど長い間放置されている様子でもなく、まるで製造されたばかりの新品同様な自動車だ。
「ふむ、軍用車ではないな。頑丈ではないがまあ良いだろう。ありがとう、君は早く持ち場に戻ってくれ」
「はっ!!」
鹿人は敬礼をし、すぐにその場から去った。
アオイは魔力車のドアを開けると同時にこちらを振り返る。
「カズト様とヴァイスさん、マルクスさんは後部座席に、レナさんは助手席にお座り下さい」
「分かった、ヴァイス、マルクス早く乗ろう」
「えへへ、カズト様の横なのです!」
アオイがチョークレバーを引き、魔力を流し込み、鍵を回して車のエンジンを掛ける。
俺とヴァイス、マルクス、そしてスラは車に乗り込み、アオイはエンジンを掛け、出発する。
「急いで前線に向かうからしっかり掴まって下さいね!」
そうアオイが言うと彼女はアクセルのペダルを強く踏み、前線へ向けて一気に加速する。




