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転移転生者が嫌われる世界で俺は成り上がる!  作者: ヨッシー
第3章 エスターシュタット戦争
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第94話 判断

 俺はオウドの辺りをよく見ると、彼の足元には胴体や首が真っ二つにされた死体が幾つか転がっており、オウド自身も鮮血で顔から足の先まで染まっている。


「遅かったですねカズト殿。とりあえず入口前の兵士は片付けましたよ」


 オウドは平然とした表情でこちらに対して淡々と話す。

 スラは周りの光景を見ていないのか、元から無表情だからか、特に驚くこともなく、オウドの言葉に対して頭を下げ、そして感謝する。


「事前に敵を倒して下さって感謝致します、大尉。ですが余りにも散らかり過ぎではないだろうか?」


 するとオウドはスラの発言に鼻で笑う。


「仕方ない。奴等の弓で狙われれば殺られるから撃つ前に一瞬でバラバラにしたまでさ。それにこやつらの死体は後でその辺に埋めればよかろう。機械人形の分際で人間の死体を気にするとはな………」

「ええ、機械人形ですとも。それが何か?機械人形が死体を気にしてはいけないのですか?一応ここにある死体は適切な墓地に埋葬します」


 オイオイオイ!何だか場の空気が不穏になってきたぞ………。

 とりあえずここは穏便に済ませないと。

 すると一人のエルフが欠伸をしながら城から出てくる。


「フワァ………あれ?オウド様、何故こんな所に………って何だこれは!!」


 エルフはオウドが犯した惨状を目の当たりにし、城の中に戻ろうとする。

 その瞬間、スラがそのエルフの襟を掴み、地面に叩きつける。

 エルフは地面に叩きつけられた衝撃でその場でもがき苦しみ、しばらくは立たない。


「き、貴様ァ!う、裏切り者めッ!!」

「裏切り者で結構だ、とりあえず死んでもらおうか」

 

 そう言って持っている大太刀を振りかぶり、エルフに切りつけようとする。


「待て、殺すのは止めろ!」


 俺はオウドにそう言って制止させようとする。

 そう俺が言った途端にオウドの大太刀はエルフの首の近くで止まる。


「何故殺してはならんのだ?コイツらは捕虜に関する条約に参加していない国民だ。彼らの命は戦場に参加している時点で死を覚悟しているんだ」

「だからって、既に戦闘状態ではない奴を無下に殺す意味があるのか?それに我が国が戦争に勝てば彼らは将来我が国の国民になる。もし虐殺でもすればエルフとダークエルフ、そして君達、鬼や鹿人に対する恨みが起きる可能性だってあるんだ!!」

「フン、この地域の治安が安定すれば我々逐鹿連隊は帰国する。滞在期間中の恨みなど痛くも痒くも無い」


 そうオウドは言って再び大太刀を振りかぶろうとする。

 俺はすぐさまスラから貰った拳銃をオウドに向ける。


「待てオウド!そいつを殺すとお前を撃つ!!今すぐに刀を下ろしてそのエルフを捕縛しろ!!」

「主様!銃を下ろしてください!オウド大尉の意見にも一理あります!」


 スラは俺が銃を取り出した瞬間、そう叫ぶ。


「いやダメだ俺はこのエルフを見過ごす事は出来ないから、その意見には反対する。さあ、刀を納めろオウド!」


 俺はそう叫ぶが、オウドは刀を振りかぶるのを止めない。

 俺は覚悟を決め、引き金に指を掛ける。

 すると突然、アオイがこちらに走って来て、俺達を止めにやって来る。

 アオイは左手で拳銃を持っている俺の右腕を掴み、右手でオウドの大太刀を刀で食い止める。

 拳銃は発砲したが、アオイが掴んだことにより空の方へと弾が飛んでいく。


「何をしているんですか、二人とも!」


 アオイは俺とオウドに対して鋭い眼光で睨みつける。


「オウドがそこに倒れているエルフを殺そうとしたんだ、だから俺はーーー」


 俺がそう言ってる途中でアオイは深い溜め息を吐く。


「カズト様、このエルフを守りたいのは分かりますが、それは愚かな行為でございます。ではこのエルフを助ける為にオウドが死んでも良いという理由は余りにも間違っております」

「だけど………確かにそう言われてみればそうだ、俺はとんでもない事を犯そうとしていた、すまなかった」


 俺はあの時に冷静さを失っていたかもしれない。

 アオイの言う通り、エルフを守る為にオウドを殺すのは本末転倒だ。

 俺はすぐにオウドに頭を下げる。

 するとオウドは俺に対して鼻で笑う。


「アオイの言う通りだ、とりあえずこのエルフは殺そう」

「それも違いますよオウド、ここは扶桑と敵対している国家ではない。治安維持軍は出来るだけ危害を加えないようにするのです。それにこれは陸戦条約に違反しているんですよ?まあ脳味噌が筋肉で出来ているオウド様には理解できないかとは思いますけどね」


 おい、今アオイがオウドを蔑まなかったか?

 今、脳筋って言った様な………。

 するとオウドは呆れた表情でアオイを見る。


「貴様、馬鹿なことを言うなアオイ!ここは戦場なんだぞ?戦場での殺人は合法だ!!」

「だがカズト様が殺すなとそう仰っているし、我々は陸戦条約に参加している。私はカズト様の言う通り、無下に兵士を殺すのは反対である。私達には大勢の逐鹿連隊が居るし、しかも精鋭だ。鹿人の数人が捕虜の監視などしても造作も無いことでしょう?」


 オウドはアオイの発言に不快そうな顔をしたが、溜め息を吐いて大太刀を鞘に直す。


「とりあえずアオイの意見は聞き入れてます。だが私は反対だ。脱走されて情報でも漏れたり他の捕虜と結託し、暴れられたら堪ったもんじゃないのでな」


 そうオウドは言いながら腕を組み、不満な態度を見せている。


「その助命しない発言も陸戦条約に違反していますよ、オウド」


 アオイはそう言うが、オウドはアオイの発言を無視し、返事を返さなかった。

 アオイは軽い溜め息を吐いて、心を落ち着かせる。


「では、その捕虜を縛ってーーー」

「お、俺はまだ降伏してないぞ、オーガどもが!!」


 アオイは耳をピクリと動かし、捕虜の方を見る。


「貴方は捕虜ではなかったのですか?」

「ああそうだよ!俺は捕虜になるとは言ってねぇよ!!こいつが勝手に捕虜にすると言ったんだ!!」


 そう言って彼は胸のホルスターから拳銃を取り出し、引き金に指を掛け、俺に対して発砲しようとする。


「死ねニホンジン!皇帝のお前が死ねば戦いが終わるんだ!!」

「………そうですか、それは残念です」


 そうアオイは言って鞘から刀を引き抜く。

 そしてアオイは声を出しながら下から刀を振り上げる。


「降伏すれば良かったものを………剣技、『氷華一輪(ひょうかいちりん)』!!!」


 そうアオイは叫ぶと、そのエルフはアオイの行動に驚き、両腕を顔と身体を守るように防御体勢を取る。

 だが、特に何も起きない。


「ハ、ハハ、驚かしやがって!何がオニだ!まずはお前から殺してやるッ!!」


 エルフはニヤリと不気味な笑みを浮かべ、拳銃を俺ではなくアオイに向ける。

 すると突然地面から氷のトゲが急に現れ、その氷のトゲが一瞬にしてエルフの身体にグサグサと刺さり、様々な身体の部位が氷で貫いている。

 頭部と四肢に全て氷のトゲが貫かれている為、エルフはすぐに息絶える。

 そして彼が持っていた拳銃はポロッと手から落ちる。

 アオイが開花させたトゲのような氷の華はエルフの血で真っ赤に染まっている。

 するとアオイはこちらの方を向くと、突然俺の胸ぐらを掴む。

 アオイはまるで鬼のような形相でこちらを見つめる。


「カズト様、貴方の行った行為は偽善、いや偽善以下の行為です!捕虜は相手から降伏してきた場合の人を言うのです。そんな戦意のある奴を助命ししてもその人は捕虜ではありません。もしこんな事で仲間を殺すような事があれば私は貴方が皇帝陛下であっても貴方を殺します。それ相応の覚悟を持って行動し、判断してください!!」

「わ、分かったよ………すごく反省している」


 そう俺は言うとアオイは冷静になり、すぐに胸ぐらから手を離し、そして頭を下げる。


「先程の言動、大変失礼致しましたカズト様。ですが、今のは私の本音でありますので覚えておいて下さい」

「いや、俺に対して叱ってくれたのは正しいから頭を下げないでくれ………ありがとうアオイ」


 確かに何であの時にオウドに銃を向けたのかが分からない。

 逆に考えると、この世界に来てから人を殺めることが躊躇い無く行っている。

 元の世界ではそんな事が無かった自分に畏怖している。

 俺はオウドの方を見て、すぐに先程の発砲未遂に関して頭を下げる。


「あの時は申し訳なかった、人を助ける為にオウドを殺すような事をしてしまって………」


 するとオウドは俺の頭を上げさせ、首を横に振る。


「もう十分です。カズト殿からの謝罪をしてくれたのであれば、私は恨みや怒りなどはもうありませぬ」


 俺はバカな奴だ。

 こんな奴を殺して、一体俺は何をしようとしたんだ………。

 次からは私はこう見えて皇帝なんだ。

 ちゃんと判断をしないといけない。

 でなければ、立派な指導者になることが出来ないからな………。


「まあ、俺がこんな拳銃の弾ごときに死なないがな」


 オウドは鼻で笑いながらそう言うと、アオイは頷きながら「確かに」と呟いた。

 だから怒らないというかそんなヘラヘラとした態度を取れるのか。

 すると後ろからスラが近づき、俺の左肩に右手を乗せる。


「主様、もし戦争に勝てる事が出来れば宮殿に帰ると同時にセバスと一緒に軍事訓練いたしましょうか」


 スラの無表情に隠れたワクワクな雰囲気を凄く怖くなり、鳥肌が立った。


「とりあえず城の中に入ろうとは思いますが、先程の騒ぎで奴等は城内で臨戦態勢で構えている可能性があります」

「了解……」


 すると突然スラが何かに気付いたのか、俺達に静かにするように人差し指を唇にくっ付ける。


「皆様静かに、誰かが入口に近づいてきます」


 そう言われ、静かにすると城の屋内から入口にゆっくりと誰かが近付く靴音が微かに聴こえる。

 そして屋内から誰かの声が聞こえる。

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