第89話 エルフの弓
ーーーエステルライヒ帝国とバーベンベルク王国の両国が戦闘状態に入ってまもなくして、カズト達はバーベンベルクの前線基地近くに到着する。
「あれがバーベンベルクの前線基地か………」
奥には宮殿…というより少し小さな屋敷みたいなこじんまりとしたお城が見える。
その門には二人のエルフが監視をしている。
スゲェ……今までダークエルフに囲まれていたから、一昔前の渋谷にでも迷いこんだのかと勘違いしてたけど、バーベンベルクの基地は洋風で弓を構えたエルフが沢山居るのは異世界感あるな………
「………やはり侵攻が開始してますね、これは」
スラはそう呟くとアオイもその言葉に頷く。
俺はどこを見ても理解する事が出来なかった。
「えっ!どこで分かるの!?」
「警備兵が魔銃を持った兵士ではなく弓兵になっています。場所によって違いますが、この地域のエルフは基地内のエルフが多数居なくなれば警備兵を弓兵にします」
「………ん?なんで装填の早い銃を持った兵士ではなく弓兵が警備員なんだ?おかしくないか?」
「それは……あっ、今何かに狙いをつけましたよ」
そう言って警備兵のエルフを見ると物凄い早さで弓を構え、矢を装填し、弦を引く。
すると矢を何故か適当な方向に射る。
「おい、適当な所に矢を放ったけど……」
そう言った矢先、いきなり矢が変な方向を向き、地面に矢が打ち込まれる。
「オーイ!捕まえたぞ!!ウサギだ!後でウサギ鍋にしようぜ!」
そう弓兵が他の警備兵に叫ぶと、他の警備兵から拍手が聞こえた。
するとスラは無表情のまま、溜め息を吐く。
「………呑気ですね、ですが我々の兵士では無かった様ですね。すみません、説明の途中でしたね。エスターシュタットのエルフは一撃必中が得意でして狙いをつけた敵にはどんな方向に射ても確実に敵に致命傷を与えます」
「………え、いや待って?エルフ強すぎない??逆にそんな弱点は無いの?」
「ありますよ、エルフは火が弱いので火炎放射器や火属性の魔法でもぶちこめば驚いて逃げますよ。あと魔銃は弓とは違って一撃必中とはならないそうです」
「そ、そんな火炎放射器なんて所持してないぞ!それに避けられないじゃんか!どうやってあの基地に入るんだよ!!」
するとアオイが俺の後ろに回り、両手で俺の口を無理矢理閉じる。
すると背中にモチモチとした大福のような柔らかくて弾力のある胸が頭を包み込む。
「カズト様、静かに!!今は叫ばないで下さい。とりあえずあちらの方にも入り口があるのでそこから入ります」
嗚呼、何だろうこのモチモチとした胸枕めっちゃ好き。
もう戦場のど真ん中でも、立ったままのこの体勢でも良いからこのまま眠りたい………。
「カズト様、早くアオイ様から離れて下さい!」
そう言ってスラは俺の腕を掴み、アオイの胸から俺を引っ張り、解放する。
まさか俺の事がそんなに気になってーーー
「まだ私はアオイ様を信用しておりませんから、カズト様は彼女に接近しないで下さいませ」
「あっ、はい………」
まあ、そりゃそうだよね。
スラが俺の事を気になるような要素無いどころか無表情だし………。
「とりあえずアオイが言ってた違う場所にある入り口に向かおう。アオイ、案内任せるよ」
「はっ、承知いたしましたカズト様」
そう言って俺達はアオイに先導されて、 もう一つの入り口へと向かった。




