第85話 機関銃
「私の手錠を外してください」
そう言ってアオイが手錠で繋がれた両手首を前に出すと、周りに居た士官などから反発を受ける。
「ふ、ふざけんなオ……デーモン風情がッ!そんな事言って逃げたり、俺達をこ、殺したりするんだろ!?」
へえー、オーガ以外の呼び名を初めて聞いたが、デーモンという呼び名の方が正しいようだな………たしかデーモンって鬼って意味があったはず。
すると士官達の言葉を静かに聞いて、アオイは無表情でこちらを見ながら話す。
「私はもうカズト様やカズト様の国民に手は一切出さないことを約束する。私は今までバーベンベルクに対して何回も嫌悪感を抱いていました。それに私はカズト様がこのエウストリを治める者だと前から考えております故、私はカズト様に仕えたいと思っております。ですから皆様何卒……何卒よろしくお願いします………。」
そうアオイは言ってその場で正座し、手を差し出したまま頭を下げる。
いわゆるみんなの前で土下座をしている。
俺は彼女を可哀想に感じ、アオイをすぐに立たせようとする。
「止めろアオイ!仕えたいのは分かったから頭を上げて早く立ち上がってくれ!!」
俺がそう言っても、アオイは頭を上げない。
まさか、アオイが周りに認められないといけないのか!?
とりあえずパールに認めさせてもらおう。
「パール、アオイを俺の部下にしても構わないか?」
「えっ!?いや、まあ、陛下がそう言うのならば私は異議はありませんが………」
よし、パールは許してくれた。
問題はスラに認めさせなければ良いのだが………
「ええ、私は構いませんよ、もしこの女が暴れる様な事があれば私が止めますので」
スラが実質的にアオイを認めてくれたので、土下座したままのアオイの耳元に伝える。
「という事だから解放するよ、アオイ」
するとアオイはゆっくりと頭を上げて、目を大きく開けて驚きながら感謝をする。
「ありがとうございます、カズト様」
「良いよ良いよ、とりあえず手錠外すから誰か鍵を俺に渡してくれ」
俺がそう言った途端、テント内に居たほとんどの兵士や将官が震えながら怖がり、近くの物に隠れたりしている。
「何で隠れたりするんだ?アオイはこう見えて優しいんだぞ?」
「『こう見えて』ってどういう意味ですか、カズト様?」
アオイは微笑みながら傾げ、こちらを見ている。
アオイの笑う表情は少し怒っている感じで怖い………。
するとパールがこの状況を説明する。
「三日前に鬼と鹿の獣人による一斉突撃に恐怖を覚えている兵士も少なからず居ますから仕方ありません………」
そういえばアオイは確か鹿人を集めた連隊、逐鹿連隊の総指揮だったはず。
つまりアオイの攻撃は敵にとても恐怖を与えた事が分かる。
とりあえずアオイの手錠を外そう。
するとパールが俺に鍵を渡す。
「………こちらになります、陛下」
「ありがとうパール………本当に開けるぞ、アオイ」
「ええ、構いませんよ。私はカズト様からは絶対に逃げません」
アオイはそう言い、俺は軽く頷き、そして手錠の鍵を開ける。
手錠を開け、アオイは立ち上がり敬礼する。
「本日付で私、アオイはエステルライヒ帝国の大扶桑帝国から来た義勇兵として頑張らせて頂きます、よろしくお願いします!」
すると怖がる一部の将官や兵士はアオイにゆっくりと近付き、歓迎する。
「よ、よろしくお願いします。あ、アオイ………」
「あ、階級を言い忘れてました。自分は大佐です」
「私と同じ大佐でしたね、それはすみませんでした」
「ご存じでしたか、貴方も大佐でしょう?それならば仲良くしましょう!とりあえず私は作戦会議に参加しても構わないのでしょうか?」
アオイがそう言うと、パールは苦渋の顔を見せる。
「………アオイさん、大変申し訳ありませんが我々はそこまで貴女を信用してないので、作戦会議に参加出来ないことをお許しくださいませ、情報を聞き出すのはまた後でとする」
「まあ、それは当たり前ですね。分かりました、とりあえずお外でお待ちします」
アオイは軽く頭を下げ、テントから出る。
パールは敬礼し、アオイの行動に感謝する。
「ありがとうございます………とりあえず作戦会議を始めよう。」
アオイが去ってから他のダークエルフは安堵するような表情を見せ、作戦会議を始める。
まず最初にパールが発言し始める。
「とりあえずスラ様が持ってきてくれた様々な兵器の中でとても興味深い兵器を見つけた、機関銃だ。少し前にあったフーサンとノヴゴロド帝国が争った戦争では機関銃をノヴゴロドが使用していた、フーサンは要塞を落とすために大規模な突撃を敢行したが、ノヴゴロドの機関銃でバタバタと倒れていた。最終的には要塞は陥落してしまったが、突撃には効果はあると思う………ありがとうございます、スラ様」
「いえ、その機関銃を持ってくるようにと仰ったのはカズト様で御座います」
………あれ!?俺、そんな事言ったっけ?
あっ!確かに機関銃を使用しようとは言ったが、マジで採用されたのかよ。
するとパールは満面の笑みを浮かべ、こちらに対して上機嫌に話す。
「おお、流石ニホンジン!あの時の戦場で私は観戦武官として参加していたんだよ。あの場に居た大半の軍人は突撃こそ素晴らしいと仰っていたが、陛下は私と同じ考えを持っておられたか!」
「ええ、まあ、ありがとうございます」
多分、この世界では世界規模な戦争……は数日前まではあったけど、実質ゲルマニアとエトルリアの戦争だったということだし、市街戦が中心の戦いだと考えるが、あの町の物資にはジープは有ったが、機関銃どころか戦車や装甲車が無かった。
つまりまだ機関銃が不要の長物だと考えられ、自動車は生産されているが、大規模ではない世界だと考える。
つまりこの異世界の戦争技術は俺の世界での第一次世界大戦以前と考える。
となれば………。
「市街戦の通りや前線の町の真ん中に流れる川沿いに機関銃を設置して、歩兵によるゆっくりと前進を行う。そして被害が出れば、機関銃のある場所に撤退し、一斉射撃を行う!どうだ?」
俺がそう言った途端、周りは口を空けて呆けている。
そ、そんなに俺の考えた作戦が悪いのか………。
す、すると、一人の将官が突然拍手をする。
「す、素晴らしい作戦だと思います。貴方が来た当初、奇襲による突撃は余りにも戦争に慣れてない、ニホンジンが強すぎるから大丈夫と考えるニホンジン的な作戦だが、私はこの作戦に関してはとても良いと思います。市街戦では自由に動ける歩兵による攻撃も良いと思いますし、待ち伏せも通りは逃げる場所がありませんから効果的だと考えます」
「私もありよりのありです」
「俺も異議無し!」
ダークエルフの兵士や将官は何度も頷きながら、こちらを見る。
俺が来たときの様な冷遇な対応をとる奴等はこの中に誰も居ない。
「なら、陛下の作戦で戦うとしますか!」
「「「おけまる!」」」
すぐさま馬車や他に持ってきた武器や兵器を機関銃を運びだし、全ての通りにバリケードを固め、そのバリケード中央に機関銃を置く。
大規模な歩兵による前進は今日は遅いから明日の早朝に実行することを決めた。




