第68話 裏切り者
バーベンベルク王国
首都 オエニポン―――
オエニポンはエスターシュタットの西部に位置する街で、ノリクム帝国の頃は避暑地として宮殿が置かれている。
この街の近くには巨大な鉱山があり、そこでは鉄、銅、タングステン、オリハルコンなど様々な鉱物資源が採掘され、それらを使って昔は様々なデザインの甲冑を国内外に生産していた。
それによって、この地域を支配していたノリクム帝国でも金持ちな都市として有名であった。
オエニポンは現在、バーベンベルク王国の支配地域であり、臨時の首都である。
バーベンベルク王国はエスターシュタット西部を支配しているエルフ民族が中心に住む国家で、カズトが一時的な領主になるはずだった。
だがカズトがオエニポンに向かう途中、カールにカズトが拐われ、国内は一時混乱に陥った。
それにより臨時でオリヴィアを摂政に置き、カズトが帰って来るまで政治を任されることになっていた。
だが、カズトがカールと一緒にエステルライヒの初代皇帝となった事によりバーベンベルクは動揺した。
バーベンベルク臨時王国議会―――
カズトが戦地に向かっている頃、バーベンベルクの議会ではカズトが敵の皇帝になったため、今後のカズトの処遇をどうするべきか話し合われていた。
議員の半分がゲルマニアの意向に沿って、カズトをバーベンベルクに連れて帰り、幽閉状態だがフレイヤが来るまで君主とする、残りの半分の議員は新たな臨時の国王を立てて、カズトはエステルライヒ帝国と運命を一緒にし、逆賊として処刑にするかという事に対立していた。
「静粛に!議会での話し合いを再開するぞ!!」
議長の席には軍服姿で可愛らしいツーサイドアップの女エルフ、オリヴィアが議員に叱責していた。
オリヴィアが議長の議会では話し合いが紛糾し、カズトに関する事がまだ成立していないなかった。
すると一人の議員が立ち上がり、弁論する。
「オリヴィア様、我々はカズトを再び拐い、実行権を失わせる傀儡の王になるべきだと私は進言する!カズトを殺せばエトルリアから何を言われるか、戦争を回避するにはカズトが必要だ!!」
「「そうだそうだ!!!」」
その議員の発言に盛大な拍手と歓声が響く。
すると他の議員が立ち上がり、反論する。
「我々はエトルリアの勢力圏ではない!ゲルマニアだ!!私はカズトを裏切り者として処刑し、我々はニホンジンやエトルリアのヒューマンどもに対等であると見せつけるべきだ!」
その議員の発言には歓声が少なかった。
特に議員の中にもヒューマンが少なからずおり、彼らはその議員に対して反対していた。
するとヒューマンの議員が立ち上がる。
「それでは新しい国王はどうするんだ!?エトルリアはエルフが君主の場合は国家を承認してくれないぞ!」
するとオリヴィアが立ち上がる。
「それならぴったりな人物が居るわ。ヒューマンでもなく、純粋なエルフではないお方が………。」
すると、その議員はその場で失笑する。
「ハハハ!馬鹿な、そんなヤツ居るわけないだろ!まさか獣人ごときにこの国の国政を担うのか!?」
「そうだ、いい加減にしろ!ケルマニアから来たヤツに偉そうにされるのは納得いかない!」
多くの議員の批判がオリヴィアに集中する。
オリヴィアは溜め息を吐く。
「良いから、少しは黙れ。」
オリヴィアは批判する議員に対して鋭い視線で睨み付ける。
その場に居た議員は言葉が出なくなり、冷や汗を掻く。
議員はまるで獅子に睨まれる様な気分を感じる。
そして議員は静かになり、全員がゆっくりと席に座る。
「それではご紹介いたします。我が国の新たな王、アンナ女王陛下である!」
すると扉が開くと一人のダークエルフが奥からやって来た。
「アンナ???………ダークエルフのアンナってまさかノリクム連邦の女王!!」
一人の議員が大声でそう叫ぶと、その場に居たすべての議員が驚き、立ち上がる。
一人の議員がオリヴィアに問い質す。
「アンナはスパイの情報では、ハンガリーに向かったのでは………。」
「あれは嘘の情報よ。実はこの戦争を終わらせる為に味方を裏切り、我が国の女王になってくれたのよ。ねぇ、アンナ様?」
オリヴィアは笑顔でオリヴィアの顔を見る。
だがアンナは頷かず、じっとその場に居る。
「………まあ、アンナ様が新しい王として相応しいか、今から採決を採る!賛成するものは起立を。」
議員達は無言でお互いの顔を見ながら、どうするか伺っている。
「アンナなら国内に居るダークエルフを対処出来るかも………。」
「一応、君主の経験もあるしな。ニホンジンのカズトよりかは信用できる。」
すると議会に居るすべての議員が起立する。
――――――満場一致だな。
オリヴィアは拳を強く握りしめ、そしてその腕を上げる。
「ありがとうございます、皆さん。これからはアンナ様が政治を行わせて頂きましょう。それでは解散!」
議員は不安げな顔をしながら議会を退出する。
「アンナ様、もう終わりましたよ。ここからは私達だけで話し合いをしましょう?そういえば、パンノニア王国への派兵が失敗したそうじゃないですか。だから私達に乞うて来たのですか?」
するとアンナは体を震わせながら、オリヴィアに話しかける。
「はい、そうです………ほ、本当にエスターシュタットでのダークエルフの地位向上を行うのよね?それで私はこの国に来たのですから。」
「………勿論でございます陛下。我々も戦争でこれ以上の犠牲を出させたくはないのです。その案を受け入れると同時に我が国はエステルライヒ帝国に休戦を申し入れます。」
するとアンナは深い溜め息を吐く。
「これで私は安心できます。ありがとうございます。」
アンナはオリヴィアの手を取り、涙を流す。
オリヴィアは笑顔で軽く握手をし、そして手を離した。
「いえいえ、それで話はそれだけですか?
「はい、他の要求は特にありませんわ。」
「そう………それでは私はこれで。」
そう言って議長の席近くに置いていた軍帽を左手で取り、オリヴィアは部屋から出る。
するとオリヴィアは自分の両手を服に擦り付ける。
「ダークエルフ風情が………。」
オリヴィアは不機嫌な顔をする。
彼女は何度も何度も服に手を擦り付ける。
「あの裏切り者の女王、エスターシュタット全てがダークエルフの物と思いやがって、この地域は昔から我々エルフのものよ。悪魔に魂を売った卑しいダークエルフめ………。」
オリヴィアは服で手を拭くのを止めると、彼女は窓から空を見上げ、笑みを浮かべる。
「嗚呼、見ていてくださいヴィルヘルミナ様。エスターシュタットを我々、ゲルマニアの物にして見せますよ!」
そう言って、オリヴィアは左手に持った軍帽を被り、その場を去った。




