第65話 宮殿の昼食
俺は昼食を食べるため、大広間に向かっている。
ここは何度も確認したから絶対に迷う事は無いぜ!
そして俺は大広間の巨大な扉が見えた。
その扉の前にシルヴィはメイド服とマルクスは執事服を着て、尻尾を振りながらキチンと待っている。
「あっ、カズト兄………ご主人サマが来た!」
「シルヴィ、『来た』じゃなくて『参りました』だろ?」
「ごめん、お兄ちゃん。」
俺が扉の前に着くと、俺は彼らの頭を撫で回した。
「待っててくれてありがとうな二人とも!」
「はい、ご主人サマ!!」
満面の笑みで撫でられながら嬉しがるシルヴィと何故か不満げな顔でどこかを見ている。
「あと敬語なんて俺は気にしてないからシルヴィはションボリしなくても大丈夫だよ?マルクスはそんなに怒らなくても良いよ?」
「じゃあ、カズト兄って呼んでもいい?」
「ああ、勿論!でも人前ではダメだよ?」
「分かったよ、カズト兄!」
シルヴィは撫でられながら嬉しそうだが、マルクスはムスッとした顔でこちらを見る。
「あの、もう撫でないで下さいご主人様」
「ええっ、このフワフワ感が堪らないじゃないか?」
「………咬みますよ?」
「わ、分かった、止めるよ………」
やっぱり撫でるのは嫌いなのかな?
だけど尻尾はシルヴィ並みに左右に振ってるんだけどな?
「マルクスも俺を『お兄さん』って呼んでも良いんだぞ?」
「言いません、執拗いですね!」
「オイオイ可愛いなこの野郎!」
「止めろ!この野郎!!」
俺は先程の二人に対するナデナデよりもっとナデナデをした。
「や、止めろ!離せ!!」
「良いではないか、フフフフ、フワフワだなマルクス!」
「むぅー!お兄ちゃんだけズルい!!私もモフモフだよ!!」
「そうだな、シルヴィもモフモフだぞ!!」
扉の前で二人を撫でていると、扉がゆっくりとギギギと音を立てながら開く。
「カアアアアアズウウウウウトオオオオオ!!いつまでお前はそいつ等を撫でてるんだ!早く大広間に入れ!!こっちは独りで寂しいんだぞ!!」
大広間の扉から現れたのは物凄い怖い顔のカールだった。
まるで般若の仮面でも被っているのかと思うくらいだ。
寂しいとかは少し可愛いが………。
「ごめん、急いで入るよ」
「それで良い、じゃあ早く食べよう!君達二人の料理も用意してるから入りなさい!!」
「ホントに!?カールさん大好き!!」
「こら、シルヴィ!すみません、ありがとうございますカール様」
シルヴィはカールに抱きつき、マルクスはシルヴィに注意しながら深くお辞儀をし、二人は料理を用意した事を感謝する。
カールはシルヴィが抱きついたことに、少し顔を赤らめ、照れている。
「止せよ、照れるぜ………あとカズト、ヴァイスの料理も用意してるから後で持ってこさせるよ」
「ありがとう、カール」
俺は頭を下げて、カールに感謝する。
するとカールは顔を上げるように諭す。
「顔を上げなよ。別にこんな事は普通だよ、こんなこと、さあ座って座って!」
そして四人は席に座る。
長机には多くの席があるが、座るのは俺を含めてたったの四人である。
「なあ、椅子が沢山あるがアンナ以外にカールには家族は居るのか?」
「ああ、勿論。内戦中は隣国、今は違うがヘルヴェティアに疎開してるよ」
「ああ、成る程ね」
これほどの椅子の数があるという事はカールには沢山の兄弟や姉妹が居るということか?
つまりカールの王家は物凄い大家族だな!
まあ、これが普通なんだろうな………。
確かヨーロッパの多くの名家は兄弟姉妹が多いからな。
俺がそんな事を考えていると、カールは突然咳払いをする。
「食事が来る前に今後の話をしよう、カズト」
カールは明日以降のの予定を話し始める
「分かったよ、明日は俺が閲兵式に向かうんだろ?」
「そうだ、街の名前はグラデツ。そこに行ってもらう。ところで大丈夫なのか?」
「大丈夫って、何が?」
「暴漢に襲われたんだぞ?もう少し自分の心配をしてくれ。まずお前に対する警備でも増やそうか?」
「そこまでしなくても、カールだって皇帝だし身の安全がーーー」
「お前はお人好しだな、ホントに!俺の事なんかどうでも良いから自分の身の安全を大事にしろ!!」
いつも思うけど、俺を殺そうとしたカールがこんな事を言うなんて驚きだといつも思う。
本当に俺を殺そうとはしなかったんだな。
話をしているとセバスが大広間に入室する。
「カール様!その話待って下さい!!」
「何だセバス、姉さんから頼まれた仕事を完璧に出来なかったからカズトは危険な目に逢ったんだぞ!!」
「いえ、そうではありません。カズト様の警備は数人が妥当という事です」
するとカールはその発言にテーブルを強く叩きながら立ち上がり、セバスに睨み付ける。
「セバス貴様、俺達の事を差別しない良い奴だと思っていたが、ニホンジンのカズトには種族差別するんだな………」
「い、いえ、滅相もございません!護衛は少ない方が目立ちませんし、そして機動性があり、すぐに逃げれる利点があります。それにカズト様はニホンジンでありまして、私の指導で彼に剣術や銃術を教えれば確実にカズト様ご自身の護身が可能だと考えられます」
「………ホントか?もしカズトに傷を負わせてみろ、俺は絶対にお前を許さないからな!」
「はっ、承知いたしました。………それでは失礼します」
セバスは静かにそう言って部屋から立ち去った。
俺はカールがセバスに対してそんなに怒らなくても良いだろうと思った。
何故なら一応俺は外から来た者であり、皇帝としての特権があるのはカールの方だ。
それなら俺よりカールの命の方が大事だろ?
俺は不思議に思い、カールに対して聞いた。
「少し、セバスに怒りすぎじゃないか?俺を大事だと思ってくれたのは嬉しいけど、カールは一応ダークエルフだから―――」
「ダークエルフだからどうした?何度も言わせるな、俺はカズトが心配なんだ。昔俺には伯父さんが居て、姉さんの次に王位継承権があったんだ。だが、その伯父さんは外遊中に魔族に殺され、その結果魔族との戦争が始まったんだ。戦争には勝ったが、ノリクム連邦より前のノリクム帝国は解体され、国土が縮小したんだ。今は魔族は恨んでないが、もう家族は殺されたくないんだ」
「………家族って誰の事だ?」
「カズトに決まっているだろ?もうここに住んでいるんだ。それだけで俺達はもう家族だ。勿論、マルクスやシルヴィにヴァイス、この宮殿で働いている人も皆家族だ!!」
「………嬉しいな、俺を家族だなんて」
俺はそれを聞いてとても嬉しくなった。
周りには沢山の人が居たが、殆どは俺を異世界人や日本人と言って差別してたし、俺が家族?と考えていたのがヴァイスくらいだもんな。
まあ、ヴァイスはどう思っているかは分からないが………。
「まあ、こんな暗い話はもう良いだろう!さあ、昼食を食べよう。なあ料理はまだか?」
「は、はい!ただ今持ってきます」
俺とカール、そしてシルヴィとマルクスはこの後昼食を食べ、俺とカールは心を落ち着かせた。




