第63話 説教タイム
細い杖を持ったエルフに殴られた衛兵はその場に倒れ、横たわる。
多分、その衛兵は殺されてはいない。
ただ脳震盪を起こしているだけだ。
だが他の衛兵がその衛兵が倒れる所を見ると、一瞬、彼らは何が起きたのか判らず、その場を立ち尽くしていたが、すぐにその場で起きた事を判断、そして激昂し、衛兵は仲間が殺されたと勘違い、エルフに対して発砲許可を得る前に撃つ用意をして引き金に指を置く。
「き、貴様ぁあああ、仲間をよくも!!!」
「待て撃つな!ここは市街地だぞっ!!」
セバスはそう叫ぶが、一人の衛兵はその言葉を無視し、その杖を持ったエルフに向けて拳銃で連続で発砲する。
だがそのエルフは発砲された弾を全て避け、その衛兵をエルフはまた持っている杖で殴り倒す。
「へぇー、良い銃だね?でも俺には要らないや。」
そう言いながら銃を拾うが、すぐにどこかに投げた。
俺はその状況を見ながら茫然と立ち尽くし、エルフの動きがまるでアクション映画を見ている様に感じた。
「くそっ、カズト様は早く車に乗り込んで下さい!衛兵、早く車を出せ!!」
「は、はっ!………カズト様、鬼ヤバイ状況なんで早くお乗り下さい!すぐに発車します!!」
近くに居た衛兵が運転席に乗り込み、車に乗るように諭す。
だが俺はセバスを置いていく事は出来ないと思った。
「だけど、お前を置いて行けないよセバス!」
「何を馬鹿な事を仰っているんですか!?アンナ様からカズト様の守護を任されてるんです。ここで怪我させる訳には―――。」
「そんな話している場合か?お前ら。」
そのエルフがそう言った途端、セバスを通り抜け、俺の方に向かって突撃する。
「カズト様、危ない!!」とセバスは振り向き叫ぶが、俺の目の前に近づいていた。
「申し訳ないが、お前はここで誘拐して、人質として引き換え獣どもは連れて帰る!」
そう言ってエルフは杖を大きく振りかぶる。
すると何故か俺の左手が動き、そのエルフが振りかぶった杖を掴んだ。
「なっ………こいつ、離せゴラッ!?」
「………あれっ!?」
俺はエルフの杖を左手で完全に掴んでいた。
杖を持ったエルフはとても驚いていたが、こっちだってそうだ。
武術なんて怪我するし、スポーツだって苦手だから習いに行った事がない、それなのにこんな速い奴の攻撃を防ぐなんて………。
って、そんな場合じゃない!早く反撃をしないと、攻撃が防げたらこっちのモノだ。
「早く離せ、このニホンジン野郎が!」
すると左手で握っている杖を俺は離さなかったからか、エルフは左手を拳にして殴りかかる。
すると右手がまた勝手に上がり、そのエルフの手を掴む。
よし、今だ!と俺は感じ、膝をエルフの方に蹴り上げる。
蹴り上げた右膝はエルフの鳩尾に当たり、杖から手を離して、苦しみながらその場に倒れる。
俺は倒したという興奮と共に俺にこんな能力がある事にとても恐怖を感じた。
「てめぇええええ!ニホンジンの分際で!!」
そのエルフは人差し指と中指をこちらに指し、魔力を集めながら手を銃の様な形にして立ち上がろうとすると、セバスは急いでそのエルフの背中を押し、地面に押さえつける。
増援の衛兵もそこに加わり、そのエルフはその場で現行犯逮捕された。
運転席に乗っていた衛兵が俺に近づく。
「危なかったですね陛下、今さっきの魔法で塵になるところでしたよ?」
「嘘だろ………マジかよ。」
「はい、マジっス。」
「………魔法って跳ね返せるの?」
「出来るッスよ?球形、もしくは半円形のバリアで跳ね返せます!でも今の魔法が分からなかったという事はカズト様って魔法が使えないっしょ?」
「………ああ、多分そうだな。」
「あと、さっきの魔法を跳ね返すのは常人には無理だからセバス様の止めが入って良かったッス。」
「そうなんだ、今度からはその魔法が出たら逃げるよ。」
「ハハッ、そりゃそうッスね!」
成る程、つまり俺はこの世界で魔法の勉強をしないといけないのか。
この異世界では覚える事が多いな、ホントに。
剣術、魔術に銃の使い方か………。
まあ、銃は頑張れば使いこなせるから、剣と魔法が最優先だな。
それにまあ、こういう事を覚えるのは楽しいけどね!
だけど、この世界に来てからそういう敵に立ち向かう恐怖心が消えていくのは何でだろう?
異世界に来た時の何かの能力なのか?
一方ヴァイスは物凄い笑顔でこちらを見る。
「流石カズト様です!!」
「いや、最終的に拘束したのはセバスと衛兵隊だよ?」
「でも、攻撃を防ぐカズト様はとてもカッコイイのです!!そしてキックも!」
「そ、そう?それは嬉しいな。」
何か、ヴァイスに褒められるのは嬉しいな!
それにしてもこの力は一体何だろう?
異世界に来た時に付いてくる効果なのかな?
「カズト様っ!!!」
すると突然、セバスが大声で俺の名前を叫ぶ。
一瞬、空気がピリピリとした感じがした。
衛兵は俺の後ろに居るセバスを見て、顔が青ざめ冷や汗を掻き出す。
「ヤベッ!お、俺は国会の警備に戻るッスね。陛下は強く生きろよ!!」
「お、おう。」
そう言って先程の衛兵はそそくさとその場を逃げていった。
俺はセバスの方にゆっくりと顔を向けると、恐ろしい形相でこちらの方に向かって来る。
するとセバスはいきなり俺の頭をゴツンと強く殴る。
音が鳴るほどに殴った拳骨はまるで金槌で殴ったかのような痛みで、俺は頭を押さえる。
「い、イテェエエエエエエ!!!な、何するんだよ!」
「ひ、ひどいのです!そこまでやらなくても良いのです!!」
「ヴァイスさんは黙って下さい、お願いします。」
ヴァイスはセバスを睨みながら怒りを露にするが、セバスはヴァイスに睨み返してヴァイスはその後何も言わなかった。
セバスは数秒間、無言の圧力でこちらを睨み続ける。
この時、俺は本当に時間がとても長く感じた。
そしてその数秒間の無言の後がまるで嵐の前の静けさだったかのように、セバスは俺に対して怒鳴り始めた。
「カズト様、もしも怪我をされていたらどうなさるんですか!?」
「ご、ごめん………。」
「大体、私は長年戦いに参加していたため敵に対して適切な処置は出来るんです!!」
「は、反省してます………。」
皇帝が部下に説教されるなんて、こんな事あるか?
でも心配はしてくれてるんだな、ありがとう。
俺はそう思っていたが、先程の暴れていたエルフは数人の衛兵に拘束されたまま居る。
「あ、あの、セバス様?このエルフはどうすればよろしいでしょうか?」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!?こっちはコイツに説教しているんだ!そんなの内務省直属の秘密警察本部に連れてけっ!」
「は、はい!!」
「今、皇帝の俺に対して『コイツ』って言わなかーーー」
「カズト様、ここで正座。」
セバスは地面を指差す。
「いや待て、一応俺皇帝だから?ねっ?」
「セドゥート(座れ)!!!」
セバスは物凄い怒り顔でこちらを見て、地面を指差す。
「は、はい!」
俺はその迫力に押され、直ぐ様地面に座った。
そして俺はこの時知らなかった、セバスによる国会前の路上で数十分の説教をされる羽目になるという事を………。




