第61話 内戦最終報告会
エステルライヒ帝国(旧ノリクム連邦)の国会議事堂は『帝国議事堂』とも呼ばれている。
宮殿に近い帝都ウィンドボナの中心部にあり、近くには市庁舎や大学、そして博物館などがある。
ノリクム帝国末期に建てられた建物はまるで古代ギリシャ風の大理石で出来た建築で荘厳な外装は見る者を圧倒させるものである。
魔族との戦いでは議事堂は激戦地になったが、芸術の神アテネを中心に街は再興され、ノリクム帝国末期と同じ街並みが再現されている。
その結果、議事堂の前には市民によって造られたアテネ噴水があり、一部金で装飾された大理石製の旗を持った女神アテネが中央に立つ。
戴冠式で神ヘルメスが降臨したが、本来は女神アテネが来るはずだったが、戴冠式は急遽決まったので足の早い神ヘルメスが派遣された。
屋根の上には青銅で出来た戦車が四つと大理石で出来た百体の美しい彫像が屋根の周りにズラッと立っている。
帝国議会の建物の中には議会の他にカフェ、バー、図書館などがあるそうだ。
「す、スゲェー!何だこの国会議事堂は!?メチャクチャ何かスゲェー!!」
語彙力を失うほどの美しい議会に俺はその場に立ち尽くしていた。
ヴァイスは一体どんな反応してるんだろう?
俺はヴァイスの方に振り向くと、ヴァイスは不機嫌になっている。
特にアテネ像に向けて嫌悪感を出しながら睨みつけていた。
「ん?どうしたヴァイス?あの像に何か気に入らないのか?」
「はい、あれを見ていると何故だか分かりませんがイライラして気分が悪くなるのです。」
そう言いながらヴァイスは俺の袖を強く掴む。
アテネ像に何か恨みがあるのか?それとも本人に恨みがあるのか?………いや、まさかそんな事あるはずが無いわ。
俺は安心させようとヴァイスの頭を撫でる。
「エヘヘ、なでなで久しぶりなのです。」
何だろう、まるで仔猫を撫でている様な気分になるな………カワイイ。
………じゃない!早く中に入らないと大臣二人が待っている。
今回の内戦について話をしないと。
「ヴァイス、早く中に入ろう。」
「はい!分かったなのです。」
議事堂に入ると、ピカピカに磨かれていた大理石の床に沢山の彫像が設置されている。
すると一人の女ダークエルフが近寄ってくる。
男物の軍服を着ているが、顔がメチャクチャ可愛い!!
アイドル………いや、アイドル以上に可憐で愛しい。
「カール様でごさいますか?大臣がお待ちしておりますのでご案内させていただきます、こちらです。」
「あ、ありがとう。」
えっ!案内してくれるのか!?
こんなに可愛い子が!?嘘だろ?有り得ねぇよ!
あっ、分かった!大臣の奥さんだな、軍服を着ているという事は国防大臣の奥さんだな!
俺はそう思いながら女ダークエルフは先導し、大臣が居る会議室に案内する。
会議室の部屋に着くと彼は部屋の大きな扉を数回ノックする。
「陛下の入室です!」
その女ダークエルフは高らかにそう言いながら、大きな扉をゆっくりと開ける。
部屋には二人の大臣がその場で立っている。
彼らは俺の顔を見ると国防大臣は敬礼をし、外務大臣は軽く頭を下げる。
彼らは渋い顔をしているか、特に俺達を嫌っているような感じはしない。
「日本人の私や彼女のような魔族を恐れないんですね。」
俺がそう言うと、二人の大臣は答える。
「そりゃ、ニホンジンはここから西の方に多く住んでいたし、魔族は我が国でも少数ですが南部に存在します。」
「まあ、俺達ダークエルフも『魔族に魂を売ったエルフ』と言われたりもしたからな、ハハハ………ハァ……………。」
彼らは笑顔で答えているが、すぐに溜め息を吐く。
一応皇帝の前で溜め息を吐くのはどうかと思うが………。
「ま、まあ今回は話し合いに来たんだ。その前に君達の名前を聞かせてくれ。」
「私は外務大臣のクレメンスと申します、陛下。」
「私は国防大臣、というより皇帝枢密顧問官のエドワルドであります。よろしく陛下。」
「そうか、よろしく。では話を始めるが、カールに頼んでいた事をどれだけ進んでいるか進捗状況を教えろ。」
「「は、はい!」」
すると彼らは彼らの秘書から紙を貰い、発表を始める。
まず最初に発表を始めたのは外相のクレメンスだ。
「えー、我々外務省は他国に援軍を送って貰うように進めていますが、まだ多くの国は我が国と友好的な関係を築いておりません。ですが、カール様が言っていた例のカズト様に任された事は全て終わらせました。」
「よし、外務省は問題は無いな。次は国防大臣!」
「ハッ!我々の軍は連戦連勝を続けております………と言いたいのですが、 我々は負け続けており、脱走兵が続出しているのが現状です。」
国防相のエドワルドは顔を下に向きながら、悲しそうな顔をしていた。
「なるほど、まあ後で解決されるから少し待っておけ、それに機関銃の練習はしているのか?」
「ええ、ですが機関銃の練習に意味はあるのでしょうか?機関銃なんて人員が武器に対して多いし、山岳部には必要でありますか?」
「ああ、窓から見た景色ではこの辺りは平坦な土地が多い。問題は無いだろう。」
「ハッ、了解であります。」
何だ、彼らが渋い顔をして待っていたから不安になってたけど、心配して損した。
何も問題は無いじゃないか。
「他に質問は無いか?無いのならば私は明日、前線に視察する。」
すると二人の大臣が同じタイミングで手を挙げる。
「何だ?何か問題はあるのか?」
大臣達は一瞬お互いに見合い、そして不安そうに俺に聞く。
「あのー、この内戦は本当に勝つ事が出来るのでしょうか?」
「私も心配であります。アンナ先帝陛下は隣国のパンノニアから帰ってきておらず、みな不安がっております。」
なるほど、精神的な問題か………。
そう言われてみればアンナからの連絡は無い。
ラウラもどうしてるのかな?忙しいのかな?
まあ、今は彼らを安心させないといけない。
「安心しろ、必ず団体の観光客の様に兵士が送られて来るはずだ!」
「そ、そうですよね!アンナ様ならやってくれるはずだ!!」
「ハハッ、それなっ!」
彼らは笑顔になっているが、やはり顔は引きつっている。
何としてでも内戦に勝って、彼らを安心させなければ………。
「それでは他に意見はあるか?………無いのならこれで解散する!お疲れ様諸君!!」
「はい、乙です陛下!」
「乙であります!!」
俺とヴァイスは部屋から出ていこうとすると、俺は先程の案内人を思い出し、国防大臣に声を掛ける。
「あっ!国防大臣。」
「は、はい!何でしょうか!?」
国防大臣は俺に対して敬礼をする。
俺は気になっていたから、お世辞で聞いてみた。
「奥さん綺麗な方ですね、羨ましいですよ。」
「………は?一体何の話ですか?」
すると国防大臣は突然とぼける。
あれ?まさか違うのか??
俺は申し訳なく思い、国防大臣に聞いてみた。
「あ、あれ?先程居た軍服姿の女性は………。」
「軍服?私の妻は軍人ではありませんよ。」
「あ、そうでしたか、それはすみませんでした!それでは私はこれで………。」
俺とヴァイスは変な空気になった会議室からそそくさと出ていく。
今の国防大臣の反応は一体何だったんだ?
まさか国防大臣の奥さんじゃなくて外務大臣の奥さんか!?
しくじったな………後で謝りに行こう。
それにしてもヴァイスは終始無言で特に騒がなかったので、会議が捗ったな。
俺が居ない間にオリヴィアとかから教わったのかな?
そんな事を考えながら、議事堂の出口へと向かう廊下を歩いていると、先程の俺達を案内していた女性のダークエルフが俺に気が付いたのか近くに駆け寄る。




