第60話 国会議事堂
目を覚ましたヴァイスは突然辺りを見渡す。
まるでここはどこなのかという不安な顔になっている。
それに何かを探しているような雰囲気だった。
するとヴァイスが俺を見つけた途端、ボーッとしていた顔が一気に驚き、そして涙を流しながら笑顔になる。
「か、カズト様なのです!」
シルヴィは俺に突然強く抱きつく。
カールとマルクスとその場に居た衛兵はシルヴィの突然の行為に一瞬驚いたが、カールはニヤニヤと笑みを浮かべながら俺を見ていた。
「素晴らしい再会じゃないか?なあカズト。」
と、カールはニヤニヤしながら声を掛ける。
だが、シルヴィだけは何故かヴァイスに強い眼差しを向けていた。
「カズト様、やはりカールの所から逃げて来たんです!私は信じていたのです!!」
ん?おかしい、先程のヴァイスと雰囲気が全然違う。
まさか、あの時の扉に押されて壁との間に挟まった時に頭を打った衝撃でまた記憶喪失しているのか!?
「ヴァイス、お前まさか記憶を失っているのか?」
「何を言ってるんですか?カズト様の事を覚えているのですし、昨日カズト様がカールに拐われていたじゃないですか?………それにしてもここはどこなのです?」
これは完璧にヴァイスの記憶の一部が失っているな。
何故なら俺がカール拐われたのは三日前だからな。
まあ、まだカールに対する殺意が起きる前の様だし、まだこっちの方がまだマシか。
「カズト兄、早くその女からはなれてっ!」
「おいシルヴィ!ご主人様から離れろっ!」
シルヴィはヴァイスの背中部分の服を引っ張って無理矢理俺から引き剥がそうとする。
だが、ヴァイスはびくともしなかった。
同時にマルクスはシルヴィの服を引っ張っている。
するとヴァイスは辺りを見渡しながら話を始める。
「カズト様、この可愛らしい獣人は誰なのですか?それにカールがここに居るのは何故なのですか?」
ヴァイスはそう言って頭を傾げる。
カールはヴァイスの発言で溜め息を吐いた。
「おいおい、メイドの分際で俺を呼び捨てかよ………。今、お前が居るのは俺の本拠地だぞ、陛下と呼べよな、もしくはカール一世とか?」
カール一世?何それ初めて聞いたぞ。
まるで王族みたいな………あ、今のカールは皇帝だった、すっかり忘れてたわ。
じゃあ、俺にも何とか何世みたいな名前があるのか?それは気になるな。
俺はそんな事を考えているとヴァイスはカールに対して鼻で笑う。
「………はあ?何を言ってるのですか。ここはカズトが領主の………あれ?ここはどこなのですか?」
今、ここがヴァイスが居た違う場所だと気づいたのかヴァイス………。
まあ仕方ない、シルヴィの攻撃で記憶が一部飛んでるからな。
まあ、ヴァイスに今の状況を簡単に説明しておこう。
「ヴァイス、ここはウィンドボナという街にある宮殿だよ?」
「………ウィンドボナってたしか、敵の国の首都じゃないのですか?」
「ああ、だが俺はカールと一緒にその国の皇帝になったんだ。」
「………へえー、そうなんですか。それは知らなかったのです。」
ヴァイスは先程の笑顔から一瞬にして真顔になる。
まあ多少は喜んでいるけど、意外にあっさりした返答だな?
何か皇帝になった事を驚いたりとか、何故ヴァイスの所に戻らなかった事に怒ったりすると思っていたのに。
まあ別にヴァイスには俺の出世話は関係ないか。
「まあ、それよりも無事で良かった!俺の部屋に案内するよ!」
「はい、カズト様!」
「ま、待ってよ!カズト兄!!」
俺の後ろをヴァイスとシルヴィが付いて来る。
するとカールが肩をポンポンと軽く叩き、カールが身に付けていた高そうな腕時計を見せ、腕時計のガラスケースを軽く爪でコンコンと叩く。
「そういえばカズト、お前時間は大丈夫か?国防大臣と外務大臣は他の仕事でも忙しいんだぞ?」
そうカールが言うと、俺は時計盤を見て驚いた。
時計をよく見ると予定の会談からもう十数分しかなかった。
「え!?もうこんな時間!分かった、今すぐ行くよ、ありがとうカール。」
「まったく、気を付けろよな。」
俺はカールに軽く感謝すると、ヴァイスやシルヴィに振り向く。
「ごめんな、今忙しいからまた後で部屋を案内するよ。」
俺は準備をするために法衣を脱ぎ、その法衣の下に着ていたスーツに変装する。
するとヴァイスは俺の後ろに付いて来て、そしてソワソワしながら俺のスーツの袖を掴む。
「わ、私もカズト様と行くのです!」
ヴァイスがそう言うと、それを見たシルヴィも俺の手を握りながら言う。
「じゃあ、ワタシもカズト兄と行くっ!」
それを見たマルクスは俺に対して鋭い眼光で俺を見る。
カールはその状況を見て、大笑いしながら言う。
「ハハハ、両手に花だなカズト!」
「俺は笑えないぞカール。こっちは忙しいんだ!」
取り敢えず、一旦落ち着こう。
まあ、ヴァイスは一応俺の専属のメイドみたいなもんだし、年齢は解らないけど、多少理解できる年齢だと思うからまだ付いて来るのは別に良いけど、シルヴィはまだ子供だからなぁ………よし、決めた!
「残念だがシルヴィはここに残ってくれ。」
「な、なんでカズト兄?ワタシ、しずかに出来るよ!」
「いや、まだ、その小さいから大人な話をしていても寝たりしたりするかもしれないだろう?」
「で、でもぉー!」
「ごめんなシルヴィ、連れては行けないんだ。」
「ムーッ!………分かったよっ。」
するとシルヴィは不貞腐れた様な顔をして下を向く。
カールはそれを見ると、可愛そうに感じたのか頭を撫で、声を掛ける。
「シルヴィちゃん、何なら俺と遊ぼう、な?カズトは忙しいから仕方ないよ。」
「………分かりました。」
「よし!じゃあ、姉さんの部屋にめっちゃ立派な人形のお家が有るからそれで遊ぼう!」
「………はい。」
シルヴィ、メチャクチャ落ち込んでるな………。
罪悪感感じるんだよな、こういう事をすると。
「じ、じゃあ、行ってくるよ!」
「おう、こっちは任せておけ。」
俺はカールとシルヴィに対して手を振り、カールも手を振る。
シルヴィはただただ下を向いたまま、特に何も言わず、何もしない。
俺とヴァイスは急いで宮殿の外に出る。
「それじゃあ国会議事堂に向かうとしますか。」
「ハイなのです、カズト様、車などは用意されているのですか?」
「うん、多分そのハズだけど。」
すると道の左側からクラクションを軽く二回鳴らす車が現れる。
というか今現れたこの車、俺がカールに拐われた時に使われた黒塗りの高級車じゃん!
その高級車の運転席にはセバスが座り、運転している。
セバスは運転席から降り、後部座席のドアを開ける。
「お迎えに参りました、陛下。」
「ありがとう、セバス。」
俺とヴァイスはすぐさま乗り込み、セバスは扉を閉め発車する。
国会議事堂は宮殿の近くに有るため、予定していた時間よりも早く着いてしまった。
これだったら歩いて帰れたかもしれないな。
着いた瞬間、セバスはブレーキを踏んで停車をし、車を降りる。
セバスは後部座席のドアをゆっくりと開ける。
「カズト様、到着しましたよ。」
「ありがとう、御苦労様。セバス、帰りはヴァイスと歩いて帰るよ。」
「………承知いたしました、カズト様。」
俺が感謝するとセバスは軽く頭を下げ、車に乗り込み、『王宮』に戻っていく。
俺とヴァイスは車から降りると衛兵が敬礼をする。
「チョリース☆陛下!御足労おかけします。」
「………うん、ご苦労様。」
俺がそう言うと、衛兵は無言のまま敬礼している。
俺とヴァイスは衛兵にジト目で見られるが、特にそれ以外の事はしなかった。
俺達は彼らを横目に国会議事堂の入り口に向かう。




