第58話 黒い影
式典が終わると詰め掛けていた人々もみな散り散りになる。
戴冠式の後は普通、宮殿で盛大な舞踏会を行うが、戦争中で財政難だから、俺は内戦終了までに延期しようとカールに話すと、彼は承諾し、舞踏会は延期となった。
俺とカールは『王宮』に向かうため、馬車に揺られ向かっていた。
「それにしても戴冠式は無事に終わったな。絶対姉さん怒っているだろうな………」
カールはアンナが怒っているじゃないかと心配する。
「なあカズト、俺は別に双頭政治については問題は無いが、俺の元で宰相として働くという事でも良かったんじゃないか?別に俺はお前を嫌悪してないし」
「勿論それでも良かったが、権力もあるし、議会が反対する可能性があるからな。カールが皇帝権限で反対勢力を抑えればカールに対する反発が大きくなるだろう」
俺がそう言うと、カールは考える
「じゃあ、皇帝二人は要らないだろう?俺の側近になっても良かったし」
「いや、側近になればカールに批判が集中するし、俺だけが皇帝になれば内戦中の国で暴動が起きるカオスな状況になる。それならば俺とカール、二人が皇帝になればまだマシだろうと考えたんだ」
俺がそう言うと、何故かカールは呆れていた。
俺は不思議に思った。
「俺はそんなに弱い男に見えるか?批判で落ち込む男に見えるのならそれは心外だカズト」
意外な答えだった。
俺はカールにそう言われた事にとても驚いた。
「いや、俺はそんな事を思ってないよ」
「カズト、俺の側近になって民衆から批判されても、俺は全く気にしないよ。国民の様々な声を聞くのは君主の仕事だと、俺は考えているからな」
カールはまっすぐこちらを見つめていた。
一切の曇りの無い瞳に彼が嘘を付いているようには見えなかった。
「じゃあ、俺が今から皇帝を退位しようか?」
俺が退位しようかという事を言うと、カールは拳で頭を殴る。
「馬鹿かお前!?先程戴冠式をしたばかりだろ!それに退位はめんどくさいから止めろ。もう俺達の顔が描かれた紙幣と貨幣が造られたり、記者の前でもお前の事を発表したし、内戦中の国にそんな金は無いんだ、無駄な事をするな!!」
「お、おう」
俺は返事をすると、カールは溜め息を吐く。
そうだな、今のはおかしい判断だ。
それにバーベンベルク王国の君主からエステルライヒ帝国の君主になった事でバーベンベルクの奴等が混乱するという大きな意味があるからな。
カールは先程の話とは違う質問をする。
「ところでカズト、お前はこの後どうするんだ?」
彼は少し心配しているような顔をしている。
まあ、先程の発言があるからな。
それにしても少し前に俺を殺そうとした人物とは思えないな。
「外務大臣と国防大臣がそれらを準備出来次第、前線に向かおうと思う」
俺がそう言うと、カールは溜め息を吐く。
「………そうか、まあ予定通りだな。じゃあ約束通り、内戦で占領した街を逐一報告してくれ」
「おう、でもその前に自分の部屋に向かうよ、着替えたいし、トイレに行きたいし」
「ああ、それは自由にしろ」
そんな事を話している内に『王宮』に到着する。
入口前で待機していた衛兵とマルクスが馬車のドアを開く。
「ご主人様、お手をどうぞ」
「マルクス、お前の治癒能力はどうなってるんだ?」
「我々、獣人は魔力が強い場所であれば成長も傷の治りも速いんです」
「そうなのか、取り敢えず良かったよ」
俺はマルクスの頭を撫でる。
マルクスはシルヴィとは違って少しゴワゴワしているが、それでもモフモフだ!
だが、マルクスは不機嫌な顔をしていた。
マルクスは俺を睨みつける。
「あの、ご主人様、撫でるのは止めてください」
「あ、ごめん」
「謝る必要はありませんよ」
やっぱり、撫でるのはダメだったか。
するとカールは馬車に乗りながら言う。
「カズト、俺はこのまま皇帝居館に向かうから、何かあったらすぐに駆け付けるからな」
「おう、分かった」
カールは俺を見ながら頷き、馬車のドアを自分で閉める。
そして馬車はドアが閉じた瞬間すぐに発車した。
「それではお部屋に案内しますから、早くこちらに来て下さい」
マルクスはそう言いながら、部屋へと案内する。
「お願いするよ、マルクス」
なんだ?そんなに撫でられるのが嫌いなのか?
だがマルクスは機嫌が悪いと思っていたら、何故かマルクスは尻尾を左右に振る。
一体どこで嬉しい事があったんだ?
まさか、やっぱり俺に撫でられるのが嬉しかったのか?
この…………可愛い奴めっ!!
俺はそう思い、マルクスに抱きつこうとする。
するとマルクスは俺に気付いたのか即座に俺を避け、マルクスに避けられた俺はそのまま地面に強く叩きつけられる。
衛兵は俺に対して心配する。
「頭、大丈夫っスか?」
「だ、大丈夫だよ」
するとマルクスは振り向いて、俺に対して軽蔑の目を向ける。
さっきの衛兵の言葉が悪口にしか聞こえないし、マルクスの軽蔑の目も何か心臓に突き刺さるわ。
だが軽蔑の目を向けるだけで、特に何もせず再び前を向いて歩き始める。
すると、付いてきた衛兵が横でボソッと呟く。
「やっぱり、獣人は何を考えてるか分かんないッスね」
そう衛兵が言い、溜め息を吐く。
俺は衛兵のその言葉に反論する。
「だが、尻尾を見れば簡単だけどね」
そう俺が言うと、衛兵はすぐに黙る。
俺はそれを言った後、急いで俺はマルクスに追いつこうとする。
すると俺の横にあった部屋の扉が突然開き、すぐにその部屋に引き込まれる。
俺は驚いて大きな声で叫ぶ。
「うわっ、何だ!?」
だが、俺の声に気づいたマルクスや衛兵が俺の身体を掴もうとし、俺は手を伸ばすが間に合わず、俺は部屋に閉じ込められた。
部屋の中は真っ暗で何も見えない。
扉を無理矢理開けようとするが、ドアノブが壊れているのか扉が開けられない様になっている。
扉から微かに、マルクスの「ご主人様」や衛兵の「陛下」という声が聞こえる。
俺は誰か分からない犯人に向かって叫んだ。
「おい誰だ、俺をここに引き込んだのは!早く出てこい!!」
だが、部屋内では誰も俺の声に返答しない。
俺は気味悪くなり、フラフラと部屋の中をゆっくり歩く。
すると突然誰かが俺に対して抱きつく。
俺は驚き、身体からそいつを引き剥がそうとしたが、物凄い力で剥がせない。
そしてそいつはクンクンと匂いを嗅ぎ始める。
「………ふう、やっぱりカズト様の匂いが一番落ち着くのです」
俺は匂いを嗅ぎ始めた途端、寒気を感じたが、俺はすぐに心が落ち着いた。
まさかこの声、そしてこの話し方はまさか!?
そう思い俺は明かりを探そうとする。
すると、奥に光が僅かに漏れている場所を見つける。
俺は手を伸ばすと、布製の物を掴む。
多分その布製の物をカーテンだと思い、俺は一気にそのカーテンを開ける。
カーテンが開くと、暗闇で何も見えない部屋は急激に光輝く色のある部屋へと変わる。
そして、そこに居たのは立派な黒い角を持った雪の様な白髪金眼のメイドがそこに居た。




