第56話 連邦解体宣言
その次の日の正午 オルタ・ゼウス時
皇帝居館 『控えの間』
皇帝居館は皇帝の居住する場所で、『控えの間』は皇帝の謁見を待つ一般の人々がそこで待機していた場所である。
その部屋はとても広く、四方の壁にエスターシュタットが帝国だった頃の歴史的場面や日常生活が描かれた豪華な壁画がある。
謁見はノリクム連邦の臣民であれば誰でも謁見出来たが、今日の『控えの間』には臣民の姿は無く、そこには多くの記者がその部屋に溢れていた。
カールは部屋のその状況に興奮していた。
「あれはブリトンのロイテルにリベタリカのユニオン・プレス通信社、ガリアのアヴァス通信社にゲルマニアのウルフ電報社、エトルリアのステファニ通信社まで居るぞ!凄いな内務省!」
「陛下の褒め言葉、大変嬉しゅう御座います。ウィンドボナに未だに残っていた通信社を招待しました。」
内務大臣は胸を張って言う。
カールは俺の方に振り向く。
「よしカズト!記者会見ってのはどうやってやるか教えてくれ!俺は初めてなんだ。」
「いや、俺はやらないぞ、カールが記者会見をするんだろ?」
俺がそう言うと、カールは高らかに笑いながら俺に近づき、服の襟を掴む。
「はあ?ふざけるなよ、じゃあこれをどうすれば良いんだよ!!ここまでお前の言うとおりに用意したお金はどうすれば良いんだ!我が国は財政難なんだぞ!?」
「知らんって言ってるだろっ!俺はそんな事言われてもカールが用意していたと思っていたし………。」
「そんな………。」
カールは襟から手を離し、落ち込んでいると、内務大臣が手を挙げる。
「あの………自分や我が省の職員が記者会見を全てやりますから、私たちに任せて戴冠式場に向かって下さい陛下。」
カールは驚いて、内務大臣の肩を掴む。
「マ?それマ!?」
「はい、マです。もう我々が文章を用意して我々が読む予定でしたので………」
「………内務大臣、いや、バッハ内務大臣。」
「はい、何でしょう陛下?」
「お前………神か!?」
「いいえ、内務大臣です陛下。それに神から授けられた王権を持つ陛下にそれを言われたくありませんが。」
「………それな、マジわかりみ深い。」
カールは真剣に言ったつもりだったが、内務大臣のバッハは冗談にしか聞こえなかった。
「早く向かってください、こちらは我々がやりますから。」
「あざまる水産、バッハ。」
俺とカールはバッハに感謝をし、戴冠式場に向かった。
「………さあ、我々も頑張るぞ!」
「「マジ卍ぃ!!」」
内務省の人々は大臣の言葉に大きな声で応えた。
記者が集まる控えの間では、様々な記者がノリクム連邦の記者会見を予測しながら話していた。
「今回の記者会見、一体何の話をするんだろうな。」
「俺は降伏宣言に懸けるぜ。」
「バカ、そんな事判ってるんだよ。」
「だが、そんな事を言う為に集めるか?」
すると、バッハとその部下が部屋に入り、用意されている椅子に座り、テーブルにカールが昨日の『玉座の間』で配った書類を置いた。
「通信社の皆様、今回の記者会見に来ていただき真に誠に有難う御座います。本日は重要な話をさせて頂きます………ノリクム連邦は本日を以て―――解体します!」
バッハの言葉に記者のみならず内務省の官僚も驚き、言葉を失う。
内務省の官僚はこの事を知らされておらず、この会見はカールが摂政になるという発表をすると予想していた官僚は口を大きくあんぐりと開けていた。
すると、ロイテル社のハーフリングの記者が手を挙げる。
バッハはその手を上げているロイテルの記者に発言を許可する。
記者は椅子から立ち上がり、そして質問する。
「ロイテルの記者です。閣下は陛下がバーベンベルクに対して降伏なさるつもりという事ですか!?」
「いいえ、ノリクム連邦は解体し、新たにエステルライヒ帝国を建国します。」
バッハの言葉に会場はざわめき始める。
滅亡寸前のノリクム連邦が解体し、新たな国として誕生した。
しかし、こんな意味の無い事、必要あるのかという事に記者は困惑していたのだ。
鳥獣族の記者が手を挙げ、立ち上がる。
「アヴァス通信社ですが、帝国という事はアンナ様が皇帝になるのですか?カール王弟殿下が皇帝になさるのですか?」
「それに関しては半分違います。」
「それではカール様が摂政をし、アンナ皇帝陛下が引き続き女帝として支配をするのですか?」
「いいえ、カール王弟殿下とニホンジンのカズト様を皇帝に迎え、我が国の国章の『双頭の鷲』の様に、二人の皇帝による双頭政治を行います。」
会場は一段とざわめく。
何故なら、亜人国家で日本人が君主になるのは異例だからである。
ただし、それは転移された純粋な日本人の話だけであり、カズトがウィンドボナに訪れる前に車を手に入れた、アレマン侯国の君主の様に転生した日本人は例外である。
「つまり、これはアンナ皇帝に対する革命もしくは下克上ではないですか?」 「そうですね、但し我々はアンナ皇帝陛下に対して非道な事はしないと約束します。無事に帰ってきたら我々は快く迎えましょう!」
すると、他の違う記者が立ち上がる。
「はい、どうぞ。」
「ユニオン・プレス通信社です。新たな国、エステルライヒ帝国を作られましたが、何か新しい政策を建国時に行うのですか?」
「はい、カール様とカズト様の政策で真っ先に行うのは獣人の地位向上、そしてヒューマンもエルフ族も全て皇帝の元で皆を平等にするという考えであります。」
記者達は沈黙した。
何故ならこの発表に関しては記者の大半は困惑するばかりである。
何故、滅ぶ一歩手前の小国がこれ程の発表をする必要があるのか、彼らは理解できなかった。
だが、少数の記者はその発表に口角を上げていた。
「これで我々の記者会見を終了する、これから戴冠式だからね。それでは失礼する。」
「だ、大臣閣下!それでは内戦には降伏しないという事ですか?」
一人のエルフの記者が立ち上がり、バッハに質問する。
バッハは微笑みながらそれに答える。
「ああ、何度も言っているだろう?無論だ。我々は絶対に負けはしない!」
バッハは『控えの間』から立ち去り、続いて部下も立ち去る。
同時に記者も彼らが部屋から去った瞬間、記者はその部屋から一斉に飛び出す。
「早く行くぞ!ニホンジンだ、亜人国家でニホンジンの戴冠式を写真で世界で初めて撮り、記事にするんだ!」
「急げ急げ、俺達も早く戴冠式の場所に向かうぞ!」
「俺達はもうカメラマンを戴冠式で用意しているから、会社に戻り記事を作るぞ!写真が来れば即発行だ!」
各国の記者は急いで戴冠式に向かったり、彼らの会社に戻り、このノリクム連邦が解体されたことについての記事をすぐさま書いた。
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