第54話 摂政への希求
議会で内戦でのバーベンベルクに対する徹底抗戦が決定している頃、俺はシルヴィと宮殿の庭園で遊んでいた。
太陽の位置も低くなり、気温も段々と涼しくなる。
「カズトお兄ちゃん、やっぱり宮殿の庭って大きいね!すっごーい!キレイな花が咲いてる!」
「ホントだな。」
シルヴィの奴、元気に走り回るなぁ。
子供だからか、それとも獣人の中でも多分犬人族だからか、まあ、どちらかは分からないとして、凄く元気だ。
そういえば彼の兄のマルクスはどうしたんだろうか?
「なあ、シルヴィ。」
「何?カズトお兄ちゃん。」
「お兄さんは大丈夫なのか?」
「えっとね、少しだけ寝ていたりすればダイジョウブだって。」
そうか、それなら良かった。
まあ、過労だし安静にするのが妥当だな。
それにしても、この宮殿は便利だな。
宮殿からほんの少し歩くだけで、図書館や国会、博物館に植物園に教会、美術館に劇場など、色々な重要施設が隣接してる。
まるでここは日本でいう霞ヶ関みたいな場所だな。
「シルヴィ、俺はここで寝るよ。」
「えー、分かったよ。」
シルヴィは俺が見える所で遊び始め、俺は芝生の上で仰向けになって寝る。
涼しい風が吹き、近くの木々がざわめく。
それにしてもいい天気だ。
………あれ?何か暗くなったぞ、曇ってきたのか?
「カズト様、起きてください。」
女性の声が聞こえる。
目を開けると、そこに居たのはラウラだった。
俺はすぐさま、目を覚まし立ち上がった。
「どうした、何かあったのか?」
「いえ、私が陛下と一緒にお隣のパンノニア王国に向かう用事が出来まして、その間に監視、もしくは護衛を任せる人を紹介します。」
すると、ラウラの後ろから白髪の男性が現れた。
右目には眼帯を付け、立派な口髭を生やしている。
彼は俺を見ると、お辞儀をし、挨拶をする。
「私の名はセバスと申します、以後よろしくお願いします、カズト様。」
「彼が皇帝直属の侍従武官のセバスです、彼が貴方を監視しますから、それでは私はここでここで失礼しますよ、カズト様。」
俺はこの発言に不思議に思った。
何故なら彼は皇帝直属の侍従武官なのに、何故アンナと同行しないのか?
「皇帝直属なのにセバスさんはアンナとは一緒に行かないのか?」
「………はい、私は貴方様の護衛と監視を任されました。」
「成る程、それじゃよろしくお願いします。」
俺は軽くお辞儀をする。
セバスは何故か困惑するが、すぐに返事をした。
「はい………何か用事があればお声を掛けてください、近くに居ますので、それでは。」
セバスさんは後ろを振り向き、歩き始めた。
俺は聞きたい事があり、彼を制止させる。
「それじゃあ、今大丈夫かな?」
「はい、何でしょうか?」
「今、内戦がどうなってるのかと、カールが今どこに居るのかが知りたい。」
俺がセバスさんにそう言うと、彼の表情は険しくなる。
「それを聞いてどうするんですか?」
「いや、ただ聞いてみたいだけです。」
「………内戦の状況は、我々にとって最悪な状況に面しています、敗戦一歩手前です。」
そうか、もう来たのか………。
でも待て、バーベンベルクが内戦に勝ち、俺が領主になったとしてもそれで本当に良いのか。
ただ、ゲルマニアやエトルリアの傀儡になって良いのか。
いや、駄目だ!
このままじゃエルフやヒューマンが支配してダークエルフや魔族、獣人も差別に苦しみ続ける可能性がある。
彼らにも自由が必要だ。
それにはまずカールと話をしなければ………。
「カールの居場所は?」
「国会議事堂の中にある彼の部屋に居ます。」
「話がしたい、ダメかな?」
俺がそう言うとセバスさんは横に首を振る。
「それは難しいと思います、彼は今から簡略的な儀礼で摂政になります。」
カールが摂政………摂政ってあれか、飛○文化アタックぶちかます聖徳太子もしくは厩戸皇子の役職か。
確か、天皇の補佐だったっけ?
まあ、ここは日本とは違うから皇帝の補佐だとは思うけど。
だけど今はそんな事は関係無い……今すぐにでもカールに会いたいんだ。
「お願いだ、セバスさん。少しだけで良いから話がしたいんだ。」
「………まあ、アンナ様からはカール様に関しては何も仰っておりませんからな、良いでしょう。」
「ありがとうセバスさん!それでは案内して下さい。」
「承知いたしました。」
セバスはそう言うと、彼は深々とお辞儀をする。
行く前にシルヴィをここに一人では居させたら危険だ。
もしエルフとかに見つかったら拐われたり、暴行を受けたりしたらヤバイからな。
申し訳無いけどシルヴィを『王宮』に帰そう。
「おーいシルヴィ!マルクスの部屋に行っておいてくれ。」
シルヴィは摘んだ花を両腕で持っていたが、立ち上がったと同時にその花を落とす。
彼女は残念そうな顔をしていた。
「え?何でなの?」
「少しだけ用事が出来たから、マルクスが目を覚ましたら教えてくれよ。」
「………わかった、行くよ。」
シルヴィは落とした花を拾い集め、尻尾を下げ、悲しい背中を見せて、マルクスの部屋に向かった。
俺はとても申し訳ない気持ちになった。
後でシルヴィとちゃんと遊ぼう。
「カズト様、こちらでごさいます。」
「あっ、はい!」
俺はシルヴィを後にして、セバスに付いてカールの元に向かった。
セバスに案内され、カールの部屋の前に着く。
セバスは部屋の扉を四回軽くノックする。
「失礼します、カール様、今入っても宜しいでしょうか?」
「ああセバスか、構わない。」
ん?この声、カールか?
まるで聞き覚えのある女性の声だが………誰だっけ?
セバスさんはカール?の声を聞くと、慌てた様子で扉越しに話す。
「あの、カズト様もこちらにいらっしゃるのですが………。」
「なっ!バカ!何でそれを早く言わないんだ!!少し待ってくれ。」
そう言って、カールは俺を廊下で数分待たせる。
「どうぞ、入ってくれ。」
カールが居る部屋に入ると、意外にも質素な部屋の内装で、特に豪華絢爛な感じではなかった。
部屋の中央にカールが何故か腕を組んで仁王立ちしていた。
「フフフ、会いたかったぞカズト様、いやカズト!これで俺も対等な関係になったぞ。」
「いや、摂政だろ?」
俺がそうカールに言うと、彼は沈黙する。
だがすぐにカールは咳払いをし、喋り始める。
「ところでカズト、何しに来たんだ?姉さんならもう隣国のパンノニアに向かったよ。」
「いや、アンナじゃなくてカールに話があって来たんだ。」
「………知ってるよ、内戦についてだろ。」
カールの顔から笑顔が消える。
まるで、何か落ち込んでいる様な顔だ。
「まあ、座れよ。」
カールはソファに案内し、腰を掛ける。
俺もソファに座る。
「カズト、俺の姉さん、アンナ陛下は隣国のパンノニア王国に援軍を願いに向かったが俺は間に合わないと思う。もしウィンドボナが占領されても、パンノニアには王が居ないからそのまま姉さんが王位について反撃をするだろう。そしてお前は後もう少しでバーベンベルクの軍隊に解放されるが、お前に頼みたい事がある。」
「………何だ?」
すると、カールは立ち上がり、突然頭を下げる。
この雰囲気からして俺だけは見逃してくれとかいう魂胆だろうな。
俺はそう思ったが、カールの口から意外な言葉を聞いた。
「どうか………どうか他のダークエルフの市民や姉さんを処刑するような事を命令しないでくれ。」
彼は深刻そうな顔をしながら冷や汗を掻いている。
俺はこの発言にとても驚いた。
ダークエルフの平均寿命は知らないが、見た目からしてカールは少年だとしたら、こんな発言をする事が出来ることに俺は驚いた。
自分を犠牲にして他の人々を助ける事に驚いた。
「………それじゃあ、お前はどうするんだ?カール。」
「俺はお前を拉致して、この内戦が激化する状況を作り上げた張本人だ。処刑されて当然だろう、だから俺がお前を拉致したんだから恨んでるだろう、だからここに来たんじゃないか?」
俺はカールの言葉に首を横に振る。
「俺がもしバーベンベルクの王になっても、カールをそんな事で処刑をしたりする事はない。それに俺を拉致したのにも関わらず、街に行かせてくれるわ、自由に遊ばせるわでこんな楽しい事は無かったよ。それに精神的にも肉体的にも痛めつけたりする様な行為も無かった。本当に俺は拉致された人質か?と疑念に思ったよ。」
俺はそう言うと、カールは安堵したのか目がウルウルと涙を浮かべ、感謝する。
「街に行かせた覚えは無いけど、カズト、ありがとう!ホントにありがとう!!」
「だが、それは俺がバーベンベルクの君主だったらの話だ。」
「………え?何言ってるんだよカズト。」
カールは狐に化かされたような顔をしている。
そりゃそうだ、俺が一体どういう人か分からないからだろう。
「いや、実は俺は傀儡の王だそうだ。俺が殺すなと言っても、カールやアンナ皇帝の生殺与奪の権はゲルマニアかエトルリア政府に握られているからな、多分。」
「だ、だけどもゲルマニアは内戦、エトルリアは戦費による経済危機という戦後の混乱でエスターシュタットの内戦に介入が出来ないはず………。」
「それが最悪の結果だ。彼らの国内の問題を解決する方が重要なハズだ。俺が領主で傀儡のバーベンベルクなんか気にしないだろう。だから『現地の部隊に任せる』とか適当な事を両国の政府は言うだろうな。そうなれば、最悪、王室は略式裁判で全員処刑、ノリクム連邦は数日、もしくは数ヵ月間、バーベンベルク軍による虐殺、強姦、略奪などの無法地帯になるだろうな。」
すると突然カールは俺の発言に怒ったのか、カールは近くのテーブルをバンと大きな音を立てるように強く叩き、怒りを表す。
「な、何言ってんだよ、そんなのお前が止めれば良いじゃないか!」
「ふっ、俺は異民族で嫌われ者の日本人で、そして二つの政府の傀儡の王だぞ!誰がそんな奴の話を聞くと思う?俺ならプロの軍師であったり、素晴らしい指導者でない限り、俺はそいつの話を聞かないな。つまり俺は傀儡にぴったりな人物なんだ。」
「そ、そんな………じゃあ一体どうすれば良いんだよ!?」
俺はその言葉を待っていたかの様に、何故か無自覚に笑顔が溢れる。
そして俺は耳元に近づき、彼にその内容を伝えた………。
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