第52話 勝利の食べ物
――――コンコンコン。
誰かが部屋の扉を軽くノックする。
俺はその音にすぐさまベットから起き上がる。
「カズト様、昼食をお持ちしました!」
「ラウラとシルヴィか、ありがとうございます。」
扉が開くとラウラとシルヴィが入ってきた。
ラウラは両手で料理が乗ったお盆を運んでいて、シルヴィは服装が可愛らしいドレスを着ていた。
「残念ながら彼女のサイズに合うメイド服が無くて、私の昔の服を着せてあげたわ。」
「でもワタシはこれの方が好きだよ、ラウラお姉ちゃん!」
こんな豪華なドレスをラウラは所有しているのか?
シルヴィが満面の笑みでラウラに感謝すると、突然何かが倒れるような音が聞こえた。
バタン!!
「な、何だ!?」
俺は咄嗟にそう言ったが、 すぐにその状況がわかった。
ラウラはその場で悶えながら倒れていた。
「お、お姉ちゃんはズルいわ~!」
ラウラはへらへらと笑いながら鼻血を垂らしていた。
「ラウラ、大丈夫か?」
「………ハッ!え、ええ、大丈夫ですよ、それより昼食をどうぞ食べて下さい。」
ラウラはちり紙で鼻血を拭き、鉄で出来たお盆をテーブルに置いて言う。
「ありがとう!」
ん?さっきまで倒れていたのに、どうやって料理が乗ったお盆持ってたんだ?
………まあ、いいや!それはそうとシルヴィの格好は凄く可愛らしく見えるよ。
「シルヴィ、可愛くなったな。」
俺がシルヴィの頭を撫でながらそう言うと、彼女は頬を赤く染める。
「あ、ありがとう……だとございます。」
シルヴィは尻尾を左右に激しく振る。
よっぽど新しい服に嬉しいんだな。
それよりもラウラが凄い形相で睨んでくるのは気のせいかな?
殺気まで飛ばしてるし………はっ!まさかこいつもあれか、フレイヤと同じロリコンか!?
だったらあの時に倒れたのも頷ける。
それなら頭を撫でるのを止めなければいけない、生存に関わるしな。
というか、エルフ民族は子供が好きなのか?
俺がゆっくりシルヴィの頭から手を離すと、シルヴィは俺の手を頭に押さえる。
「離さないで、なでなですごく落ち着くから。」
スッゴい可愛いから本当はめっちゃ撫でたいよ、だけどラウラが睨んでるからな………。
そ、そうだ!
「シルヴィ、一応俺のお手伝いするんだから食事の邪魔は駄目だろう?な?」
「………わかったよ、でも後でも良いからなでてよね。」
「わかったわかった。」
よし、今は離れる事が出来た。
ラウラの反応は一体どうなって………。
「カズト様、シルヴィちゃんの頭気持ち良かったですか?」
ラウラは笑顔でこちらを見るが、目は笑っていなかった。
「う、うん気持ち良かったよ。じゃあご飯を食べようかな~!」
「あらそう、それは良かったわね?」
………よ、よし!俺は何も見てない!
あんな怖い顔をするラウラなんて見てない見てない!!
俺はそう考えながら、テーブルを見るとそこに置いてあった容器はとても見慣れた陶器製の容器だった。
いや、まさかこんな所で日本の食べ物が出てくるわけないだろ。
ただ、近くに置いてあった小皿には赤色のジャムらしき物が載っていたし、違うよな………。
でも、一応これは確認しよう。
「ラウラ、これは一体?」
「あれ?ニホンジンなら知っている食べ物を用意したんですが、まあ容器だけ見ても分かりませんので蓋を開けてください。」
「おう、そうだな。」
教えてくれないのか、まあいいや。
どれどれ、開けてみるかな。
俺は蓋を静かに開けると湯気と同時に匂いが自分の鼻に入ってくる。
俺はその匂いで瞬時に料理名がわかった。
カツレツに卵がどじていて、そしてそれをご飯の上に乗せているアレだ!
「これってカツ丼だ!」
「はい、ニホンジンはよく『カツ丼』って言ってましたが、私達は『シュニッツェル・ドゥーン』と言います。」
「シュニッツ………」
「シュニッツェル・ドゥーンです。」
「………あー、だいたいわかった!いただきます。」
「あ、ヒンベーレのジャムも使って下さい。」
「ヒンベーレ?」
まずそのままヒンベーレのジャムを舐めてみようか。
俺は少しだけフォークに付けて食べる。
………あー、これあれだラズベリーのジャムだな。
いや、でもなカツ丼はそのまま食べたいな。
ラウラには申し訳ないけどこのまま食べる事にするよ。
俺は名前は覚えてないが、このカツ丼をを食べる。
意外にこのカツは凄く薄いが、カリカリして美味しい。
こういうカツも好きだな。
すると、カツ丼を食べているとシルヴィが涎をダラダラ垂らしながら俺を見ていた。
「す、すみません、美味しそうなのでついヨダレが出て。」
「………食うか?」
「はい!あ、ガマンするもん、だってカズトの食べ物だから。」
「いや、一切れ位だったら食べても良いよ。」
「えっ!ホントに?まあカズトが言ってるから貰おうかな。」
手で与えるのは汚いから、自分のフォークでシュニッツェルをあげようかな。
俺はフォークでシュニッツェルをシルヴィに与える。
「はい、あーん。」
「あーん………うわ、これすごくおいしい!」
シルヴィは頬に手を押さえ、目をキラキラとしながら尻尾を振る。
カツ丼はまだ残っていたので、急いで俺はを食べようとした。
残りを食べ始めてすぐにラウラが俺の袖を引っ張る。
「あ、あの私も食べてみたいんですけど………。」
ええ、ラウラもか。
まあ、まだ残ってるし、そういえばここに小皿がある事に気づいたからこれで渡そうかな。
「え、じゃあ、小皿に入れるから―――」
「ちょ、直接、直接フォークで良いのでお願いします。」
………なんで!?ラウラどうしたんだ?
まあ、別に良いけど、まさかこの世界ではメイドにお金の代わりに食べ物をチップの様に与えないといけないのか?
俺が食べてるから毒味じゃないし、やっぱりチップか………まあいいや、与えよう。
俺はカツをフォークで刺してラウラに与える。
「はい、あーん!」
「あ、あーん………お、美味しいです。」
ラウラの顔は赤く染まり、まるで真っ赤なトマトのようだった。
彼女は赤くなると無口になり、ボーッと呆けていた。
「おい、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です!し、失礼します!!」
ラウラはフラフラとしながら部屋を退出し、彼女は部屋の扉を勢いよく閉める。
「………ラウラは大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思うよ、ワタシは知らないけど。」
「そういえば、何で俺にカツ丼、シュニッツェル・ドーンが出されたんだ?」
すると誰かが部屋の扉を強い力で押し開ける。
そこに居たのは先ほど出て行ったラウラだった。
「そ、それはですねカズト様―――」
「おい、ラウラ大丈夫か?急いで部屋から出ていったけど、まさかカツ……シュニッツェル・ドーンは苦手な食べ物だったのか?」
「ち、違います!ただ、ちょっと………って、それよりシュニッツェル・ドゥーンが出された理由はですね、ユーラでは罪人や捕虜に食べさせる食べ物だとニホンジンから言い伝えられているから我が国では採用してます。」
「へぇー………って、へっ!?」
何でだよ!?カツ丼が犯罪者に食べさせる食べ物だって、そんな事どこから………はっ!?あれか!
刑事ドラマとかで取調室でよくカツ丼が出てくるやつか!
多分、異世界に転生、もしくは転移した日本人が教えたな。
でも最近のドラマでは見たこと無いが、ポ○テピピックをみてる奴なら知っているかもしれないしな………。
俺はカツ丼、いやシュニッツェル・ドゥーンを食べ終え、すっかり満腹になった。
「フゥー、それにしても美味しかったな。」
「それは良かったです、では私は皿を持っていきますので失礼します。」
「あ、ありがとうございます。」
「シルヴィはどうしますか?」
「ワタシは少し部屋に残りたい。」
「そう………では持っていきますね。」
そうラウラは言って部屋から静かに退出した。
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