第50話 女帝の一報
太陽の高さも真上と位置が高くなり、今が昼間だとわかった。
通りには大勢のエルフやダークエルフの労働者やビジネスマン、貴族か公務員らしき人々が昼食やアフタヌーンティーを求めて、市場やカフェに向かう。
この人混みであのエルフから姿を隠せるだろう。
すると、シルヴィは俺に声を掛ける。
「カズト!タクシーを見つけたよ!!」
「ありがとうシルヴィ!」
シルヴィはすぐにタクシーを見つける。
俺は彼女の頭を軽く撫でながら感謝し、タクシーの運転手にマルクスが入った箱をトランクに載せるように頼む。
「すみません!タクシー乗るんですけど、この荷物を載せてくれませんか?」
「良いっスけど、それにしてもこんな大きな荷物を―――うっ!重っ!?これ何が入ってるんスか!?」
これ、そんなに重いか?片手で俺は軽々と持てたけど………ハッ!俺、転移する奴らには特殊な能力を手に入れていることを忘れてた。
多分、身体強化する能力か、だから杖で殴られてもそんなに痛くなかったし、片手でマルクスが入った箱を持てたのか。
だがそんな事は今はどうでもいい、箱を開けられたら困る!
ずるとタクシーの運転手は怪しくなって箱を開け、中身を確認しようとする。
ヤバイ、この中に獣人が入っている事が分かれば大騒ぎになる。
まるで俺が誘拐犯になるかもしれないし、あのエルフにも見つかるかもしれない。
俺はすぐさま、運転手の前に立ち、開けるのを邪魔する。
考えろ考えろ考えろ考えろっ!
どうすれば良いか考えろ―――っ!!
………あ、そうだ!
「こ、これには一般には見せられない極秘の兵器が入っておりまして、今すぐに宮殿に向かわないといけないのですよ。」
「あ、それはそれは大変申し訳ないッス。それじゃあこの荷物は慎重に運ばせてもらうッスね。」
「じゃあ俺と彼女は後部座席に座らせてもらいますね。」
「はい、良いッスよ!」
運転手はテキパキと荷物を載せ、そして運転手は運転席に座る。
絶対に、絶っ対に起きるなよマルクス!
「はい、そういえば宮殿って『王宮』の事ッスか?すみません、宮殿ってたくさんありますから。」
「あっ、はい、多分………。」
「ん?多分?」
「いえいえ、何でも無いです!じゃあ発車してください!!」
俺がそう言うと、運転手は軽く頷き、タクシーは発車する。
自動車は人混みで混雑している通りを手慣れているからか、スイスイと通りを走らせる。
舗装された道で振動は無く、エンジン音だけが響いていた。
シルヴィは横に座ると、小声で俺に対して話を始める。
「ワタシ、自動車に乗るの初めて。ねぇ、カズトの家って宮殿の近くにあるの?」
「宮殿の近くじゃなくて、宮殿に住んでいるんだけど自主的には住んでないから。」
「ん?………そうなんだ?」
シルヴィは頭を傾げながら話をし、タクシーに乗って数分が経つ。
すると、見覚えのある宮殿に到着する。
「お客さん着きましたッスよ、お代頂くッスね。」
「あの、外国のお金は使えますか?」
「んと、そうッスね、ヘルヴェティア・ガリアンならこの距離1ラッペン頂くッス。」
俺は服のポケットに入っていた財布を取り出し、1ラッペン硬貨で支払い、すぐさま車から降りた。
俺はマルクスが入っている荷物を運び、宮殿に入ろうとする。
「すみません、急いで入らして下さい。」
「ああ、だが待て、ニホンジンのカズト、その醜い獣人は誰だ。」
衛兵が俺を名指しにして、シルヴィを侮辱する。
シルヴィの帽子は先程の男に殴られた所で落とした事を思い出した。
シルヴィは衛兵の言葉に耳を伏せ、尻尾も先程までは振っていたのに、今は尻尾の先が下を向いていた。
俺は惚ける様に衛兵にに聞く。
「醜い獣人って誰の事ですか?」
「はあ?そこの女獣人だよ。獣人でみすぼらしい格好で、こんな奴を王宮に入ることは出来ない、というより貴様、何故宮殿の外に出ている。」
「そんな事はカールが全て知っているはずだ、早くカールを呼べ、大至急だ、俺が話をする。」
「何だと、ニホンジン風情が、偉そうに………。」
「良いから早くしろ!この箱には怪我人が居るんだ!今すぐ電話でも何でも繋げろ!!」
するといきなり衛兵の近くの壁に掛かっていた電話が鳴り出す。
「少し待て!………はい、こちら衛兵の………こ、こ、これはアンナ皇帝陛下!どうなさったのですか?………はい、分かりました。」
ガチャンと受話器を置き、俺らの方に振り返り、睨みつける。
「こ、皇帝の名により、獣人の入宮とその箱の『王宮』への持ち運びを許可する。」
「………ありがとうございます。」
俺はお辞儀をしたくはなかったが、軽く一礼をし、俺とシルヴィはアンナの許可でマルクスを連れて『王宮』に入る事が出来た。
それにしても、あの皇帝一体どこから俺達を見てるんだ?
俺は急いで、俺の部屋に向かうと医者とメイドのラウラがそこに居た。
「すみませんカズト様、私、用事が有った事を忘れていまして、無断で席を外してしまいました。」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも彼を早く助けてください。」
まあ、俺は逃げようとしたけどな。
俺は箱を開けると、涎を口から垂らしながら、幸せそうな顔でぐっすりと熟睡するマルクスが居た。
医者は溜め息を吐いて、俺に向かって文句を言う。
「それで、彼のどこが怪我人なんですか?まるで痛みを感じていない様ですけど。」
「せ、背中に鞭の痕がありまして、その治療を頼みたいと。」
「………分かりました、それじゃあ彼をひっくり返します。」
マルクスの身体をひっくり返すと、背中は赤く腫れていて、 一部の傷は化膿していた。
医師は目を丸くし、驚いた顔でマルクスの怪我を見ながら言う。
「こ、これは大変だ、エタノール消毒液、あと包帯と近くの教会から修道士の用意を!」
「は、はい!」
近くに居たメイド達が大慌てで消毒液と包帯を取りに行き、さらに近くの教会から修道士を呼びに行くが、ラウラはその場に居たままだった。
「ラウラは消毒液や包帯を探しに行かないのですか?」
「え、あ、わ、私はアンナ様にこの事を報告する係ですので、この状況を詳細に記憶して伝えないといけないので………。」
「な、なるほど?」
………まあいいや、ラウラがそう言うならそんなんだろうな。
すると突然、マルクスは目が覚める。
彼は急いで起き上がり、辺りを見渡す。
「こ、ここは?」
「お兄ちゃん!!!」
シルヴィはマルクスに泣きながら抱きつく。
本当にシルヴィはお兄さんの事が心配だったんだな。
………何だろう、心がモヤモヤする。
何か気になる事があるのか?
「シルヴィ、ここはどこなんだ?」
「王宮だよ、カズトが連れて来たんだ。」
マルクスは俺を見ると、すぐにその場を立ち上がり、深くお辞儀をする。
「そうか、最初は信用していなかったのですが、二度も倒れた俺を助けた事に感謝します、ありがとう。」
「いや、俺は別にここに連れて来ただけだから、それよりも傷の治療をしてもらいな。」
俺はマルクスを意外に礼儀のある奴だと思った。
だけど、彼の傷が治ったとして、これから働く場所があるのだろうか?
あんな酷い家で、そしてあんな雇用主の所には戻せない。
二人だけであんな劣悪な所に戻して住むのは少し可哀想だ。
「シルヴィとマルクスはこれからどうするんだ?」
「二人でまた違う所で働くよ、な、シルヴィ。」
マルクスはそう言うと、シルヴィは沈黙をしたまま下を向いていた。
「どうしたシルヴィ?」
「もうお兄ちゃんの傷つく姿は見たくない!カズト、お兄ちゃんやワタシをカズトの給仕としてで良いから雇って下さい!」
「シルヴィ、お前何言ってるんだよ!」
「お兄ちゃんは黙って!」
まあ俺は反対ではないが、ラウラや他の人はどんな反応をするのか。
俺は周りの顔を見てみると、彼らは渋い顔をしていた。
「まあ、まだ小さい子供だからな、周りのお世話とか出来るのか?」
「貧しい労働者階級だし、盗んだりするかもしれないから信用は出来ないッスよね」
まあ、普通はそんな反応だろうな………。
門番の衛兵で獣人に対してあんな反応を取っていたからな。
「そう?私は別に良いと思いますよ」
ラウラはそう発言すると、一瞬沈黙が起きたと思ったら周りの反応が一変する。
「そ、そうだな、ラウラ様の言う通りだな」
「ハハハ、それな!」
ラウラの言葉でこんなに意見がひっくり返るなんて、ラウラって実はメイド長みたいな立場か?
だから、人質の俺を一緒に街へ行くことが出来たのか。
だが、衛兵も執事も上下に頷いているから一体彼女の立場って何なんだ?
まあ、シルヴィとマルクスが俺のお手伝いをする仕事に就くことが決まりました。
「わーい!メイドのお姉ちゃんありがとう!」
「ふふっ、別に良いわよ、それにしても本当に可愛いなぁ―」
シルヴィは尻尾を左右横に振りながら、その場をジャンプしながら喜ぶ。
ラウラはシルヴィの反応に微笑んでいる。
「そういえば今は昼過ぎですが、カズト様はお腹を空かせてますよね、後でお食事を持ってきます」
「あ、ありがとうございます」
「マルクスくんは医師と衛兵、修道士に連れてもらって、客人の間という部屋で休んでいてください」
「………はい」
「じゃあ、シルヴィちゃんは付いてきて」
「はーい!」
ラウラはテキパキとその場の整理を行い、何も無かったの様に俺の部屋をスッキリとさせた。
俺はラウラ達が去った途端、一気に心が落ち着き、胸を撫で下ろした。
「………ふう、疲れた。」
そう俺は言うと、近くにあるベットに向かって倒れる。
それにしてもこの午前の数時間で色々な事があったな………。
それにしてもあのエルフやダークエルフの様に獣人に対しての扱いが酷過ぎるな。
ラウラは優しかったけど、あれじゃあ、いつか獣人達による内乱が起きても仕方がないな。
ああ、頭を使い過ぎた!少しだけ昼寝をしよう。
そして俺は昼寝を始める事にする。
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