第48話 獣人の兄妹
「あ、あれ!?ラウラ!」
俺は辺りを見ながら、大声で叫ぶ。
勿論迷惑になるかもしれないが、突然消えるパニックで声を抑えることが出来なかった。
「お客さん、店内は静かにッス!」
男性店員は俺に対して叱責する。
俺はその店員にラウラがどこ言ったか聞いた。
「ラウラは………先程のメイドはどこに行きました?」
「あー、先程のメイドさんは会計を終わらせて店から出て行ったッスよ」
何で置いていくんだよ!
数分のお手洗いタイムだぞ!
今追い掛ければ間に合うかな………。
「ありがとうございます、それでは」
俺は店を出て、もし周りを見渡してもラウラが居ない場合、すぐに宮殿に戻ろうと決めた。
そして何故俺を置いて帰ったのか聞いてやる。
店を出て、辺りを見渡しても、近くのオペラ座が混雑していて人混みが凄い事になっていた。
いや待てよ、宮殿に戻るよりこれは逃げるチャンスではないか!?
何で気が付かなかったんだろう!
そう思い、俺はこの人混みに紛れれば、ノリクムの奴等は捜す事は困難だろうと考え、この場から立ち去った。
―――――迷った。
あああああ!!どうして俺はこんなに方向音痴なんだ!
そういえばヘルヴェティアでの市場に情報を聞きに言ったのもフラフラと歩いていたら市場に着いた様なもんだし。
それに今回は迷ったから一旦王宮に戻ろうと思ったら迷子になるし………仕方無い、誰かを見つけたら王宮の場所を聞くか………。
というか、人通りの少ない場所に来たからなのか、全然人が見当たらない。
待てよ、人通りの少ない道って危険なイメージが俺にはあるんだが………。
すると奥からコツ、コツ、とゆっくりと歩いてくる人の靴音がする。
マジかよ!?そんなすぐ現れるか!?
靴の音からして数人程か?
とにかく、早く隠れないと………。
俺はそう思い、すぐさま路地に隠れ、状況を見ていた。
すると奥から道を歩いて来たのは小さな子供達だった。
二人とも帽子を被り、女の子の方は左目が髪の毛で隠れていて、男の子には右頬には傷跡がある。
彼らの服装はボロボロで至るところが破れていた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ、あのクソ野郎に鞭を打たれたけど、平気さ!イテテテ………」
「ほら怪我してるんだから、そんなに動かないで」
兄妹のようだな、それにしてもゴロツキとかじゃなくて良かった。
あとは彼らが去ってから俺も去ろう。
………いや待てよ、やっぱり助けた方が良いな、あの怪我はホントに酷い。
俺はそう思い、彼らに慎重に近づく。
すると俺は何か音を立てたのか、彼らが振り向く。
彼らは驚いた顔をして、男の子は女の子を彼の後ろに付かせて、彼女を守ろうとする。
男の子は息が荒く、今にもその場で倒れそうな雰囲気である。
「や、止めろ、い、妹には手を出すな………」
「お兄ちゃん!」
「待て待て、俺はお前らを助けようと―――」
「黙れっ!!お前らを信用できるか、支配層のエルフのくせに」
そうか、今エルフに変装していたのか、忘れてたよ。
彼の息が一段と荒くなり、顔色も悪くなり倒れる一歩手前になっていた。
だがそんな状況にも関わらず彼は俺に対して突撃し、腕に噛み付こうとした。
だが、彼は弱っていたからかスピードはほぼ無く、俺は簡単に避けることが出来た。
そしてまた彼は俺に突撃しようとしたが、突然彼はフラッとして、体勢を崩したと思えばそのまま地面に倒れ、横たわった。
女の子は彼女のお兄さんに近づき、大声で彼を呼ぶ。
「お兄ちゃん………お兄ちゃん!!」
女の子が彼の体をグラグラと揺らし、起こそうとする。
俺は彼らに近づこうとする。
「オイ、そんなに揺らすな。頭を打ったかもしれないし」
俺が近づいたからか、耳をピクリと動かし、女の子は後ろにいるお兄さんを守る体制を取る。
「お、お兄ちゃんに近づかないで!!」
彼女は身体を小刻みに震わせていた。
多分怖がっているのだろう。
だけど、特に俺は何もしていないし、痛めつけたり虐める様な事はしない。
俺は彼女を安心させようと頭を下げて安心させようとする。
「安心してくれ、俺はお前らを助けたいだけなんだ」
「………本当?」
「ああ、だから俺が彼を運ぶからお前らの家を教えてくれないか?」
「で、でも………」
「お兄さんが死ぬかもしれないんだぞ!?早く!」
「わ、わかった!」
俺は彼を肩に担いで、急いで運ぶ。
背中から彼の心音を感じる。
だが、段々と心拍が弱まっている感じがする。
急いで彼を運んで応急処置をしないといけない。
そう思い、俺は彼を担ぎ上げ、急いで彼らの住処に案内されながら彼を運んだ。
――――彼らの住んでいる場所に着いた。
そこはとてつもない異臭が漂う、人が住まない様な場所だった。
道の中央の溝には糞尿が流れ、道の端には乞食などがフラフラと歩いていたり、座っていたりしている。
その通りを歩いていると、女の子はある建物を指す。
「ここ、ここがわたしたちの家だよ」
そう彼女に言われ、案内された家はまるで廃屋のような家で、窓ガラスが割れ、煉瓦作りの壁が所々崩れていた。
「ご家族の方は?」
俺がそう言うと、女の子は顔を下に向け、横に首を振る。
「居ないよ、お、お父さんもお母さんも誰だかわからない………」
「………そうか」
彼らは孤児なのか。
もし、彼が重大な怪我や病気になったのなら、彼女は一人で頑張らないといけないのか。
まずは鞭に打たれたと言っていたからな、上半身の服を脱がすか。
おっと、その前に帽子を取らないと。
俺がその男の子の帽子を右手で掴むと、女の子はその俺の右手を押さえる。
「その手を離してくれ、早くしないと、もし重体ならお兄さんを助けられないぞ」
「やっぱりワタシたちが獣人族でも助けてくれるの?」
彼女の手はブルブルと小刻みに震えていた。
獣人だから、お兄さんを治してくれないと思っているのか。
だけど、俺はそんな事をする訳がない。
「は?当たり前じゃないか、獣人でも他の種族でも俺は助ける、だから安心しろ」
そういえば、女の子はこの獣人の妹という事は彼女も獣人なのか?
「君の名前とお兄さんの名前を教えてくれないか?俺の名前はカズトだ」
「わ、ワタシはシルヴィでお兄ちゃんの名前はマルクスだよ」
「じゃあシルヴィ、急いでバケツいっぱいの水を持ってきてくれ。」
「わかった、持ってくる。」
シルヴィは家を出て、水汲み場に向かった。
最初に彼の帽子を取り、続いて上半身を裸にする。
頭には犬の様な獣耳があり、彼らの髪色はオレンジ色寄りの茶色い毛である。
背中は鞭による傷痕が無数に有り、見るだけで痛々しいと感じる。
熱も無いし、もしかすると過労の可能性があるな。
まずは水を沸かすために火を点けないといけないが、近くにマッチが偶然にあった。
それを使って暖炉に火を点ける。
部屋は徐々に暖かくなる。
まだ昼前なのに、家の中は暗くて、寒い。
「水、持ってきたよ!」
シルヴィは走って水を入れに向かったからか、彼女は息が上がっていた。
「ありがとう、その水はどこから?」
「はい、下水ではなく近くの水くみ場だよ。近くの森から流れてきた地下水なのでキレイだよ」
うーん、綺麗ならこの水は沸かさなくて良いのかな?
「なるほど、じゃあ背中を拭いてあげてくれ」
「はい!」
シルヴィは布を用意して、マルクスの体を丁寧にそっと拭く。
するとマルクスは傷を拭いた痛みで目が覚める。
「イ、イテェエエエエエエッ!!」
「おお!気が付いたか」
「お兄ちゃん!」
シルヴィはマルクスに抱き着き、隠れていた尻尾が服から飛び出て、左右に大きく振っていた。
しかし、マルクスは俺に警戒しているのか、殺気を帯びている。
「………シルヴィ、アイツから離れろ」
「何で?あのお兄さん良い人だよ。お兄ちゃんを助けてくれたんだよ」
「良いから離れるんだ!!」
シルヴィは渋々とマルクスから離れ、マルクスの後ろの奥に隠れる。
「待てよ、俺はお前を助けたんだぞ。それなのに俺を攻撃するのか?」
「………それに関しては感謝する、だが、俺はお前を信用しない、俺がもしまた倒れれば俺の世界一可愛い妹を襲うんだろ!」
「………ハア!?襲わないよ!」
「………お兄ちゃん」
それにしてもお兄さん、マルクスのシスコンっぷりが半端ないな。
シルヴィも呆れているし………。
それに彼はまだ過労で回復していないからか、今にも倒れそうになり、フラフラとしている。
俺はマルクスに身体を休めるように強く頼んだ。
「しないから!お前は早く身体を休めろ、過労だから取り敢えず休め!」
「お前の知った事……では………ない…………」
マルクスはまたその場に倒れる。
俺は床に倒れる前に彼を腕で捕まえる。
ほら、やっぱり疲れていたんだ。
「シルヴィ、俺がマルクスを寝室に運ぶから案内してくれ」
「は、はい!」
「こんな時にラウラやヴァイスが居たらなぁー」
「ラウラ?ヴァイス?」
「いや、何でもない、気にするな」
俺はマルクスを寝室に連れていく。
それにしても本当にラウラは何で突然消えたんだろうか?
すると、玄関の扉からノックする音がする。
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