第46話 亡国の旧帝都
~ブリタニア百科事典⑧~
【ウィンドボナ】
エスターシュタットの東部に位置する都市で、ノリクム連邦の首都である。
人口は内戦前は約203万人でユーラ大陸ではブリトン連合王国のロンディニウム、ガリア共和国のパリシイ、ゲルマニア帝国のベアリーンと並ぶ世界都市である。
魔族との戦い(人魔戦争)まではエティショ家の帝都として、ノリクム=パンノニア二重帝国の首都として、ゲルマニア帝国を除いて中東欧の大部分に君臨した帝都であった。
クラシック音楽が盛んで、過去に多くの作曲者が活躍、輩出したことにより『音楽の帝都』・『楽都』と呼ばれている。
ウィンドボナには多くのカフェハウスという喫茶店が各所にあり、アナトリア帝国によるウィンドボナ包囲の際にアナトリア軍が置いていったコーヒー豆を発見した事で始まったと言われている。
現在ウィンドボナのカフェでは文化生活の中心である。
この町にあるウィンドボナ大学は欧暦365年に創立したエルフ民族圏内では最古の大学であり、多くの著名な魔術師、錬金術師、科学者を輩出した。
この他にも、ウィンドボナ国立音楽大学や帝国美術アカデミーなどがあり、芸術系の大学が多く存在する。
現在は東部に国土を構えているノリクム連邦が支配しているが、内戦でエスターシュタットの西側に誕生したバーベンベルク王国もウィンドボナを首都にしているが、ウィルデンを臨時首都にしている。
王宮内をメイドと歩いているとそのメイドが俺に突然声を掛ける。
「………あのエルフじゃなくて、ニホンジンですよね?」
これは言っても良いのかな、女王にもニホンジンってバラしてたから大丈夫だと思うけど………。
「ああ、日本人だよ。」
すると、彼女は目を輝かせながら、話を始める。
「私、初めてニホンジンを間近で見ました!本当に茶色に近い黒髪で黒い瞳なんですね!!」
「………君は俺の事が嫌いじゃないのか?」
「そうですね、私はニホンジンは苦手ですよ、よく悪い噂を聞くので………。だけど女王様に立ち向かってカール様を擁護しようとする姿はとても……その……カッコいいと思いました!!」
メイドは俺の顔に近づいて、喜んでいた。
このメイドは女王のように完全にニホンジンが嫌いじゃないんだな。
「す、すみません、大声を出して驚かせてしまって。」
「い、いや、大丈夫だよ。」
「そういえば、自己紹介を申し遅れました。私、メイドのラウラです。」
「炬紫一翔です。」
「………よろしくお願いします、カズト様。」
ラウラはダークエルフで褐色の肌に銀髪のロングヘアーのサイドポニーテールの女の子。
頭には淡いピンク色の花が付いたホワイトプリムに白いガターの付いたタイツとミニスカートを着ていた。
見た目の歳は俺と同い年、もしくはそれ以上の様に見える。
まあ、エルフだから歳はもっと年上だと思うけど………。
女性に年齢を聞くのは失礼だから聞かないでおこう、うん。
「そういえばどこに向かっているんだ?」
「一応、カズト様の部屋に向かっております。」
「なるほど、女王ってどんな人?」
「アンナ女王ですか?アンナ様は国民にとても優しい御方で、いつも様々な国民の声を聴いて、そこから選び、即座に実行する素晴らしい御方です。」
あの女王、アンナって言うのか。
国民には愛されているとは思うが、俺を暗殺させるような危険な事をさせるか?
直接聞きたいが、あの対応では近くに行って話し合う事は出来ないな。
しばらく俺は考えていると、ラウラは立ち止まり、後ろを振り返り俺を見る。
「こちらがカズト様の部屋です。」
案内された部屋に入ると、こじんまりとした小さな部屋で、生活に必要最低限の物や家具は置いてあった。
ヘルヴェティアの宮殿の部屋はすごく広かったが、こっちはなんか落ち着く様な、ジャストサイズな部屋だ。
「何か問題や質問があればお申し付け下さい、それでは。」
「あの、街に行く事は出来ますか?」
「はい、女王からは許可を貰っていますので大丈夫ですよ。」
「じゃあ案内してもらう事は出来ますか?」
「勿論、構いませんよ。」
「じゃあ、今から向かいましょう。」
「分かりました、少し用意しますので部屋で待ってて下さいね。」
そうラウラは言って、彼女の部屋に向かって走っていった。
部屋で待っている間、窓からの景色を見たり、部屋の中を探ったりしていた。
地図やこの国の言葉で書かれた本などが机の上に置いてあった。
多分、前の人が置いていったのだろう。
それ以外にラジオや新聞の新刊など、敵の、しかも日本人が収容するような部屋では無いことが分かった。
だけど、一体どういう事なんだろう………?
俺はそんな事を考えていると、扉がコンコンとノックし、ラウラが入ってくる。
彼女は急いで来たのか、呼吸が荒々しくなっていた。
「す、すみません、少し用事があったので時間が掛かりました。お、お待ちしましたか?」
「いや、全然待ってないよ。」
「そ、そうでしたか………ふぅー、それでは街に行きましょう。」
俺とラウラは部屋から出て、廊下を歩き、そしてカールと一緒に宮殿に入った時の建物から出た。
するとラウラは説明を突然始まる。
「カズト様、この王宮の正門はミカエル門と言いまして、ミカエル門の前にある広場はミカエル広場と言います。右にあるのは教会です」
「あれ門なんだ!てっきり宮殿の一部だと思った。」
「そういえば、この国のゲルマニア語は勉強しました?」
え、ゲルマニア語に種類とかがあるのか?
あ、あれか!訛りみたいなものか。
まあ、別に俺には会話を翻訳する力があるし、大丈夫だろう。
ただ、文字は理解できないから勉強はしていないのは合っているからな。
「文字の勉強は、勉強する時間が無かったけど、話し言葉なら俺の能力で話せるはずだよ。」
「いえ、我が国の訛りってニホンジンには慣れてる人と慣れてない人が居まして……カズト様はどっちかなと思いまして………。」
慣れてる人と慣れてない人が分かれる言語って何だよ!?
スッゴい気になるわ!
一体どんな言葉なんだ!?
「そうなんだ、でもそれは俺は聞いてみないと分からないしなぁー。」
「そうですよね、じゃあ分かりました!ちょっと街の中心部に向かいましょう。」
俺とラウラは王宮から少しだけ離れ、ウィンドボナの中心街に向かう。
そういえばさっき教会とかが有ったけど、この世界の宗教って種類とかあるんだろうか?
よく戦争のきっかけにもなったり、なんか主人公が迫害されたりするラノベとかよく見るし一応確認しないといけないな。
「………なあ、ラウラ。」
「はい、カズト様。」
「さっき教会が有ったけど、この世界の宗教って一体何があるんだ?」
「宗教ですか?このユーラには四大宗教、もしくは六大宗教と言われるのがありまして我が国の国教は『オリュンポス教』で、他の国には『ユグドラシル教』に『ルーシー正教会』、『ロムルス教』です。それら四つの宗教を『四大宗教』と呼びます。」
「六大宗教は?」
「六大宗教は先程言った四大宗教に、魔族が信仰する悪魔教と魔女教を纏めた名前の『サバト教』と、有名貿易港や温泉街、ポーションに必要な水の採水地で信仰されている『アクシズ教』があります。」
へぇー………ん?今なんか聞き覚えのあるような宗教がチラホラ出てきたけど気のせいだよな。
それにしても多くの宗教があるんだな。
「昔は勇者の回復や生き返らせたりする場所で国々から重宝されてた場所だけど、魔族との戦いで、勇者や兵士を生き返らせる聖職者や修道士がバタバタと沢山倒れ、しかも魔族の国々でも同じ事が起きたから、戦いが終わってから、現在は回復以外の教会での魔法はユーラの全ての場所で条約によって禁止されています。今の教会の役割は学校や孤児院、戦争時の負傷者に対する避難所などになりますよ。」
「へぇー、そうなんだー。」
生き返らせるって、まるでド○クエみたいなゲーム世界だな。
だけど、もしこの世界で死ぬと生き返ることは出来ないのか………。
ラウラと俺はそんな事を話していると、街の中心部に到着する。
そこはオペラ座や美術館、国会議事堂に植物園など新旧の洋風建築が建ち並ぶ街で、歩道には多くのダークエルフが歩いていたが、一番驚いたのは他にスーツを着たゴブリンやケンタウロスなどが闊歩していた事だ。
他の種族もこの国にいるんだな、何か異世界観出てきたけど、できれば鎧を着たケンタウロスや極悪そうなゴブリンを見たかったな………。
街には大きな道路が通っていて、中央には路面電車が走り、線路の側道にはガソリン自動車や魔力車、電気自動車や馬車などが縦横無尽に走っている。
今までこの異世界で訪れた、どの街より大都市であった。
「すげぇ!まるで古い映画やドラマを観てるような街並みみたいだ!!」
「ふふん!そりゃ約六百五十年も中央ユーラに広大な領土を支配した帝国の帝都ですからねっ!」
ラウラは自慢げに胸を張ってそう言う。
それほどこの国に誇りを持っているんだな、この国の国民は………。
対して俺が王になる国はこんな傀儡の王に聞く耳を立てないだろうな。
ん?そういえばこの地域を取り合ったのに戦禍でボロボロになってないような………。
「そういえば、エスタ……ノリクムはインフラが先の戦争でボロボロだって聞いたけど、綺麗な街並みだからそんな面影無いし………」
「はい、それは西部の、カズト様が領主をなさっているバーベンベルク王国の地域はユーラ戦争の主な戦場になっていたから、東部の特にウィンドボナは特に被害はありませんでしたよ」
「そうなんだ、てっきりこの地域での戦争はノリクム全体だと思っていた」
「………あのカズト様、私のオススメのカフェがありますけど、どうしますか?行きますか?」
「うーん………行ってみたいけど、この国のお金は持って無いし、奢らせるのも悪いよ」
ラウラはニヤニヤしながら俺を見る。
するとラウラはポケットから金貨が沢山入った麻袋を取り出す。
「フフフ、そうだと思ってお金を用意しておきました!」
「良いのか?そのお金はラウラが働いて稼いだお金じゃないか?それなら奢るのも悪いよ………」
「へぇー、私のお金の心配してくれるんですね。大丈夫ですよ、王宮のメイドや執事はこう見えて御給金が高いんですよっ!」
執事だけでなくメイドも、ってそんなにお給料高いのか?
そういえばどれぐらいか気になるな………ゴクリ。
「まあお金が沢山有るんだったら仕方ない、なら行こうか!」
「ありがとうございます、それでは行きましょう!!」
俺とラウラは彼女かよく行くというカフェに向かう。
それにしても、ラウラってすごく『ザ・メイド』って感じで、オリヴィアやヴァイスはメイドでは無いからか、なんか違う感じかするもんな。
清楚で優しいし、言葉遣いも良いし、美人でスタイルも良いし、文句無しだよ!!
「着きましたよ!ここです!!」
「おおー!」
大通りから少し離れたところにある少し大きめなカフェに着く。
屋根やショーウィンドーの縁の壁などに若草色がペイントされていて、可愛らしい外観が気持ちをワクワクさせてくれる。
そのショーウィンドーには多数のケーキが置かれていて、どれも美味しそうに見えた。
「実はここのお菓子は私のオススメで、物凄く美味しいのよ!」
「へぇー、それはすごく楽しみだな!」
そういえば、昨日の夜から何も食べてないんだよな。
めっちゃ腹が減って死にそうだよ………。
でもその前に店員に怪しまれたり、怖がられたり、嫌われたりしたら怖いからエルフのカツラを着けてから入ろう。
俺はカールから貰ったカツラを被り、カフェに入店する。
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