第45話 ダークエルフの女王
―――――ん?朝日………か?
うーん、今何時なんだろう?
それにここは一体どこだ?
振動やエンジン音からしてここは車の中………か?
俺はそう思い、ゆっくりと光が漏れている車窓を覗く。
覗いた車窓の外に広がっていたのは、昨日の静かな田舎町とは違う、大都市の景色だ。
白色の石造りの家屋が整然と並んでいて、街の通りには人々の活気が溢れていた。
「起きたか、カズト」
運転席からニッコリと俺を見つめるカールがそこに居た。
俺はカールをどうにかして倒そうと、近くに武器になりそうな物が無いか確かめる。
「残念ながら武器みたいなものもありませんし、あと俺はカズトを殺さないので安心してくれ」
「そんな事、どうお前が証明するんだよ」
「うーん、そうだな………今すぐには証明出来ないが、今から向かう場所で証明するよ。」
「そうだ、ここは一体どこなんだ!教えろ!」
「ここはウィンドボナ、ノリクムの首都だ。ゲルマニア経由だから時間は掛かったがな」
ウィンドボナ、ノリクム………え!つ、つまり俺は敵の本拠地に来たのか!?
まさか俺が処刑される様な事は無いよな、カールの反応を見たら分かるし、記憶が曖昧だけど日本人が必要とか言ってたような………。
そんな事を考えながら、自動車は右折をする。
交差点を右折すると、先程の通りより大きな通りに出る。
その通りには多くの馬車や自動車や多くのダークエルフが通りに居た。
まるで映画のような光景に俺は目をキラキラさせながら車窓を覗いていた。
「見えてきたよカズト、正面のアレが俺の家でノリクム連邦皇帝の宮殿の『王宮』だ」
自動車が急停車する。
車窓から外を覗くと壁が白色の立派な宮殿に着く。
というか、こんな街の真ん中に宮殿があるのか。
なんか庭が大きくて、周りが何もない平地にドーンとあるようなイメージがあったわ。
まあ、建物は立派だけど。
カールは車外に出て、後部座席の扉を開けて言う。
「カズト、早く車から出てくれ、車を動かせないんだよ」
「お、おう分かった、そういえば誘拐されたんだったら俺の手とかに縄とかで縛らないの?」
「………カズト様がそう言うんだったら、縛るけど良いのか?」
「いやいや、縛らなくても良いよ!!」
「じゃあ早く降りてくれ」
カールが真面目な顔をしたため、俺は急いで車から降りた。
カールは衛兵に俺の監視を頼み、カールはまた車に乗車して停めに行った。
そういえば車から降りると宮殿の大きさを改めて実感した。
入り口の両脇には片方二体ずつの計四体の彫像が置いてある。後ろの広場には様々な建物が建ち並び、官庁や議員らしき人々が縦横無尽に歩いていた。
広場の左側には立派な教会が立っていた。
衛兵は俺をジロジロ見るが、そこまで驚いてはいなかった。
「おいカズト、置いていくぞ」
すると車を停めに行ったカールが戻ってくる。
いや、車停めるの早いな!駐車場近かったのか?
まあ、そんな事は今はどうでも良い。
俺はカールに言われ、急いで宮殿の中に入る。
宮殿内に入ると建物内は豪華で綺麗な内装が施されている。
俺の驚きを隠せず、口をあんぐりをさせる。
同時にカールがニヨニヨと俺の反応を楽しんでいるのか、口角を上げながら微笑みながら俺を見ていた。
俺はカールのその顔にグーパンを喰らわせたかったが、ぐっと堪えた。
宮殿内をカールに付いて歩いていると、少し大きめな扉の前に立つ。
近くに居た執事らしき人が「ここでお待ち下さい。」と言い、扉の前で静止させる。
何分間かその場で待機していると、部屋から誰か男性の大声が聞こえる。
すると突然その扉がゆっくりとギギギという音を立てながら開いていく。
その部屋はとても広く、赤紫色のカーペットが敷かれていて、部屋の中央の天井には立派なシャンデリアが吊るされている。
部屋の奥の中央には数段の壇上の所に金色で装飾された玉座と、その両脇には玉座よりも小さな椅子が複数置かれていた。
玉座の上には天蓋があり、そこにはこの王家の紋章が描かれていた。
玉座には女性のダークエルフが座っており、左目には泣きぼくろで、瞳の色はカールと同じで紫と金のオッドアイ、髪型はシニヨンヘアで、彼女は純白の美しいドレスを着ていて、頭には赤と金、そして真珠などの宝石で飾ったコロネットを着けていた。
まるでお伽噺に出てくる女王様がそこに居た。
するとカールが彼女の前に跪く。
「女王陛下、ヘルヴェティアから只今戻って参りました」
「うむ、ご苦労である、がその前にカールの横で、しかも私の前で突っ立っている無礼な紳士は一体誰だ!?」
するとカールは跪いたまま俺のズボンの裾を引っ張る。
「馬鹿!女王の前だぞ!!何やってるんだよ!!」
俺は知りたい事、聞きたい事が山ほど有った。
俺はそんな事を考えていた為、カールの言葉に気がつかなかった。
「女王陛下に聞きたい事があります!」
「貴様、陛下の前で―――」
衛兵がそう言って俺を止めに行こうと近づいてくるが、女王は衛兵を止める。
「よい。ニホンジン、何か言いたい事があるのなら言うてみなさい」
「カールは貴女の家族の一人なのに何故危ない目に遭わせたのか、お聞きしたい」
「それは次期継承者として色々な経験をさせるべきだと思った。それが彼にとってピッタリだと私が判断しないといけないからだ、何の文句があるのか?」
「『何の』って、カールは―――」
「もう良いカズト様、俺の事はもう良いんだ」
カールは俺の話を止めに入り、カールは頭を深々と下げる。
「すみません、姉………女王陛下」
「ふん!別に私は気にしない、だって私は寛大だから」
いや、寛大って自分で言うものか?
「流石は姉………陛下、ありがとうございます」
「ところでカール、私に会いに来るとは何か重要な話があるのかな?」
「はい、この横にいるエルフに見える………あれ陛下?」
「何だ?」
「そういえば、何故このエルフをニホンジンと分かったんだ?姉………陛下」
カールはそう言うと、女王は目を泳ぎ、慌て始める。
カールはその瞬間、懐疑的な目で女王を見る。
「い、いや?何となくよ何となく。あともう良いわよ『姉さん』で。カールも大変でしょ?」
「そ、そうですか………では話を戻して、姉さん、実は彼はニホンジンでして、名はコムラサキ・カズトと言います。」
「………よろしくお願いします、女王陛下。」
カールは俺を淡々と紹介すると俺が女王に挨拶をすると、彼女は沈黙をする。
だが、その沈黙はすぐに終わり女王は話始める。
「彼を……捕虜ではなく、『ペルソナ・ノン・グラータ』にします。」
何だ?俺はこの国で働くのか?
まあ、この国で領主をする予定だったから別にいいけど………。
………めっちゃカッコいい役職みたいな名前じゃん!!
『ペルソナ・ノン・グラータ』か、一体どんな仕事をするのだろう?
俺は何か分からないカッコいい名前の役職に働く事にワクワクしていたが、カールは何故か身体を震わせながらひどく怒っていた。
「姉さん!彼は、カズト様は私の命の恩人です!!それは余りにも酷い判断では!?」
カールはそう言うが女王の目は据わっていた。
だが、女王は溜め息を吐く。
「………そうね、でも私は彼を絶対に認めないわ。本当なら蛮族の国に国外追放だけど、命の恩人なら仕方ない、明日までに彼の追放以外の処遇を決めるわ」
「ありがとうございます」
カールは俺の為に怒っていたが、ペルソナ・ノン・グラータって何だろう?
俺はそう思い、カールに小さな声で尋ねる。
「なあ、ペルソナ・ノン・グラータって何だ?」
俺がそう言うと、カールは驚いた顔で俺を見ながら呟くように話す。
「知らないのか!?ペルソナ・ノン・グラータは『好ましからざる人物』という意味だ」
………ああそうか、俺は女王に嫌われているのか。
まあ、当たり前だろう。
日本人で西側にバーベンベルク王国という国を持つ領主で、その国とこのノリクムという国は内戦中だからな。
そんなに嫌いなら国外追放すれば良いのに、一体何が狙いなんだ?
それにバーベンベルク王国に行って、早くヴァイスを安心させないといけないし。
「もう話は済んだわね、カール、貴方は今から議会で仕事があるから用意しておきなさい」
「………はい、承知いたしました」
女王は立ち上がり、すぐに彼女は部屋から立ち去る。
俺とカールは執事に案内されて、カールは議会方面に向かった。
俺はどこかへと衛兵と執事に連れられる。
俺はその後に執事から任されたメイドと入れ替え、宮殿を案内されていく。
宮殿内を歩いているとメイドが俺に突然声を掛けてきた。
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