第42話 アレマン候国
~ブリタニア百科事典⑦~
【アレマン侯国】
中央ユーラに位置する君主国家。ヘルヴェティア連邦とエスターシュタットに囲まれた小さな国である。主要民族はハーフエルフで君主はハイエルフが君臨している。
人口はおよそ1万2000人で、首都はフローリアン。
政治体制はアレマン候による絶対君主制であるが、立法会や裁判所もあり、国民投票で君主制の存廃を決めることができ、実質の立憲君主制である。
民法は伝統的にエスターシュタットにあった今は滅びたノリクム帝国の民法、刑法はヘルヴェティア連邦の刑法を元にしている。
国土の面積は南北に25キロメートル、東西に6キロメートルととても狭い。
産業は昔からの酪農と観光業、近代化により時計などの精密機械のほかに、この国の誇りと言われている切手産業である。
アレマンの切手はとても精巧であり、国内のみならず、ユーラ諸国の約8割の切手の生産を賄っている。通称切手の国。
軍事はノリクム帝国が魔族との戦いで滅び、安全保障政策の見直しが行われたが、対抗できる戦力を保持していなかったため、非武装中立地域とし、安全保障はヘルヴェティア連邦との関税同盟でヘルヴェティア連邦軍が安全保障を担っている。
新しいアレマン家の君主のフランツ候は自分の様々な技術を使って国民に対して協力的で優しい君主を目指しており、国民からとても愛されている。
俺とヴァイス、アオイとオリヴィアとカールはアオイが乗っていた馬車に無理矢理乗って、森を抜け、湖沿いの道を走り、峠を越え、途中、小さな町の市場で食材を買って、昼御飯を作って食べ、気付けばもう夜に近い黄昏時になっていた。
と、同時に俺達はアレマン侯国の首都、フローリアンに着く。
フローリアンの街は首都というより、のどかな田舎町って感じで、静かな町だ。
高く聳える山脈に囲まれ、街の西側には川が流れていて、反対側には小さな丘があり、その丘の上にこの国の領主の居城のフローリアン城がある。
「到着しましたよ、私たちは車を借りるために領主の所に向かいますが、カズト様とヴァイスさんは街を観光しますか?それとも私達と一緒に領主に挨拶しますか?」
「うーん、じゃあ一応挨拶するよ。隣国だし、仲良くしないとね」
「じゃあ私もカズト様に付いて行くのです」
アオイは俺達を確認すると、ニッコリと笑みを浮かべ、頷く。
しかしすぐに笑顔が消えて、オリヴィアとカールを見る。
「貴方達はどうするのよ?」
「私は本物のエリアス大使に電話してから合流するよ、カズトとオリヴィアは絶対に私の所に後で来なさいよ、オーガなんて信用できないからね!」
「あらあら、信用できないなんてまだ貴女はそんな事を言ってるのね、本当に可哀想だわ~」
「ああ?黙れよオーガ」
「あんたもオーガオーガ五月蝿いわよ、糞パツキン」
アオイがそう言うと、オリヴィアは近付いてお互い睨み合う。
一方、カールは普通に手を挙げる。
「じゃあ俺はカズト様に付いていくよ」
「フン、そう言ってオマエはカズトを暗殺するんだろ」
「誰がカズト様を殺すか!俺はカズト様の領主の元だけど、俺は国を従えるんだ」
「いやいや、まだ決まってないからね、何先走ってるんだよ、ったく、じゃあ、また後でなカズト」
オリヴィアはカールと碧を睨みながら、ゆっくりと去っていく。
俺はヴァイスとアオイとカールと一緒に領主の住むフローリアン城に向かう。
フローリアン城に着くと石レンガ造りの小さくてこじんまりとした可愛らしい城がそこに建っていた。
その城には小さな城門があり、そこに二人の旧式赤と青色のカラフルな軍服を着ているハーフエルフが立っていた。
「止まれ!侯爵様に何の用だ、証明書を見せろ」
「ヘルヴェティア様直筆のサインです、自動車を借りに来ました」
「……サインは本物だな。そうか、少しそこで待ちたまえ。お前は彼を見張れ」
「ハッ!」
一人の衛兵がこちらをじっと見つめる。
もう一人の衛兵は受話器を取り、電話で連絡をする。
電話で連絡した衛兵は受話器を元に戻し、俺らの方に近付いてくる。
「侯爵殿下本人からあなた方の入城並びに侯爵殿下の謁見の許可を確認しました、それでは私に付いて来て下さい」
そう言って、後ろに振り向き、衛兵はゆっくりと城内へと入っていく。
俺らもその衛兵に付いて行き、続いて城内に入る。
白塗りの壁に小さめな可愛らしい城だが、それでも異国に来たような感覚を味わえる。
………まあ、異国どころか異世界だけど。
城内に入って数分で、広い部屋に着いた。
「ここでお待ち下さい」
衛兵はそう言って、部屋から出ていく。
その部屋には小さな窓が沢山あり、オレンジ色の魔石のランプが部屋を照らしていた。
すると一人の執事姿のハーフエルフとメイド姿のエルフが入室する。
「フランツ侯爵殿下である、頭を下げよ!」
そう言ってハーフエルフが言うと、そこにいた全員が頭を下げ、礼をする。
俺も周りの反応に真似して礼をする。
するとコツコツと靴音が聞こえ始め、ゆっくりと侯爵が入ってきた。
そして椅子に座り、一言話始める。
「お客人方、面をあげよ」
そう言って俺達は顔を上げ、侯爵を見る。
そこに居た侯爵はレナと同じハイエルフで、ただし目の色は左目は青色で右目は赤目のオッドアイで、顔立ちはまるでハリウッドスターの様なイケメンであり、更に身に付けている服装や装飾類で上品さが向上している。
正に彼は『高貴』を体現する様な侯爵だ。
「こんな辺境の国にようこそ、ところでアオイとはこの中の誰か?」
「はい、私でございます」
「そうか、アオイよ、君は自動車を借りたいと言ったな」
「はい、私はエスターシュタットに入国する為と次期領主である彼を連れていく為でございます」
「なるほど、君がエスターシュタットの新たな領主か」
「は、はい、炬紫一翔です」
「エスターシュタットは内戦中だが、元は文化的にも経済的にも素晴らしい国だ。貴国の発展を願う」
そうフランツ侯爵は言いながら、玉座から離れて俺に近付き、握手を求め、右手を差し出す。
俺も右手を差し出し、握手をする。
握手し終えると、後ろに振り返る。
「メイドさん、ちょっとこっちに」
「はいフランツ様、何で御座いましょうか?」
「彼らを中庭に連れて行ってくれ、自動車を用意するから」
「はい、畏まりました、殿下」
そうフランツ侯爵がメイドに言うと、彼女は扉を開け、案内する。
すると侯爵は俺の足を止め、耳元で小さな声で話す。
「カズトさんはここで少し待ってくれ、少し話をしよう」
「えっ、わ、分かりました」
フランツ侯爵がそう言うと、俺はそこで立ち止まる。
それに気づいたヴァイスは俺の所に来る。
「カズト様、中庭に行かないのですか?行かないのなら私はここに居るのです」
「そうだな………侯爵様は彼女、ヴァイスをここに居させてもよろしいでしょうか?」
「ええ、別にメイドなら良いですよ。それに私を名前で呼びなさい、一応領主同士、対等な関係になるからね」
カールと碧は心配そうに俺を見ながら部屋を出る。
部屋の中には俺とヴァイス、フランツさんと執事の四人だけになった………。
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