第39話 オッドアイ
数十分が経ち、オリヴィアはその場で俺とヴァイスの制止から逃れようと暴れまくったが、最終的にカールに対しては無傷で守る事に成功した。
ただし俺は………まあボコボコに殴られたけどね、本当に痛い。
ヴァイスは時々オリヴィアを睨みながら、俺の心配をしてくれる。
本当にヴァイスは優しいな、泣けてくるよ………。
「だ、大丈夫ですか?カズト様。」
「ああ大丈夫だよ、だが、ここで俺を殴る意味あったかオリヴィア?」
「フン、昨日ヴィルヘルミナ様にやった事と宮殿で私にやった事の罰だと思えば良いだろう。」
チッ、朝のは仕方無いが、昨晩のやつもまだ覚えていたのか。
まあ、俺にも悪い所があったし、殴られるのは仕方が無いな、うん。
「さあ、コイツを連れて行く事になったけど、この馬を馬車馬から乗用馬に調教する時間は無いし、歩いて駅に向かうしかないわ。」
「………そうだな、俺も朝食を食べてないから腹も減ってきたし、一度街に戻るべきだな。」
「決まりね、じゃあその前にその死体を埋めるから、手伝いなさい。」
空を見てみると太陽の位置も出発した時と比べて位置が高くなっている。
オリヴィアは地面が柔らかい所を探し、その場を魔法で小さな風の竜巻を起こし、その竜巻をドリルの様に使って穴を掘る。
数分で人が一人入れるような穴を掘り、死体を入れ、その死体の上から土を被せ埋める。
俺とヴァイス、オリヴィアは黙祷するがカールは直立不動で死体が埋まった場所をじっと見つめ、黙祷はしなかった。
オリヴィアはその後馬車から馬を解放し、俺の方へ振り向く。
「ほら行くわよカズト、ヴァイス。」
あ、こいつもう俺の名前を呼び捨てに呼んでるよ。
まあ、こっちの方が親しみやすいし別に良いけど。
「あと、そいつを逃がさず連れて行くから、カズト、貴方に任せるわ。」
「はーい、了解でーす。」
「………次にそんな返事をしてみなさい、私の伝説技『ゲルマン・スープレックス』をかけるわよ。」
『ゲルマン・スープレックス』って『ジャーマン・スープレックス』の事か?
へぇー、この世界にもプロレスなんて有るんだ。
だけど今はそんな事を考えながら場合ではない。
「行くぞ、前を歩くんだ。」
オリヴィアの言葉に俺はゆっくりとカールを連れて歩き始める。
意外にもカールは命令に従い、ゆっくりとだが歩いてくれた。
だけど、一番の問題はここから街が離れすぎている。
最悪、遅ければロツェルンの街に着く時間が昼間になるかもしれない。
急ぐべきかもしれないが、両手首を縛られているカールを連れては早く走れないかもしれないし、いや、敵だから優しい対応をしてはいけないのか?うーん………。
「カズトさん、歩かないんですか?」
「………。」
ヴァイスとカールは俺をジーっと見つめる。
俺は可愛いと感じたのかヴァイスの頭を撫でながら俺は言う。
「あ、ごめんごめん、ちょっと考えていただけだ、心配してくれてありがとうなヴァイス。」
「は、恥ずかしいから止めてくださいなのです………。」
ヴァイスが赤らめながらそう言ったため、俺はすぐにヴァイスの頭から手を離す。
「……随分と腰の低いニホンジンだな。」
カールはムスッとした顔で俺の顔を見ながらそう言う。
「そうか?これが普通だと思うけど。」
「いや、領主は堂々としないといけない、そんな使用人に対してペコペコ頭を下げるお前の様な奴に領主の資格は無い。」
「な、なるほど………。」
するとカールの発言にヴァイスは異議を唱える。
「私はこのままのカズト様が良いと思うのです、優しい君主像って素晴らしいじゃないですか?」
「だが対外的にも優しい君主は他の君主に馬鹿にされるだけだ!まあ、エトルリアとゲルマニアが選んだ人だからな、コイツは傀儡確定だろうな!」
正論だ。
エスターシュタット、もしくはノリクムの合意無しで決定したんだ。
批判されたり、エトルリアとゲルマニアの傀儡だと思われても仕方が無い。
だが俺はそんな傀儡的な君主になるという考えは毛頭無いと思っている!
絶対に国民を第一に考える、それをするために………。
「じゃあ、俺がゲルマニアとエトルリアの傀儡にならない事を約束しよう。」
「どう約束するんだ!?馬鹿も休み休み言うんだな。」
「じゃあ、カールを新しい宰相に任命しよう!」
俺がそう言うと、カールは目を丸くして無言になり、聞いていたオリヴィアが振り向き呆れた表情でこっちに来る。
すると俺の胸ぐらを掴み、叱責する。
「馬鹿かお前は!?お前はコイツに殺されそうになったんだぞ!」
「だけど、そうしか考えられなかったから………。」
「アンタの脳ミソが空っぽだという事がよーく分かったわ!それにコイツは只の一般人かもしれないんだぞ!!そんな奴を宰相だと?」
「只の一般人が何が悪い!俺も元は学生だ!一般人だ!!日本人でもな、転生した奴等は全員元一般人だ!」
するとカールは何故か突然激怒する。
「フン、誰がこのニホンジンと同じ一般人だゴラッ!俺は貴族、エティショ家の長男だぞ!」
オリヴィアはカールの言葉を聞くと、首を傾げる。
「エティショ家?そんな貴族の名前聞いた事無いわよ、一応私でもユーラの貴族の現役の一族の名前全ては覚えているし。」
するとカールは腰を曲げ、自分の左目に指を軽く乗せる。
「おい待て!自分の目を潰すような事をするな!!」
「フン馬鹿め、自分から目を潰すかよ!これはコンタクトレンズだ。瞳だけは簡単に変化が出来ないからな。」
するとカールは左目からコンタクトレンズを摘まむ。
コンタクトレンズを摘まみ取った左目は金色に輝く眼を見せる。
紫色のカラーコンタクトは外れた瞬間、魔法によってか粉々になって消えていった。
「この瞳が証拠だ、このオッドアイがエティショ家の証だ。」
「………だからどうした?そんなものを見せても私にはエティショ家が分からないわよ。」
「そうか、もう良いよ、君に話しても意味が無いと分かった。」
そうカールは言うと、『エティショ家』について何も話さなくなった。
カールは適当な布切れを手に取り、眼帯のようにカールは自分の黄色い目を隠す。
「……あ、このダークエルフと話してたら、貴方との話を忘れちゃったじゃない!………まあ良い、後で思い出すかもしれないし。」
「お、おう。」
………オリヴィアの前ではカールを宰相にする話は止めておこう。
まあ決定ではないし、どうなるかも決めてないから別に話さないとは思うけど
するとカールは俺の近くに来て、耳元で囁く。
「俺は先程の宰相の話、自分的にも良いと思うぜ、俺の姉さんの政策にも呆れていたし、新しい君主がどんな政策を立てるのかにも興味あるからな。」
「今、その話は後にしよう、あと貴方が領主になるとかは?」
「無い無い、あんなめんどくさくて自由の無い領主の仕事とかやらないよ、という訳でよろしくお願いしますよ領主様。」
まるで手の平をくるりと返したような返事だった。
考えたら宰相も自由じゃなくない?それにカールはまだ信頼に足りるような人物じゃないのに宰相に任命とか俺ってどうかしてるよ。
そういえばヴァイスは何で黙ってるんだ?
先程までカールに対して異議を唱えたりしていたのに。
俺はヴァイスに目を向けるとヴァイスはカールとは違う方向を向いて黙っていた。
俺は心配してヴァイスに対して聞いてみた。
「どうしたヴァイス?」
「いえ、何でもないです……。」
ヴァイスは冷や汗を掻き始め、何かを隠している。
オリヴィアもヴァイスの異変に気づく。
「どうしたカズト?」
「いや、ヴァイスがどうも調子が変で。」
「何でもないです、何でも………。」
そうヴァイスは言いながらカールをジーっと見ている。
俺はカールに対して聞いてみる。
「お前、ヴァイスに何かしたのか?」
「はあ?してないッスよ!というか手首を縛られてるのに何が出来るんスか!?」
「そ、そうか、そうだな。」
ヴァイスの異変は落ち着いてから後で聞こうか。
するとオリヴィアは突如歩みを止め、立ち止まる。
「ん?どうしたオリヴィア?」
「シッ!今すぐ茂みに隠れろ!」
そうオリヴィアは言って俺たちは四人は茂みにすぐさま隠れる。
「どうしたんだ、何か来るのか?」
「……前からオーガが来るわ、性格には女性だからオーグリスだけどね。」
オーガだと!?
段々と異世界らしくなってきたんじゃないか?
後はスライムとか他のモンスターとか出てきたらもっと異世界感があるぞ!
「………お前、オーガが来るのに何でそんなにウキウキなんだ。」
「なあなあ、そういえばオーガが来るなんてどうやって分かるんだ?」
「はあ?いやまあ匂いとか気配とか、ゲルマニアでは軍人が絶対に確保しないといけないとされる魔法?の一種よ。ゲルマニアではエルフがオーガに陵辱された歴史が何度もあるからこういう魔法があるのよ。」
「じゃあ、殺すのか?」
「………残念だけど、ここはまだヘルヴェティア領内よ。国民同士以外の殺人は裁判無しで極刑の国と言われてるからね。もう話すな、今から馬車が目の前を通るぞ。」
すると綺麗で高級感のある大きな黒塗りの馬車がゆっくりと前を横切ろうとする。
後続の車両も無く、 一台のみが走っている。
「………ホントにこの馬車にオーガが乗ってるのか?俺らが乗っていたやつより豪華だぞ。」
「多分、そうだと思うんだけど………。」
すると馬車が俺たちの前を横切ってすぐにその馬車が立ち止まる。
すると扉が開き、ゆっくりと人が出てくる。
俺たちは頭を下げ、息を殺す。
「御者の方は隠れてください………野伏さん、私から金目の物を狙っても私に殺されるだけですよ?今すぐに姿を現せば見逃してあげますから出てきなさい。」
………ん?どこかで聞いた事のある声。
俺はゆっくりと顔を見せる。
「カズト様、頭を出してはいけないのです、危ないのです!」
ヴァイスがそう叫ぶとオーグリスこっちに振り向く。
「そこね、早く出てきなさい!」
オーグリスはゆっくりとこっちに近づく。
やっぱりあの声は聞いたことがある。
そう思い、俺はまたゆっくりと茂みから頭を出し、 次は手を真上に上げる。
「へぇ、えらい素直ね、他にも隠れているでしょう!貴方達から殺気が物凄く出てるわよ!」
「止めろカズト!殺されるわよ!!」
オリヴィアがそう叫ぶと、オーガが突然問い質す。
「………待って、先程から他の方が貴方をカズトと呼ぶけど、まさかコムラサキ様?………私です、アオイですよ!」
オーグリスは俺を見るとニコニコと口角を上げ、笑顔になる。
「やっぱり!アオイさんでしたか、その声どこかで聞いた事あると思ったんだよ!」
よく見ると見覚えのある髪色に瞳、まあ服装はパーティーの時とは違うが、黒い洋風な軍服に、上から着物か法被の様な和風のジャケットを着ていて、下はスカートを履いている。でも彼女の一番の特徴は真上に向かって生えている立派な角!
俺がそうと分かると、ゆっくりとアオイさんに近づこうとするが、服を後ろから引っ張られる感覚がある。
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