第38話 ダークエルフの少年
オリヴィアは肩からぶら下げた木製のホルスターから拳銃を取り出し、その拳銃をエリアスに向ける。
「お前だよ、エリアス………。いや、お前は誰だ?」
「………誰って?ハハハ、冗談をオリヴィアさん。」
   
するとオリヴィアは俺とヴァイスの腕を引っ張る。
「カズトさんとヴァイスは私の後ろに下がれ………あのな、エリアスは私の事を『さん』付けしないんだよ、あとフレイヤさんにもな。私はそれを車内で聞いて気持ち悪くて仕方なかったわ。」
だから、車窓をあんなに強く叩いていたのか。
オリヴィアはそう言うと、エリアスは溜め息を吐いて、こっちを振り向く。
「そ、それは俺がオリヴィアを恐れていたから………」
「じゃあ、後から付いてくる他の外交官を乗せた馬車は来てないけど?」
「彼らは電車で行くようにと言ったからであって………」
「それなら私達も電車で行けば良いじゃないか?あと先程の御者……さっき(・・・)死んだんじゃなくて、大分前に死んでいたよ。だってもう死後硬直が始まっていたーーー」
オリヴィアが説明している最中に、エリアスは激昂する。
「こ、こんな状況でふざけた事を言うのを大概にしろよオリヴィア!!さあカズト様、ヴァイス様、こちらの方に。」
「どこへ行く?そっちは崖だぞ。」
「………オリヴィア、なんでそんな事を知ってる?」
「ヴィルヘルミナ様が訪れる国の地図は記憶しないといけないし、この辺の地図は大体頭の中に入ってるからね。」
「じゃあそんな戯れ言を言っているお前は俺が誰なのか分かっているのか?」
「ああ、分かっているとも。一人の死体を一時的に操る民族はダークエルフか一部のニホンジンしか居ないからな。多分カズトを狙うと言うことはオマエはノリクム連邦のダークエルフだな?」
すると突然エリアスは高笑いを始め、顔を手で押さえる。
「フフフ、ハハハハハ!!!そうだオリヴィア!大当たりだ!ノリクム万歳!!」
そうエリアスはホルスターから拳銃を取り出し、オリヴィアに向かって拳銃の銃口を見せる。
だが、拳銃を先に出していたオリヴィアの方が発砲が早く、エリアスの右手を撃ち、拳銃を落とす。
と、同時にフランツの変装魔法が解かれたのか、エリアスの見た目からダークエルフが姿を表す。
彼はキラキラと輝く銀色の短髪で肌は褐色、瞳の色は紫色、と定番なダークエルフの見た目だ。
彼は右手を撃たれ、その痛みで叫ぶ。
「グアアアアアアアアアッ!」
彼の右手から鮮血が流れ、地面にポタポタと垂れ落ち、彼は膝から倒れて地面に座りながら痛みに堪え、反対の手で右手を押さえていた。
    
「ダークエルフの少年兵か?そんな事は良い、本物のエリアスはどうした?まさか殺してはいないよな?」
「こ、殺してはいない!ホントだ!!」
「じゃあ、カズトを連れてどうする気だった?」
「くっ、それは………。」
「答えろ!どうする気だったんだ!?」
「こ、殺して証拠を消せと言われたから、そうする予定だったが、オレはノリクムの領主を断ってくれるなら殺さず逃がす予定だ、ホントだ、信じてくれ!」
オリヴィアはそれを聞いて、銃を持っている右手の甲でダークエルフの少年の強く頬を叩く。
ダークエルフの少年はその場で尻をつき、倒れる。
「そんなの信用できるか、既に御者の男を殺している。嘘をつくとはダークエルフの分際で………残念ながらお前をここで殺す。」
「御者の人も殺してない、上からの命令で『適当にある死体を使え』と用意して言われたんだ!信じてくれ!!」
「フン、証拠も無いのに………その虚言を吐く口を喋れないようにしてやる。」
オリヴィアはそう言って持っている拳銃の引き金に指を乗せる。
その瞬間、俺はダークエルフの前に立っていた。
「退きなさい、カズトさん。」
「退きません!死体を道具として使ったのは許されない行為だ、だが彼は殺してないって言ってるじゃないか!!」
「じゃあ、彼が殺していない証拠はどこにある?ほら無いだろ。」
「それじゃ殺していない証拠が無いのなら、殺した証拠も無いじゃないか!」
そうだ、殺した証拠も無いのに、人を殺人者と決めて殺すのはあまりにも可哀想だ。
するとヴァイスも俺と同じく、ダークエルフの少年を守ろうとする。
「ヴァイス……お前もか………。」
「カズト様がそう言ってるだけなので、私はそれに従っただけです!もし彼が今からカズト様を殺そうとしたりしたら、私は遠慮無く彼を殺します!」
ヴァイスがそう宣言し、オリヴィアに対して、そしてダークエルフの少年にも睨む。
オリヴィアはヴァイスの態度に真剣に悩む。
そして諦めたのか、溜め息を吐き、引き金から指を離す。
「……分かったわよ、彼を生かして情報を貰う事も考えてたし、ヘルヴェティアでは人殺しはするなと、政府から言われてるし、ただし彼の手首は縛らせてもらうからな。」
そうオリヴィアは馬車の方へと向かって歩いていく。
オリヴィアは馬車の近くに横たわらせた御者の死体から細いベルトを取り、そのベルトをダークエルフの少年の手首を縛る。
「では私は彼の治癒魔法をするのです。」
ヴァイスは袖を捲り、撃たれた右手を押さえると、その押さえている場所が緑色に輝く。
    
「ヴァイス、お前魔法が使えるのか!?」
「はい、他の記憶は無いのですが、何故か簡単で小さな魔法は覚えているのです。」
ヴァイスが押さえている場所はみるみると傷跡が無くなっていく。
そういえばフレイヤの顔にある傷は何で治さないんだろう。
こんな完璧な治癒魔法があるのに………。
「お前、魔族のクセに治癒魔法までさせてくれるなんて、どういうつもりだ?」
「………助けるのは当たり前ですよ。」
ダークエルフの少年は睨みながらこちらを見る。
オリヴィアはその少年を見ながら呆れた顔をして溜め息を吐く。
「お前、他人の顔に向かって溜め息を吐くなって親に言われなかったのか?」
「黙れ、私達はエスターシュタットに向かうんだ、検問でお前を怪我させたままで怪しまれたら嫌だしね。」
「我々の地域をエスターシュタットと呼ぶな!ノリクムと呼べ!」
ダークエルフの少年はそう叫ぶが、オリヴィアはガン無視する。
俺はゆっくりとダークエルフの少年に近づく。
「えっと、まず君の名前を教えてもらおうか?俺の名前は……。」
「知ってる。コムラサキ・カズトだろ?」
「そうだった知ってるんだよね、じゃあ自分の自己紹介は良いとして、君の名前は何て言うんだ?」
「……カール。」
「カールね、覚えておくよ。」
彼は少年と言ってもヴァイスと少し高い位の背丈で、顔は納得する程の美形である。
「じゃあ、尋問するぞ。おい!まず最初に聞くが仲間は居るのか?」
「近くには居ねぇよ。」
「嘘付くな!まだ誰も殺してないのなら死体はどこから持ってきた!!」
「知らねぇよ……死体だって用意されてたから。」
   
カールは何度も殺害を否定する。
するとオリヴィアは何かを怪しんだのかカールに尋問を続ける。
「そういえばお前なんか性格変わってないか?ダークエルフは性格が変わるのか?」
「は?オマエこそ口調変わってるじゃねぇか!」
「……………。」
オリヴィアは突然、何故かは分からんが我慢が出来なかったのか、袖を捲り上げて、右手を握り拳にする。
「………よし、殴ってその口から吐かせてやる。」
そうオリヴィアが無表情で言いながら、カールに殴ろうとすると、俺とヴァイスは無理やり止める。
「放せ!邪魔だお前ら!!」
「落ち着けオリヴィア!彼が落ち着いてから話させれば良いだろ!!」
「そうです、カズト様の言う通りです。オリヴィアさん!」
何とかして興奮するオリヴィアを止めて落ち着かせる。
「まずはエスタ…ノリクムに向かおう!こんな所で時間を食っている余裕はない!」
俺はそう言うと、オリヴィアは長い溜め息吐く。
    
「そうだけど、情報を吐けさなければエスターシュタットがどういう状況か分からないわよ!良いの!?」
「日本には『百聞は一見に如かず』という言葉があるんだ、まず聞くより一度訪れて見た方が良いだろ!」
「………私の国で言う『一枚の写真は千の言葉よりも多くを語る』みたいな諺ね……一理あるけど、行く前にコイツを少しだけでも一発でも良いから殴らせろ、じゃなきゃ私の気が済まないわ。」
オリヴィアはそう言いながら指の関節をポキポキと鳴らす。
ああもう、ホントこいつ話を聞いてるようで聞いてないな!
フレイヤ、もしくはへルマンさん、誰でも良いからこの状況から助けてくれえええ!!
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