第32話 皇国の神様
~ブリタニア百科事典⑥~
【大瑞穂皇国】
ユーラ大陸の東に位置する広大な獣人の大陸、ラシア大陸。
その大陸の東端にある島国で神が直接支配する神権政治国家である。
国内では大瑞穂、瑞穂、大八州神国などと呼んでいる。
ラシアでは扶桑と呼ばれていたこともあり、ユーラではフーサンと呼んでいる。
主要民族は様々な種族の獣人であるが、鬼族が各地で国防や治安維持を担い、神々が彼らを統制している。
人口は約8000万人で首都は平安(ただし事実上の首都は武陽である。)。
そして国際協同連盟の永続理事国。
建国からおよそ数千年、もしくは数万年経つ歴史ある国家と言われているが、近代的な国家になってからまだ百年も満たない新興国家である。
近代国家になってから軍事的・経済産業的に大きく発達し、周辺諸国に対する戦争には連戦連勝を続け、領土拡張を行っている。
特にノヴゴロド=フーサン戦争(瑞諾戦争)ではその瑞穂の鬼人や獣人の戦い方に畏怖するユーラ諸国が数多くあった。
それによって獣人に対する危機感・恐怖感が増し、獣人差別を行う『獣禍論』という考えがユーラ諸国で起こっている。(ただしユーラ大陸にあるガリア共和国などの獣人国家は差別の対象から外されている。)
特にユーラ諸国の中でゲルマニアからはとても嫌われており、『獣禍論』を生み出した国家である。
噂によれば、エルフは獣人を労働奴隷や性奴隷として所有、売買を行っていると言われている。
ブリトン連合王国は他のユーラ諸国とは違い、瑞穂と友好的な立場を持ち、瑞穂の国際協同連盟の永続理事国の任命、両国との軍事同盟を結ぶなどしている。
俺は宮殿で鬼族の可憐な女の子のアオイという名前の子に出会った。
だけど、鬼と言っても物凄く怖い人にも見えないし、というか、レナやヴァイスと比べたら怖くないし、鬼って想像と比べて優しいし、この世界ではとても優しい民族なのかな?
俺は歩きながらアオイに色々質問をする。
「そういえば、瑞穂の人って他の人も来ているのか?」
「はい、一応我が国は今回の戦争の講和の斡旋する役割をしたので、我が国からは外務卿、軍人は自分を含めて二人、外交官も四人で。貴国はどうなんですか?」
「いや、俺はエスターシュタット?の新しい領主なんだ。だからそういう事は分からなくて………」
それをアオイは聞くと動揺し始める。
「………そ、そうでしたか、それにしてもコムラサキ様が領主様だったなんて、先程はとんだご無礼を。」
「いやいや、そんなに畏まらなくても良いよ。普通の人の様に接すれば良いから。」
俺はそういうが、アオイは困った顔をする。
「いえ、そうではなくて………何でも無いです。」
アオイは何かを言おうとしたが、言うのを躊躇った。
俺とアオイは月明かりと松明の僅かな灯りで照らされた回廊を歩く。
回廊から小さな庭園が見え、中央には小さな噴水が見え、水の流れる音が響いていた。
そんな静かな回廊を歩いていると、タキシードを来た男が近づいてくる。
見た目は若くて、しかも俳優かアイドルの様に顔立ちが整っている。
「アオイよ、そのわっぱは誰ぞ?」
「あっ!表筒男命様!!」
その男は古風な日本語を話す、というより翻訳能力がそう訳してるのか分からないけど。
でも、一番気になるのはさっきの女神ヘルヴェティアと同じ雰囲気を感じる。
「すみません、彼はエスターシュタットの新しい領主になるコムラサキさんです」
「ふむ、そうか」
表筒男命という男が近づき、彼は手を差し伸べ、握手を求める。
「君がコムラサキ君か、話の通り、本当に日本の者だね」
彼はそう言いながら手を差し伸べたから、俺は握手をする。
「はい、よろしくお願いします」
「おー、翻訳までしているのか、凄いね………」
見たところ気さくな人だし、悪い人では無さそうだ。
だが、不気味な雰囲気はある、それは間違いない。
「えっ!コムラサキ様って異世界人だったんですか!?」
碧さんは目を丸くして、物凄く驚いていた。
「あ、うん、隠しててごめん。実は俺、異世界から来た人なんだよ」
まあ、日本人と言って何されるか分からないし、妥当な対応だよね………。
俺がそう異世界から来た人だと言うと、碧さんは特に目立った反応は無く、普通だった。
「そうですか、コムラサキ様が異世界から………」
「ねぇ、コムラサキ君?」
表筒男命がアオイの言葉を遮り、俺に声を掛ける。
そう言えば、翻訳も元に戻って、表筒男命の言葉が普通になっている。
………まさか能力の翻訳ミスとかか?
「はい、何ですか?」
「自己紹介がまだだったね、余は表筒男命で我が国での役職は外務卿だ」
「わ、私も自己紹介します、私の名前は先ほど紹介した通り、碧と申します。自分の階級は陸軍大佐です」
「そして彼女は君の国の駐在武官になる予定だ」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
俺はお辞儀をすると、彼らも深くお辞儀をした。
駐在武官か、つまりアオイは大使と同等の立場に立つということか?
「ところで、アオイとコムラサキ君はここで何をしていたのかな?」
表筒男命が俺達に質問すると、すぐに答えたのはアオイさんであった。
「パーティー会場が分からなくて、私もコムラサキ様も少し方向音痴でして………」
「全く、そなたはそれでも瑞穂の武士か?宴会場はこの廊下を真っ直ぐぞ、そういえば茜も必死に探しておったな」
「茜さんがですか?それはすみませんでした」
「まあ、話はそれだけだ。余は厠へ行くからな………。それではカズト君もまたどこかで会いましょう」
「あっ、はい!」
表筒男命は俺らが向かう反対方向に向かって走って行った。
アオイは深く、長い一礼をする。
「それにしてもさっきの外務卿?の喋り方が変だったな」
「ば、馬鹿!!表筒男命様は神様、神族ですよ!先程の言葉は神族だけしか使うことが許されてない『高天原語』です。だから、絶っ対にそんな事を表筒男命様の目の前で言わないでくださいよ!」
アオイは俺の発言に動揺して、俺に叱責する。
表筒男命は神様だそうだ。
……………か、神様!?
神様どんだけ居るんだよ!!
もう小一時間で二人の神様に出会ってるよっ!
神様のバーゲンセールかよっ!!
「あのー、大丈夫ですかコムラサキ様?」
アオイは俺の顔を覗く。
心配そうな目を俺に向けていた。
「だ、大丈夫!何でもないよ。」
俺は心配そうに見ているアオイを俺は安心させようとする。
アオイさんは安心したのか「そうですか………」と小さく呟いた。
「あ、あの私、先にパーティー会場に向かって良いですか?」
アオイは俺に対して何故かモジモジと不安そうに訊く。
「良いけど、それなら俺も―――」
「だ、大丈夫です!自分独りで向かいますので、それでは」
アオイはそう言うと一目散にパーティー会場に向かった。
独りで置いて行かれた俺は静かな回廊で茫然と立ち尽くす。
「………まあ、ゆっくり歩いて会場に向かおうかな」
俺はそう思い、パーティー会場に向かって歩いていく。
自分の靴音がコツコツと回廊で響く。
外は草木の靡く音と小さな噴水のせせらぎが聞こえる。
久しぶりにこれほど静かな時間を過ごしたな、と俺は思う。
すると後ろからコツコツと足音がする。
ヒールの音だ。
ハイヒールとかではなく、ブーツの様な足音だ。
その足音は段々と近づいて来る。
俺は気味が悪くなり、急ぎ足になって会場に向かう道を道を歩く。
だが、その足音は距離を縮め、遂にはその後ろから来た人に俺の肩を掴まれる。
俺はビクッとして驚きを隠せなかった。
「おい、何で逃げるんだ?」
どこかで聞き覚えのある声だ。
俺はそう感じ、ゆっくりと後ろを振り向いた。
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