第26話 黒い物体
刃物の子を倒した黒い影は溜め息を吐き、喋り出す。
「まったく、暴れるなよ、他の階の人に迷惑だろオリヴィア。」
その黒い影をよく見てみるとそこに居たのはフレイヤだった。
だが、オリヴィアは気絶しているからか、返事は無い。
フレイヤは溜め息を吐く。
すると俺を見て深々と礼をし、謝罪する。
「大丈夫か?うちのオリヴィアが迷惑かけてしまって。」
弱々しいフレイヤを初めて見た気がする。
「お、俺は大丈夫だが、フレイヤは俺の心配するんだな。」
俺がそう言うと、フレイヤはそれを聞き、鼻で笑う。
「フン!別にお前を助けるために来たのではない。オリヴィアが暴れていると察したからだ。それよりレナ様やヴァイスたんは?」
「レナは多分大丈夫だが、ヴァイスがこのオリヴィアという子に蹴られた。」
「何だと!ヴァイスたんが!?」
そう言って、俺の言葉を聞いたフレイヤは部屋に急いで入る。
急いで入った為、フレイヤはすぐに床を確認をせず、ヴァイスの方向しか見ていなかった。
  
「グエッ!」
突然、部屋に変な声が響いた。
俺はとても嫌な予感がした。
「な、何だ今の声は!」
気づいていないフレイヤはそう言うと、すぐさま声が聞こえた床の方を見る。
するとそこに居たのはレナで彼女の腹部をフレイヤが右足で踏んでいた。
フレイヤはそれを見て驚き、すぐさまそこから退く。
「うわっレナ様!?何でそんな所に寝てるんすか?って違う違う、踏んでしまってすみませんレナ様!!」
レナは起き上がり、右手で頭を押さえ、左手で腹部を押さえる。
「イテテ……フレイヤ!貴女はいつもいつも!!今日こそ覚悟しなさい!……って何よこれ!?」
レナは部屋が散らかっている事に気づき、声を上げる。
そんな事よりヴァイスが心配だ。
俺は急いで部屋に入り、ヴァイスに近づく。
ヴァイスの元に来ると、部屋はボロボロなのに対して、彼女は驚く事に怪我が一切無く、骨折もしていないという驚きの無傷だったが、頭をぶつけた影響でか気絶はしていた。
俺はほっとして胸を撫で下ろす。
「………良かった、ヴァイスが無事で。」
「あのー、カズトさん?これどういう状況?ねえ、ねえってば!」
レナは辺りを見回し、ボロボロの部屋を見ながら俺の体を揺さぶりながら訊く。
すると、この状況をフレイヤが先程見た事を全て詳細に話す。
話を聞いていくにつれてレナの顔は段々と青ざめる。
    
「………オリヴィアの行動に気を付けていたのに、ごめんなさいカズト。」
レナはひどく落ち込みながら顔を右手で抑え、俺に対して謝る。
「大丈夫だよ、全然こんなのかすり傷みたいなものだし、鼻血も止まったし。」
「……カズトがそう言うなら良かったわ、大きな怪我が無くて、あと、この子にも後で謝らないといけないわ。だから私がこの子にドレスを着せてあげるから任せなさい。」
「うん、ありがとう、レナ。」
俺がレナに感謝を述べると、レナは一瞬顔を赤らめ、動揺するが、すぐに冷静になりフレイヤに命令をする。
「フレイヤ!」
「は、はい!!」
フレイヤは直立不動で立っていたが、冷や汗を掻き、手や足が小刻みに震えている。
フレイヤは先程踏んだことに怒られるのではないかと不安になっている。
「オリヴィアを空いている部屋に連れていって少しだけ軽い拷問をしなさい。」
「えっ、あ、オレもヴァイスたんの着替え手伝いたいなー、なんてハハハ………。」
 
フレイヤは顔を引きつりながら笑うが、レナは無表情だった。
というより、『少しだけ拷問』とは一体何なんだ?
物凄く気になる………。
すると、レナは微笑み始める。
フレイヤは目を輝かせて、喜びを表したのは束の間。
「あら、そう言うならお父様にフレイヤが私の腹部を踏んだ事を言おうかしら?」
うん、俺は分かってたよ、レナがそう言うと思ってたよ。
すると突然、フレイヤは地面に両膝を付けて、祈るようにフレイヤは胸の前で自分の両手の指を組み、泣きながら許しを請おうとする。
「レナ様、それだけは、それだけは本当に止めて下さい!オレが社会的に死んじゃいます!!」
「そう、なら早くオリヴィアを連れて行きなさい。」
「………くっ、りょ、了解しました。」
今、悪魔の様なレナがそこに居たような感じがした。
いや、これが通常運転なのか。
話が終わると、フレイヤはオリヴィアを運ぶ。
俺はヴァイスの事に関しては全てレナに任せ、俺は自分の部屋に向かう。
部屋に向かう途中、俺は安堵するが、息が荒くなり、膝から倒れて両手を地面に付ける。
ストレスで胃がキリキリと音がなっているのではないかと感じる位、痛い。
吐き気も何度も何度も繰り返し、止まらない。
「い、異世界生活が楽しいだと!?異世界系ラノベはホントに嘘を付いてくるぜまったく、この二日間でこんなに身体も精神もボロボロになるなんてな、ウッ………。」
俺は体勢を変えず、そのままの状態で気分が元に戻るのを待って、少しだけベッドで横たわった。
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