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転移転生者が嫌われる世界で俺は成り上がる!  作者: ヨッシー
第3章 エスターシュタット戦争
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第105話 安堵

 俺は声を掛けられたかもしれないと思ったが、すぐに勘違いだと思い、その場を急いで去ろうとする。

 いや勘違いだと思いたい、何故ならこの世界は日本人に嫌われているんだから。

 トラブルから逃げるのは当たり前だ。

 すると同じ人がまた俺に対して声を掛ける。


「あのーカズト様………どこへ向かうのですか?」


 俺はその声を聴いた途端、すぐに立ち止まる。

 ―――名前を、呼ばれた………。

 これは聞き間違いとかでもう逃げれないと俺は思った。

 俺は深呼吸し、諦めて恐る恐る声のする後ろの方へと振り向く。

 するとそこには一人の男性のダークエルフが俺の前に立ち、老若男女問わない様々なダークエルフが俺を見ている。

 俺の前に立っていたダークエルフはじっくりと俺を見ている。

 俺は日本人だ。

 自分の事でなくても昔の日本人がこの世界でやって来た事を罵倒される覚悟は既にある。

 俺はそう思い、目を逸らそうとした途端、目の前に居たダークエルフはすぐさま跪くと、こちらに顔を向けて話し始める。


「カズト様、いや皇帝陛下!私はこの街の市長でジルと申します。我々は貴方がこの街から戦火から退けたとパール様からお聞きしました」

「………え?」


 罵倒は……されない?

 なら良かった……。

 そういやパールってあの俺に無理やり演説させたり、偉そうな態度を取ったアイツが?

 ………まあ、別に嫌いな奴じゃないから悪くはないけど、一体どれだけ話を盛ったんだ?。

 俺はただの日本人、人間だぞ?

 そんな実力は無いとは思うけどな……。


「そ、そうか。でも今回の戦いは俺の実力じゃないよ。あの時は逐鹿連隊の奴らやダークエルフを主体とした優秀なエステルライヒ帝国軍が居たからこそ勝てた戦いだったんだよ」

「それでも貴方が来てからこの戦いに勝つようになったんです。間違い無い、貴方は神に選ばれた存在なんだ」


 すると市長のみならず、他の市民のダークエルフが跪き、頭を垂れる。


「我々は貴方に付き従う、皇帝陛下カズト様」


 こ、これは俺が認められたのか?

 ………いや、俺が今皇帝という偉い所にに居るからこそかもしれない。

 俺はまだ異世界からの、日本人としてのカズトは認められてないしな。

 だが、彼らのこの行動に乗っかるとするか。


「ああ、君達の敬意に俺は感動した!ダークエルフに感謝する、ありがとう!!」


 俺はそう言って彼らに頭を下げると、市長や市民のみならず、その一部始終を見た軍人も拳や軍帽、持っている銃を空高く上げる。


「「「ウォオオオオオオオッッ!!!」」」


 彼らは嬉しそうに喜びながら叫んでいる。

 彼らが俺を好きか嫌いかそんな事は除いて、彼らが喜んでいる姿を見るのは気分が良いな。

 すると市長がゆっくりと近づき、


「ではカズト様、私の家で少しくつろぎましょう。招待しますよ?」

「いや、俺がここに来たのはスラに会いに来ただけで………」

「それならばスラ様も連れてきて下さい、もちろんそこに居るオニ族の方も一緒に来て下さい、歓迎致します」

「お、鬼族………ううっ………」


 アオイの目に涙が溢れる。

 俺はそのアオイの涙に驚く。


「だ、大丈夫か!?」

「はい大丈夫です、欧羅(ユーラ)に来てからオークやオーガと呼ばれてたから、鬼族って言われたのが嬉しくてつい………」


 確かに間違えられるのは辛いかもしれないが、泣くまで嬉しいのか………。


「では陛下、案内致します。こちらです」


 そう市長は言って案内する。

 だが案内した先は先程俺がアオイと修行していた場所だ。

 これは偶然なんだろうか?

 俺はそう思っていると、スラが後ろから俺に声を掛ける。


「マスター、そういえばヴァイス様とマルクス様はどこへ?」

「ああ、この近くの家でマルクスを寝かせてるからヴァイスが看護してるよ」

「まさかとは思いますが、空き家とかそういった人が居なさそうな場所で二人を待機させてるんですよね?」


 なんでそんなことを俺に聞くんだ?

 なんかヤバいことでもしたのか??


「いや、夜に俺が暗殺されそうになった時に逃げ込んだ建物の中に居るはず………」


 俺がそう言った途端、スラは動揺し始める。


「それは大変です。急いでお二人を救出しなければいけません」

「え?どうして?」

「この国では獣人族と魔族は貧しい地位に位置し、悪人のイメージが強く、家屋に無断で入っていれば間違いなく犯罪者として勘違いされます」

「なんだって!?じゃあ早く助けないと!!」


 俺がそう言った途端、市長が突然足を止める。


「すみません陛下、こんな時に私の家に侵入者が。自警団を送りますが、敵兵の可能性もありますのですぐに避難を………」

「マスター、彼らの指示に従って急いで避難致しましょう。私とアオイ様がお二人を探して避難させますので」

「わ、わかった。お願いするよ」


 俺がそう言って逃げようとすると、アオイが肩を掴んで俺を止める。


「カズト様、まさか賊が入ったって言われてる建物ってあれじゃないですよね?」


 そうアオイが言ったので、俺はアオイが向いている先を見てみると、自警団が向かった先にはどこかで見たような建物が見える。

 壊れた扉、煙突から煙がモクモクと出ている。

 間違いない、俺が逃げ込んだ建物は市長の邸宅だ!

 大変だ!早く市長にヴァイスの事を伝えないと!!


「市長、実はその………」


 俺は市長に尋ねようとしたその時。

 突然、市長の邸宅から何かに苦しむような叫び声が聴こえる。

 男の声だからマルクスだと一瞬思ったが、マルクスと比べて成人の様な野太い声が響き渡る。

 すると一人のダークエルフが苦しみながら出てくる。


「た、助けてくれェ!あの魔族の魔力鬼ヤバい!!殺されるッッ!!」

「げ、厳戒態勢を張れ!銃を構えろ!!」


 それを見た市長が周りの自警団に武器を構えるように指示を出す。

 まさかヴァイスが暴れているのかと思い、俺は市長に自警団が市長の邸宅の方に銃を構えさせるのを止めさせようとする。


「待って下さい!多分俺のメイドのヴァイスだと思います。だからそんな攻撃的な行動は控えて欲しい」


 そう俺が市長に伝えると、市長は呆れた顔をして言う。


「何を馬鹿な事を………ウチの自警団がメイドの一人に恐れる訳がないでしょうに」

「それでも刺激を与えるのはーーー」


 するとヴァイスが居る市長の邸宅から複数の銃の発砲音が聞こえてくる。

 ま…まさか………自警団がヴァイスとマルクスに発砲したのか………。

 おい、冗談だろ!?

 俺は市長の邸宅へと一目散に駆け出していく。


「ま、マスター!?」

「カズト様!!」


 アオイとスラは驚いた声で俺を呼ぶが、俺はその声に振り返ることなく建物の中に入る。

 入ってすぐに建物内を見ると、一人の自警団のダークエルフが立ったまま壁に寄りかかっており、彼は白目を向きながら失禁している。

 ヴァイスではなく何か恐ろしい魔族を見たのかと思い、建物の中に入るのを一瞬後悔した。

 だが、自警団の男が気絶している理由はすぐに分かった。

 彼の身体の輪郭に沿って、銃弾が撃ち込まれている。

 ………え?

 これ、ヴァイスがやったのかよ………??

 マジでヴァイスなら、アイツヘルヴェティアで初めて出会った時に助けなくても良かったんじゃないかって思えてきたよ………。


「お、おーい、ヴァイス居るか?」


 俺は恐る恐るヴァイスを呼ぶ。

 だが返事はしない。

 自警団の男の銃弾が飛んできた方向の部屋はアイツらが居たと思い、ゆっくりと顔を見せると、銃声が鳴ったと思った瞬間、銃弾が右頬を掠め、後ろの壁を貫く。

 頬から血がタラッと流れ、ジワジワと痛みを感じる。

 俺はすぐさま後ろに下がり、後頭部を壁にぶつける。

 あ、あっぶねェエエエエエ!!!

 もう少し顔を出してたら完全に顔を貫通してたぞ!!

 敵じゃなかったら、絶対許さねぇ………。

 でも、一瞬過ぎてはっきりとは見えなかったが、銃を持っていた奴、女性には見えなかったな………。

 ヴァイスが発砲じゃないのか?

 すると発砲してきた部屋から、聞き馴染みのある男の子の声がする。


「ま、まさか今のはご主人様なのか?」


 こ、この声は………まさかマルクスか!

 俺はマルクスの声を聞いてとても喜んだ。

 だってマルクスが目を覚ましたと分かったんだから。

 さっき俺を撃った事なんてもう許しちゃう。


「そうだよ俺だよ!!ったく、殺される所だったぞ………とりあえずマルクスは無事なのは分かったが、ヴァイスもそこに居るのか?」

「は、はいなのです!あ、あの………頬を掠めた銃弾は大丈夫なのですか?」


 ヴァイスは俺が撃たれたことを心配そうに声を掛けるが、こんな傷、別にこれぐらい気にしないぜ。


「とりあえず部屋から出てきてくれ、外に居る自警団がお前らを敵じゃないかと思っているからな」

「ほ、本当にすまない、ご主人様」


 マルクスはそう言うと申し訳なさそうにしている。

 まあ、マルクスが元気になったのは良かったのだが………。

 何だろう、マルクスの様な声だがマルクスでは無いような男らしい声だったな。

 すると俺の前に現れたのは俺より背の高い獣人だ。


「………いや、誰だよお前」

「ハァ?何言ってんだご主人様。俺だよ、マルクスだ!!」


 マル…クス………?

 イヤイヤ、数時間前まで俺より少しだけ背の低いアイツがコレだと?

 ………………いや、マジで誰だよ。


 するとヴァイスがゆっくりと姿を見せる。


「あ、あのカズト様?こ、これには深い理由があるのです」

「いやいやいや、これは深い理由で説明出来ないでしょ!確かに獣人の成長は人間より早いってマルクスから聞いたが、余りにも早過ぎるだろコレは………もうね、お父さんビックリしちゃったよ」

「オイ、誰がご主人様の息子だッ!」


 マルクスが俺に軽いツッコミをする。

 だがヴァイスは無視をして話を進める。


「私はマルクス様を治す為に魔力を注いで傷を治していたのです。でも目を覚ませる為にもう一度魔力を注いだのですが………」

「ですが………?」

「注いだのですが、自警団の方に驚いた私が間違えて魔力を沢山注いだので………」

「マルクスはめちゃくちゃ成長し過ぎたってか」

「そうなのです、テヘッ☆なのです」


 いやいやいや「テヘッ☆なのです」じゃねぇぞ!?

 というか、コイツ腕力も体力もあるだけでなくマルクスをこんなに成長させる程の魔力も沢山あるってどういうことなんだよ。

 これって「だってヴァイスは魔族だから」で解決出来ないでしょ。

 知恵袋もベストアンサー付けないぞ?


「マルクスは成長して良かったのか?すっかり大人になったけど………」


 俺は成長したマルクスの姿を見て申し訳なさそうに感じたが、そうマルクスに言うとマルクスは特に驚いたり怒ったりしなかった。


「まあ、俺が成長すればご主人様だけでなくシルヴィもこれまでより守れる様になるし、いいんじゃないですかね?」

「だが、少し前に俺が刺されそうになった時にお前が刺されに行く様な行動は止めてくれよ。俺はマルクス、お前の犠牲で生き延びたくはないからな」

「………分かりました、気を付けますご主人様」


 マルクスは申し訳なさそうな顔をして謝るが、マルクスの行動自体は悪くないがスラと同じで俺の為に自ら犠牲になる様な事は本当に止めて欲しい。

 マルクスが死ぬ事や一生治せない傷でも出来たら俺がシルヴィに顔を向けられないよ………。


「とりあえず、マルクスも元気になったし、ここには長居する必要は無いから早く出よう」

「はいなのです!」

「あ、あとそこで気絶している自警団の奴はマルクスが背負って来いよ」


 俺がそうマルクスに言うと、ものすごい嫌な顔をしている。


「えええええぇぇぇ………俺、さっき怪我から治ったばっかだよ?それにコイツは俺やヴァイスさんを殺そうとしたし放置してもいいんじゃ………」

「運びなさい、ご主人様命令だ」

「うっ…分かったよ、俺が運ぶよ」


 マルクスは自警団の人を背負うと、俺は邸宅の玄関からゆっくりと出ていく。

 すると入口前にスラが立っている。


「大丈夫ですか、マスター」

「ああ!ヴァイスとマルクスも連れてきたよ」

「それは良かったで………す?」


 スラはマルクスを怪しそうにじーーーっと見つめる。

 まあ、成長しきって大人になったからな、スラも困惑してるんだろな。


「すみません、マルクスの顔が認識されません。マルクスの姿はどこに?」

「やっぱりな。スラ、この目の前に居るデカい獣人こそがマルクスだよ」


 俺がスラに説明すると、スラはフリーズしたかの様に固まるがスラはすぐに動き出し言う。


「すみませんマスター、仰っている意味が分かりません。獣人の成長は確かに人間、ヒューマンより早い。ですが、数時間で獣人が子供から大人に成長するなんて私のデータにはありません」

「いや、俺も驚いてるよ?でもヴァイスが魔力を注いでこうなったんだし………」

「確かに魔力で獣人は成長しますが、こんな短期間は異常です」


 俺とスラがそんな話をしていると、スラの後ろから市長が咳払いをしながらゆっくりと近づいてくる。


「議論し合っている所申し訳ありませんが、陛下にも伝えたい話がありますので今はその話は置いておきましょう」


 市長がそう言うと、スラはその言葉に頷く。


「確かにそうですね。マスター、とりあえず市長の邸宅に戻りましょう」

「わ、分かった」

「マルクスはその自警団の方を教会に連れて行って下さい」

「おう、任せてくれ」


 マルクスは急いで近くの教会の方へと向かう。

 俺とヴァイス、スラ、アオイ、そして市長の五人は市長の邸宅へと入って行く。

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