第104話 指導
―――――朝日が窓から太陽の光が差し込み、俺の顔を眩しく照らし始める。
俺は顔を太陽光に照らされ、眩しいと朝になったと気が付き、ゆっくりと目を覚ます。
すると部屋の中が寒い。
寝る前には火が点いていた目の前の暖炉の火が煙だけで消えかけているのを確認する。
俺は追加の薪を入れて暖炉の火を点けたかったが、俺の膝上にはヴァイスが寝ているからなぁ………。
まあ、朝だし起こすか。
「お〜いヴァイス、朝だぞ起きろ〜!」
「う〜ん、後もう少しで起きるのですから寝かせてほしいの………です……………」
ったく、しゃあねぇな………。
まあヴァイスも疲れてるだろうし、寝かせてあげるか。
俺はそう思いながらゆっくりと椅子から動き、ヴァイスをそっと自分が座っていた椅子に座らせる。
俺はヴァイスを椅子に座らせると、俺はまた薪と古い新聞紙を取り出す。
するとその新聞紙にはスラの姿が写っている事に気がつく。
俺はその新聞紙を開けると、記事の文字は全く読めなかったが、写真では笑顔でが握手している。
その握手の相手がノリクム連邦のアンナ女王だった。
そのアンナの後ろにいるのが、俺と一緒に皇帝になったカールだ。
それにしてもこんなに二人は仲が良かったのに、エルフとダークエルフは争ってるのか………。
すると玄関の方から物音が聞こえる。
俺は物音がする方を見るとアオイがやって来た。
彼女は肩にライフルを掛け、右手には金属製のカップを手に持っている。
そのカップから白い湯気が出ている。
「あ、カズト様。起きてらっしゃったのですね」
「いや、今起きたばかりだよ」
「そうですか、では私はもう1杯珈琲を持ってきますから私の珈琲を飲んでいて下さい」
そう言って目の前の小さい机にカップを起き、すぐにアオイは外に出た。
するとヴァイスはその物音に目を覚ましたのか、目を擦りながらゆっくりと瞼を開ける。
「ん〜、おはようございますなのですカズト様………」
「おはようヴァイス、短い時間だがよく寝れたか?」
「ハイなのです、カズト様の身体がポカポカしていて暖かったので良かったです」
ヴァイスは椅子から降り、身だしなみを整える。
「そういえばマルクスの容態はどうなったのですか?」
「確かにマルクスか起きてないな、確認してみるか」
俺はヴァイスからそう言われ、マルクスが寝ていたソファの方を見る。
マルクスはまだソファに横たわっている。
俺は恐る恐るマルクスの手首の脈を確認すると、マルクスの脈打つのが分かる。
マルクスはまだ死んではいないのは確か、そして無事なのが理解した。
「大丈夫だよ、でもマルクスを心配するなんてヴァイスも優しいんだな!」
「や、優しいだなんて………私はマルクスがカズト様を助けたから、私も助けたい一心で動いただけなのです」
「それが素晴らしいんじゃないか、偉いぞヴァイス!」
俺は右手でヴァイスの頭を優しく撫でる。
ヴァイスは無言で俺に撫でられるのを受け入れ、下を向いている。
すると突然、ノックも無しにアオイが部屋に入ってくる。
「カズト様、コーヒーをお持ち致しました」
「お、おう!ありがとう!!」
俺はすぐにヴァイスの頭を撫でていた右手を引っ込める。
その瞬間、ヴァイスは不満そうな顔をしながら頬を膨らます。
「どうしましたカズト様?」
「いや、何でもない。コーヒー頂くよありがとう」
俺はアオイからコーヒーを貰う。
金属製のカップに入ったコーヒーはとても暖かく、季節は分からないが秋か冬のこの寒さにとても落ち着く。
俺はコーヒーの温かさに温まりながらそのコーヒーをグイッと一気に口に流し込む。
………前にヴァイスに淹れてくれたコーヒーの方が美味いな。
いや、間違いなく普通のコーヒーだ。
でもヴァイスのコーヒーは酸味とコクが相まって何故か美味かったな………。
やっぱホテルで出たコーヒーだからか?
俺はアオイが持ってきたコーヒーを味わっていると、アオイはモジモジとしながら俺に話しかける
「と、ところでカズト様はこれからまた戦場に向かいますよね?」
「ん?ああ、そうだが?」
「ではカズト様はこの後私と近くの公園で特訓を致しましょうか」
「………へ?マジ?」
「はい、マジです。再び戦場へ向かうのならカズト様には最低限の護身術や戦闘訓練を身に付けないといけませんからね」
うっ…それを言われたら鍛えないといけなくなるじゃないか………。
いや待てよ?
異世界に来たのなら俺自身何かしらの能力で強くなってるんじゃね?
なら俺の実力を測れるかもしれないな!
「良いぜ!やろうやろう!!」
俺が自信満々にそう言うと、アオイはとても驚いた表情を見せる。
「ほ、本当ですか?」
「もちろんさ!やろうぜ!!」
「カズト様、本当に大丈夫なのですか?」
ヴァイスが心配そうにこちらを見ながら袖を掴む。
俺はそんな心配そうなヴァイスの頭を軽く撫でる。
「もちろん、だから安心しろ」
今までヤバい場所から生き残ってきたんだ。
俺なら大丈夫だ―――――
「ろッ!?!」
俺はアオイの訓練に参加し、アオイは俺を背負い投げ、そして俺の背中は強く地面に叩きつけられる。
一応体育の授業で柔道をしていたから受け身は取れたが、い、痛過ぎる!
全身が痺れて起き上がれない!!
「カズト様!!」
「か、カズト様大丈夫ですか!?」
アオイとヴァイスはそう言って心配そうな顔をする。
俺はアオイとヴァイスが心配そうな顔をしていたから笑って返す。
「ハハハ、お俺は大丈夫だよ。心配するなよ二人とも………」
いやいや、本当は全然大丈夫じゃないけどねッ!
というかこれマジで骨折れてない!?
俺、苦し過ぎて起き上がれないんだけどッ!!!
「すみませんニホンジンだから物凄い力の強い方々と思っておりましたからつい………」
「日本人って、俺たちは元々力なんて持ってない人間だからな、ハハハ」
というか、異世界に行っても体力は強くならないのか…。
それはなんかちょっとショックだな………。
すると誰かがこちらの方に向かって突撃してくる。
スラだ。
だがスラの表情は無表情の裏に怒りを感じる。
するとスラは帯刀しているサーベルを鞘から引き抜き、アオイに突撃する。
「アオイ、今すぐにマスターから離れなさい。これは警告です!!」
スラはそう言ってサーベルを振り下ろしてアオイを攻撃する。
「やはり正体を表したな、からくり人間!」
アオイは急いで大太刀を鞘から引き抜き、スラのサーベルを防ぐ。
彼女らはお互い殺意を向けながら睨みつける。
俺は咄嗟に全身に痛みを感じるが立ち上がり、アオイの前に立ち上がる。
「ま、待て待て!俺はアオイから護身術を学んでいたんだよ!!」
「ですがマスターの身体のダメージは甚大です、命の危険が感じられました」
「ちょっと待ってくれ、どこでそれが測れるんだ?」
するとスラはゆっくりと俺に近づき、自分の着ている軍服の胸に付いているバッジを触る。
「前にも言いましたがこのバッジは我が国の最先端の魔科学技術で作られた物です、私の頭とこのバッジは接続されており、マスターの命の危険が迫ればすぐにバッジが私に対して伝達します」
あー、確かにスラと出会った頃に貰ったバッジだったな。
胸に付けた瞬間に一瞬にして軍服に変装するカッコイイやつなだけだと思っていたし、一回外した後鎧が解けて起動しなくなったとばかりに………。
それにしてもこの技術凄すぎないか、これ。
「とりあえずありがとう、一応助かったけどアオイとの護身術の訓練だから外すべきかなって………」
俺がそう言うとスラは肩を下げて残念そうな感じにみえる。
「そうですか。では訓練の後はそのバッジを付けて私の所に来て下さい」
そうスラは言って、再び街の方へと戻って行った。
アオイは自分の服に付いた泥を叩く。
「全くあのカラクリ女め…私がカズト様を傷つける訳ないだろうに………」
「だけど俺を心配している為にやったんだから悪く思わないでくれ、アオイ」
「心配?私がカズト様を傷つける訳があるか?無いだろう全く………」
俺はアオイにそう言うと、アオイは不満そうに腕を組んでいる。
「まあカズト様がそう言うなら、分かりました………ではとりあえず二刻、こちらでは一時間というんですかね?一時間の護身術の特訓致しましょう」
「一時間ね、でもそれじゃあ短くない?」
「………確かに短いですが、内戦中ですからね。我々も長い時間この街に居ることは出来ません。短期間で簡単な護身術や剣術を教えて行きたい所存です」
「わかった。それじゃあよろしくお願いします、アオイ先生!」
「うむ、では始める!!まずは礼」
「よろしくお願い致しますッ!!!」
俺は大きな挨拶を始め、アオイもといアオイ先生による特訓が開始された。
最初は柔術を中心に組み手を行い、次に剣術を学んだ。
アオイは指導している側だからかもしれないが、疲れどころか汗一つ流すこと無く指導していたが、俺は冬に近づいている秋の気温なのにも関わらず、ドバドバと身体中から汗が止まらなかった。
「や、休ませてくれ…アオイ………」
「カズト様、貴方はそれでも男ですか?」
「いやいや、普通の一般人にこんな激しい運動させたら死ぬよ?せめて水でも飲ませてくれ」
「駄目です!そういう誘惑は敵なんですからね?それに一時間だけなんですから我慢して下さい!!」
俺はフラフラになりながらアオイの特訓を乗り切ることが出来た。
「あ、ありがとうございましたァ!!」
俺はアオイに対してお辞儀をして、すぐにバッジを付ける。
「………本当にあのからくり人間の元に向かうのですか?」
アオイは不安そうな顔でこちらを見る。
俺はアオイが不安になる意味も分からないし、スラを信じている。
「もちろん!それにアオイもスラと対話するべきだよ。スラは確かに無表情で不気味に感じるかもしれないが、規律を守るし、普段は優しい奴だよ」
「では私もついて行きます、良いですよね?」
「ああ、構わないよ?ヴァイスは付いてくるか?」
「私は………カズト様に付いて行きたいのですが、今回はマルクスの元へ向かうのです」
ヴァイスはとても悲しそうな顔をしている。
やはりヴァイスはマルクスの容態が心配なのかな。
でもマルクスの容態を見てくれる人も欲しかったし、ヴァイスに任せるか。
「じゃあヴァイス、マルクスの世話は任せたぞ」
俺は軽くヴァイスの頭を撫でてそう言う。
ヴァイスは胸を張りながら、右手を丸めて自分の胸を軽く叩く。
「エヘン!任せてくださいなのです!!」
「ああ、マルクスを頼んだぞヴァイス!」
「では行ってくるのです!」
ヴァイスは元気良くウキウキになりながらマルクスが寝ている建物へと向かっていった。
「さてと、まずはスラを探さないと」
「そうですね、とりあえず街の中心に向かいましょうか?」
「ふむ、まあそれが一番かな」
俺はアオイと一緒にグラデツ市街に向かう。
すると街には大量の荷物を積んだいくつかの馬車と魔力車のトラックが止まっている。
見た目からして軍事用ではない。
グラデツ市民がもう戻って来たのか、でもやっぱり市民を帰宅させるのは早過ぎだと思うな………。
「カズト様、あそこにカラ……スラ様が居ますよ」
アオイが前を向きながらそう言ってスラを『カラクリ人間』と言おうとしたのか、すぐに訂正し『スラ様』と呼ぶ。
アオイが見る方向を俺が見ると、スラは沢山のダークエルフの人々に囲まれている。
するとスラは俺に気付いたのか、スラは俺の方に走ってくる。
「あっマスター!もうアオイ様との訓練は終わったのですか?」
「ああ、終わったよ。朝なのにもうクタクタで疲れたよ」
俺はそうスラに言うと、スラは俺の身体を触りまくる。
「………本当に大丈夫みたいですね」
「うん?俺は大丈夫だよ??」
スラはアオイの方をじっと見る。
「な、なんだ?何か私に用なのか?」
アオイは懐疑的な目でスラを見るが、スラはすぐに頭を下げる。
「アオイ様、一時間前の私の勘違いによる貴女への無礼な攻撃に対して深くお詫びを申し上げます」
「こ、こちらこそ、謝罪してくれてありがとうございますスラ様………出来れば今回の事で私を信頼してくれれば有難いと思っているんですけど………」
「分かりました、アオイ様の事を私の記憶媒体に記録しておきます」
スラがアオイとの訓練の時に切り掛かった事に頭を下げて、和解した事に自分はホッとし、胸を撫で下ろす。
だが、すぐに俺に不安が募り始める。
スラの周りにいたダークエルフの人々はこちらの方をジーッと眺めている。
特に彼らは俺の方を凝視している。
まさか、また俺は過去にやって来た奴らの評判でコイツらに罵られて蔑まれるのか!?
冗談じゃねぇぞ、めんどくさい。
俺はそう思って、目を逸らし彼らダークエルフから逃げようとする。
「あの………皇帝陛下?」
すると一人のダークエルフが俺に声を掛ける。




