序章 平安朝の終幕と戦乱期の開幕
平安朝末期。
「大化の改新」以来より発足した名門大貴族である藤原氏は、その権勢をいよいよもって強めていき、遂には天皇ですらも自由に挿げ替える程の力を手にした時代。
時の藤原氏の当主、藤原良房の権謀術数と武力によって、菅原道真を初めとする、他の名門貴族や、多くの政敵を滅ぼしていき、源頼光を大将軍に椿西・坂東・陸奥と、辺境野蛮の地とされる土地を平定し、或いは吸収し、或いは滅ぼし、大貴族として成長した藤原氏は、藤原道長の代によってその権勢をいよいよもって輝かせ、遂には事実上の最高権力者として日ノ本の国の頂点に君臨していた。
世に、『藤原朝廷』と呼ばれる一時代である。
『藤原朝廷』と呼ばれるようになった平安京の様子は、豪華絢爛の一語に尽きる繁栄ぶりであり、たとえそれが門番、衛兵と言った雑役の職務で有ろうとも、『藤原朝廷』の一角に連なるだけで、空腹を知ることはなく、色町の女も、異国の宝石も自由に手に入れることができるという繁栄ぶり。
歌人はその繁栄ぶりを歌に詠み、奏者はその繁栄ぶりを浄瑠璃にし、画家はこぞってその繁栄ぶりを絵に描いた。
学問、芸術、商売、技術、あらゆる文化の極地がこの地に集い、まさしく、花の都の名を持つに至り、近くは、田舎にすむ村娘の耳に、遠くは海を隔てた異国の王にまで、その名は轟き、平安京はこれ以上なく、栄えに栄えた。
かくして、『藤原朝廷』は、世のほぼすべての富を一手に纏め、その力をほしいままにし、人の世で味わえる全ての快楽は地上に顕現してせしめたのであるが、それは決して、いいことばかりでは無かった。
武力で統一したばかりの坂東や鎮西、陸奥と言った辺境地方には賦役を強い、豪華絢爛な寺社仏閣を立てつづけに建立することで国庫は疲弊し、重税は民衆の生活を圧迫した。
こうした悪政は徐々に藤原家への憎悪を募らせていき、やがて道長の死を以て爆発する。
後の日本を平家・源氏・橘氏の三勢力に分割することになった世に言う『三家時代』は、こうして幕を開けたのだった。