第肆話 《平凡な日常を送る深谷龍馬》
《平凡な日常を送る深谷龍馬》
二千二十二年、五月十日。
高梨龍太になって、一ヶ月が経った。
春は欠伸をするように桜の花を全て落とし、少しずつまた緑を開いていく。
この身体になって、この環境になって、この日常になって。
少しずつだが、慣れてきた気がする。
「よっ!龍太!」
「おはよう、高梨君」
聡の明るい笑顔に、夏芽の静かな笑顔。
こんな笑顔に囲まれると、ついこちらも頬が緩んでしまう。
「おはよう、夏芽」
「……あれ?俺は?」
夏芽立花。
彼女は最近まで入院していたらしく、学校に来たのも四月の中旬だった。
頭が良く、落ち着いた雰囲気で、すごく接しやすい。
彼女も彼女で結構な人気があり、男子からも女子からも慕われている。
いわゆる、人気者ってやつだろう。
いや、学校のマドンナか。
「ねえ高梨君、科学の課題やってきた?」
「ああ、やってきた」
「ちょっと見せて?」
「え?」
夏芽は俺の課題プリントを隅から隅までサッと見て、何かに気付いたような表情を見せる。
「やっぱりあった……高梨君、ここ間違えてるよ?」
「……本当だ、夏芽の答えと違うな」
「そこで見分けちゃうのね……ほら、この前のテストでもここ間違えてたし、もしかしたらまた間違えてるんじゃないかなって」
「す……すごいな……」
夏芽を見ていると、彼女を思い出す。
三浦秋穗。
俺が高校生の頃……深谷龍馬の頃、よく仲良くしていた女子だ。
秋穗もどこか夏芽に似ている。
そういえばクリスマスの夜も、彼女から電話が掛かってきてたな……。
今どこで、何をしているのだろうか。
「おいお前ら、朝のHR始めるぞ」
「「はーい」」
俺が死んだ事を、彼女は知っているのだろうか。




