最終話 《救われた世界に》
《救われた世界に》
世界の終わりは、止められた。
「……く……かな……!」
何かが聞こえる。
「た……なし……きて……!」
この声は……。
「……高梨君!起きなさい!」
「っ……!」
目の前には、秋穗がいた。
泣いているのだろうか。
顔にポタポタと、暖かい滴が落ちてくる。
「あ……きほ……」
「……やっと起きた!もう少しで救急車が来るから……」
寒い。
身体からゆっくりと、流れ出している。
眠る前のような、そんな心地よさすらも感じて。
死ぬんだろう。
「……なあ……秋穗……」
「だから呼び捨てにしないでよ!って、何?」
「……いままで……ありがとうな……」
「なっ……何言って……!」
「ずっと……ずっと一緒に居てくれて……心配かけて……ごめんな……」
「……やめてよ……そんな事言うなんて……」
あぁ。
最後まで彼女に、こんな辛そうな顔をさせている。
最低だな。
「まるで……龍馬みたい……嘘……まさか……!」
そこで、俺の記憶は途切れた。
「世界を救ってほしい」
その頼みを、俺はやり遂げた。
朔夜がどんな方法で、世界を終わらせるのかは分からなかった。
でも、俺は救ったんだ。
この世界を。
俺が死ぬ時、俺の記憶は全て世界から消え去る。
高梨龍太も、深谷龍馬も。
この世界にはいなかったことになる。
それは俺にとって、少しだけ悲しい事であり、結構都合のいい事で。
きっと、それは俺にとって……。
二千二十一年、十二月二十四日。
街は明るい光に包まれ、どこもかしこも楽しげな雰囲気に包まれている。
「はぁ……」
そんな中、孤独に駅のホームに立つ、一人のサラリーマン。
溜息は白く映り、やつれた目は、周りのカップルに向けられる。
「ったく……楽しそうにしやがって」
今日はクリスマスイヴ。
それも雪が降っていて、なんともロマンチックなクリスマスだ。
『もしもし?』
「……なんだよ秋穗」
『今何してる?』
「ぼっちで電車待ってる」
『あらら』
「お前は……ああ、職場の飲み会だったな」
『うん』
少々の沈黙。
「じゃあ……楽しんでこ……」
あれ。
なんで。
『……どうしたの?ねえ!龍馬!』
俺は……。
「……秋穗」
『ん?どうしたの?』
「……今から、会えるかな」




