第弐拾陸話 《世界を。》
《世界を。》
「……俺が……俺が……殺しました」
朔夜。
この世界を、終わらせようとしている怪物。
深谷龍馬。
朔夜を殺せる、唯一の人間。
高梨龍太。
深谷龍馬を殺した、犯人。
全てが終わった。
彼が託してくれたこの第二の人生も。
彼が託してくれたこのチャンスも。
「……殺してやりたいわ」
彼女の真っ赤になった頬。
「……でも、それじゃ龍馬が悲しむ」
彼女の、真っ赤になった目。
「自首して」
駄目だ。
「…………秋穗」
ここで終わらせるわけにはいかない。
「あんたに呼び捨てされる覚えないわ」
「……今まで、ありがとう」
「……何よ、何が言いたっ」
その瞬間、俺は出口に向かって走り出す。
「っ……誰かっ……!」
追いかけようとした秋穗は、ソファーに足を引っかけてそのまま転倒。
「……ごめん」
秋穗に向かってそう言い残し、俺はドアに鍵をかけた。
「ちょっ!待ちなさいよ!」
最後に聞こえた彼女の声に、俺は両手で耳を塞いだ。
どこだ。
奴は……さっきの駅員は……。
今は夜中の八時半。
この時間帯だと、あまり人はいない。
見つけやすいはずなんだが……。
「……あれ、どうされました?」
背後から聞こえる、聞きなれた声。
先ほど聞いたような……そんな声に気付き、俺は振り向いた。
しかし。
「ぐっ……!」
横腹に鋭い痛み。
声の主はとっさにこちらの胸へ飛び込み、その手に持っている者を一心に突き刺した。
白い制服に染まる、赤い液体。
「……まさか、出てきちゃうとはね」
不敵に嗤うその表情。
奴だ。
朔夜。
「じゃあ、もっかい死んでくれる?深谷龍馬君」




