第弐拾壱話 《真相を。》
《真相を。》
「私は、龍馬の事について調べてみようと思うの」
彼女のその一言、それだけで部屋の空気は凍り付いた。
確定されたその死因を。
死んだ者にしか分からないその真相を、彼女はまた掘り返すと。
「……ねえ、秋穗ちゃん」
「うん」
「例えば……ね」
「龍馬の事件について何か分かったとして……あなたはどうするの?」
「っ……!」
母はただ辛そうに、右手を左手に摩りながら、現実を述べた。
「……それは」
「秋穗ちゃんが辛くなるだけじゃないの?」
秋穗は開いていた口を、ゆっくりとゆっくりと、息を通しながら閉じる。
「……ねえ、高梨君」
「は、はい!」
突然の呼びかけに、俺は飛び跳ねる。
「あなたも、龍馬の事を調べているの?」
「……はい」
「じゃあ、全てが分かったとして……あなたはどうする?」
母は、正しい事を述べている。
例えば、本当にその真実が分かったとして。
その後、秋穗はどうなるのだろう。
ただ辛い真実に、彼女は耐えることが出来るのだろうか。
「……俺は」
でも、見つけないといけない。
俺にしか救えない。
「俺はどんなに辛くても、龍馬先輩の真相について知りたいです」
世界を、終わらせるわけにはいかない。
母は、少し驚いたように、しかし落ち着いてこちらに視線を向ける。
「……そう、分かったわ。秋穗ちゃんは?」
「私も……私も高梨君と同じ」
「辛いわよ?」
「……今、龍馬の事について何も知らないこの今が辛い。だから知りたいの……何年でも、何十年でも。どんなに時間がかかっても……私は、彼の事が好きだったから」
秋穗は、俯いた顔を上げ、涙ぐみながらそう言った。
「……秋穗ちゃん、高梨君」
「息子の事を、宜しくお願いします」
母は深々と頭を下げ、涙を流していた。




