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第壱話 《高校生になった深谷龍馬》

《高校生になった深谷龍馬》


二千二十二年、四月一三日。

「龍太!早く起きなさい!学校遅れるわよ!」

「……はいはい」

寝起きで重い身体を這いずらせ、鳴り響いている目覚まし時計を叩く。

『やっと止めてくれたなぁ……』

と言わんばかりのデザインだが……ゴリゴリのマッチョって……だっさいなこれ。

てかこっち見んな。

「龍太!」

「起きてるよー」

母親と言うのは、やろうとしてることを注意するのが得意なのだろうか。

いや、見えてるのか?

「……起きるか」


箸で卵焼きを適当に切り、口へと運ぶ。

そして味噌汁で流し込み、次は米を口に入れる。

平凡な朝食だ。

「ねえ龍太?本当に大丈夫?」

「うん」

口をモゴモゴとさせながら、俺は頷いた。

「この前まではご飯も一緒に食べなかったし、口だって聞いてくれなかったのに……」

まるで別の人格が乗り移ったみたいだな。

きっと母さんはそう言いたいのだろう。


俺は高梨龍太。

改め、深谷龍馬だ。


この母親が言うように、一昨日から俺は高校生になった。

高梨家に住む、一人の高校生に。

しかし、俺の身体が巻き戻って高校生になったわけじゃない。

なぜなら俺は。


もう、死んでいる。


一昨日の四月十一日。

俺は私立緑ヶ丘学園高等学校の運動場で目覚めた。

目覚めたといっても寝ていたわけではなく、立ったまま、そのまま意識が戻ったような感覚だった。

手を見て、足を見て、身体を見て。

髪を触って、顔を触って。

まず最初に、俺の身体でない事が分かった。

それだけで、意識は一瞬で消え去った。


次に目が覚めたのは、市立病院の一室だった。

俺のとは思えないほど細い腕に、管が刺さっている。

そして隣には、林檎の皮を器用に剥いている若い女性。

「……あ……ああ」

俺が声とも言えない音を発すると、彼女はこちらを向いた。

「龍太!」


それからは、分からないの一点張りだった。

彼女が涙ぐみながら何かを言っていることも、後から来た母親が医者と一緒に何か説明していることも。

全く耳に入ってこなかった。

誰一人、見たことない顔だった。

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