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第拾捌話 《焦りと、彼の母親と。》

《焦りと、彼の母親と。》



二千二十二年、九月六日。

高梨龍太と話したあの日から、約二ヶ月ほどが経った。

しかし、何も朔夜については情報を掴めていなかった。


「はぁ……」

困った。

これは困った。

「朔夜の情報を掴むには、まず俺が死んだ時の事件を調べれば……なんて思ったが……」

結局、警察には人身事故と説明され、駅のホームに設置されていた監視カメラにもそのような人影は写っていなかった。

ただ俺が足を滑らせたという、それだけの事にされていた。

「第一、あんな所でこけるなんてありえねえだろ……警察め……」

期限は後三ヶ月。

それまでに朔夜を殺さなければ……畜生。

「どうすればいいんだ……」

「何かあったのか?龍馬?」

「聡……か」

「お前、最近変だぞ?この前の海といい……」

「……なんでもないんだ、悪い」

「おい、どこ行くんだよ!授業もう始まるぞ!」

「五限はサボる」

「なっ……!」

俺は教室を後にした。


「……あの、すみません」

そして俺は、ある一軒家に顔を出していた。

「はーい」

深谷家。

「あら、どちらさま?」

「……初めまして、俺は緑ヶ丘学園高等学校一年の高梨龍太と言います」

その女性は疑問気な顔を浮かべている。

「龍馬先輩の事で、少し聞きたいことがあって……」

久々に見る、母親の顔。

目には真っ黒なクマ、髪は荒れ、しわも増えている。

俺が死ぬ前は、こんな酷くなかった。

「あら、龍馬の事で……」

悲しげな顔。

「ここじゃなんだし、中に入って話しましょう?」

「……はい」


「龍馬とは、どんな関係だったの?」

机にコトンと置かれた紅茶を一口飲み、俺は彼女へと目を向ける。

「……俺の兄さんが龍馬先輩の同級生だったんです、それでよく家に来てて……」

「あら、そうだったのね」

「……龍馬さんの事、お悔やみ申し上げます」

「あら、ご丁寧にありがとうございます」

少々の沈黙。

それを埋めるように、俺は口を開いた。

「これから、俺は龍馬さんの事について質問します。その中でお母様にとって辛い質問もあるかもしれません。その時はすぐに言ってください」


「……ええ、分かったわ」



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