第拾漆話 《俺は。》
《俺は。》
「……これが、真実だよ」
「お前……」
俺にしか出来ない。俺にしか救えない。
重圧が、手の震えをまた呼び戻す。
「……朔夜ってのは、誰なんだ?」
「僕にもそれは分からない。でも君を殺したのはきっと……」
「……じゃあもう一つ。俺には何か特殊な力があるのか?世界を救うには、深谷龍馬が朔夜を殺すしかないんだろ?」
「そうだね、でも君に特殊的な力があるかと聞かれると……それも分からないんだ」
「……何か思い出せないか?」
「…………ごめん」
何も分からない。
まるで砂漠の砂から、それを掴み取るように。
「それでも、君しかいないんだ……頼む」
「……このまま朔夜を殺せなければ、この世界は滅亡するのか」
「ああ」
「期限は今年のクリスマスイヴまで、しかし朔夜の正体は分からない」
「ああ」
「……俺にしか、出来ないことなのか」
「ああ」
奴の顔からは、あの怪しげな笑みは消えていた。
ただ目の前のその一人に、必死に懇願するように。
世界を救ってくれ、と。
「なあ、最後に一つ聞いていいか?」
「……なんだい?」
「もし朔夜を殺せたとして、世界を救えたとしてだ」
「うん」
「お前は、どうなるんだ?」
「……死ぬよ」
そこで、俺の意識は途絶えた。
最後に見えた奴の表情が、ただ脳裏に刻まれていた。
目が覚めると、そこは自分の部屋だった。
荷物も全て部屋に移動されていて、まるで何もなかったかのように思えた。
ただ、何も変わってないわけじゃない。
俺は、高梨龍太じゃない。
深谷龍馬だ。




