第拾参話 《新谷龍馬と高梨龍太》
《深谷龍馬と高梨龍太》
「僕の名前は高梨龍太」
奴はそう言い、少しだけ怪しげに笑った。
「……そんな……お前が……」
その一言で、ほとんどが理解できた。
理解したくなかった。
奴は俺が死ぬ前、この身体で生きていた高梨龍太だ。
「その顔、もう分かったみたいだね」
「なんでだよ!なんで……」
お前がここに。
「今姿を現したのか、かな?」
「っ……!」
「せっかく高校生の高梨龍太として平凡に過ごしていたのに、なんで今になってお前が現れた。せっかく人生をやり直せたのに。だろ?君が今考えたことは」
「ちっ……違う……俺は……」
「邪魔だなぁ、消えてほしいなぁ」
「黙れ!!!!」
俺は声を荒げた。
「……図星なんだ」
「俺は……そんなこと考えて……なんか……」
「いいんだよ、どうせもう少ししたら消えるから」
「消える……?」
奴は次に、少し悲しげな笑顔を見せた。
「たっ……たかっ……ぐすっ……」
「大丈夫、大丈夫よ雪音」
「うぅ……夏芽ちゃん……」
雪音は目を真っ赤に腫らし、夏芽の胸でただ泣いていた。
「畜生、どこ行っちまったんだよ龍太」
「……今日は遅いわ、もう帰りましょう」
「おい立花!」
「仕方がないじゃない」
「お前……!」
「私が警察と高梨君の両親に連絡しておくわ。聡、あなたは雪音をお願い」
「……分かった」
「どういうことだよ!消えるって……」
「……僕も、君も、この世界の全てが消えるんだ」
「冗談はよせ!」
「その返答は少し腹立たしいな、僕がこんな冗談を言うとでも?」
「くっ……」
何も言い返せず、ただ唇を噛みしめる。
「……悪い」
「いいよ、すぐには信じられないからね」
「本当なのか?その……消えるってのは」
「うん」
「軽いな……」
「だってこれが真実だもん」
なんだよ。
じゃあ俺は、何のために高梨龍太になったんだ。
何のために、生き返ったんだ。
「その理由はね」
「なっ……お前!」
「ああ、僕は君なんだから、何考えてるかなんてすぐ分かるからね」
「なんだよそれ……」
「君を高梨龍太、僕と入れ替わらせた理由はね」
奴は手を空に掲げ、ゆっくりとこちらを指差した。
「君には、この崩壊する世界を救ってもらう」




