第拾話 《彼女が出来た高梨龍太》
《彼女が出来た高梨龍太》
時は巻き戻り、六月二日。
「高梨君が好きです!付き合ってください!」
彼女は顔を真っ赤に染めながら、頭を下げている。
俺はあまりにも突然の事に、驚きで固まっていた。
「なっ……なっ……」
声が出ない。
顔が熱い、身体が熱い、鼓動が早まる。
「た……高梨君……?」
「あっ!えっと……その……」
「いいの!ごめんなさい!その……迷惑だよね……」
「違う!」
「……高梨君?」
「お、俺は……その……告白されたことが無くて……動揺しすぎてその……!」
彼女は涙目でこちらを見ながら、固まっている。
傷つけてしまったのだろうか。
「別に桜木さんが嫌いってわけじゃないんだ!告白だって嬉しいし……」
「……へ?」
覚悟を決めないと。
「……桜木さん!」
「はっ、はい!」
「……俺と、付き合ってください」
二千二十二年、七月一二日。
夏の日差しが地面を照り付け、蝉の鳴き声が暑さを際立たせる。
今日から夏休み。
『おい龍太!お前今どこにいるんだよ!』
「あー……どこだろうな」
『はぁ?』
何を言ってるんだお前は?
それは俺が一番分かっている。
『俺らもう昼飯食べちまったぞ!これからまた泳ぐから、お前も早く来いよ!』
『たっ……高梨君!待ってるね!』
『早くおいで、高梨君』
「お……おう」
今日、俺と聡、雪音と夏芽は近くの海に来ていた。
来ていたはず、だ。
俺は今、無人島らしき場所にいる。




