第玖話《体育祭当日の高梨龍太》
《体育祭初日の高梨龍太》
二千二十二年、六月二五日。
梅雨が明け、夏の太陽が顔を覗かせる今日。
緑ヶ丘学園高等学校体育祭。
「おーい!龍太ー!」
「ん?」
聡が何かを振り回しながらこちらに走ってくる。
あれは……紙か?
「はぁ……はぁ……やっと見つけた!」
「どうしたんだよ聡」
「ちょっと来てくれよ!ほらっ!」
聡は俺の腕を掴み、どこかに連れていこうとする。
「ちょっ!なんだよ!」
「いいから早く!」
「「一番は一年二組の原口聡君でした!おめでとうございます!」」
アナウンスと共に歓声が上がり、聡は誇らしげに手を振る。
「イエーイ!」
「おい……お前……」
「ありがとな龍太!お前のおかげで一位だぜ!」
聡の手に握られている紙には『親友』と書かれていた。
「確かに連れてきた理由は分かる……が、なんで俺がこんな格好なんだよ!」
俺は体操服から、お嬢様風のドレスに着替えさせられていた。
「え?いやこの紙に書いてあるだろ!」
「親友とは書いてあるな!親友とは!」
「は?よく見て見ろよここ」
聡が指さした部分には、小さく黒文字でこう書かれていた。
【『女装させた』親友】と
「なっ……!」
「まあいいだろ!お前結構似合ってるし!」
「さ……さ……」
「あ?どうした龍太?」
「死ねえぇぇぇぇぇぇ!!」
俺は履いていたハイヒール靴で、聡の腹に蹴りを入れる。
「ぎっ……ギャアァァァァァァァァ!」
放課後の教室。
俺はあまりのショックに、灰と化していた。
「た……高梨君!」
「……ああ、雪音か」
「あのっ……そのっ……一位おめでとう!」
「……ああ、ありがとう」
「た、高梨君?元気ないね……」
「そりゃあ……まあ……な?」
「高梨君……大丈夫だよ!」
彼女は俺の手を掴み、顔を覗き込む。
「だって高梨君、似合ってたもん」
「……あ、はい」
桜木雪音。
雪音は俺のクラスメイトであり、友達であり、そして付き合っている彼女だ。




