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魂の値段

作者: 早田将也

黒づくめの男は都会のビルの谷間をさまよい歩いていた。

昼の喧騒とは違う、賑やかな雰囲気。

自分は賑やかさとは無関係といわんばかりに耳にヘッドホンをつけ、マスクで顔を隠し通り過ぎる若者。

行きかう人に声をかける飲み屋のキャッチ。

肌の露出が多い服を着た化粧が濃い若い女性。

それに目を向ける中年の男。

お酒を飲み、赤ら顔で上機嫌なサラリーマン。

数人の友達とはしゃぐ女子高生。

好奇心に満ちた顔つきの外国人観光客。


男は何か探していた。

しかし、キョロキョロ周りを見て、目的のものを探している様子もない。

男は黒ずくめの服装で、髪はきっちり七三分けにしている。

ひょろりと背が高く、体つきはかなり細身で肌の色は青白く、まるで生気を感じない。


行きかう人の顔を見ながら歩き出す。

ある男に目が留まった。年齢は40代。

頭髪は激しく後退しており、それを補うために側頭部から髪を頭頂部にもってきている。いわゆるバーコード頭だ。

体型は低背小太り、下っ腹が前に突き出して妊婦を思わせるようなお腹をしている。

もちろん彼は妊婦ではない。

あるのは脂肪だけだ。

赤いTシャツの上にレザージャケットを着て、ダメージが入りすぎたジーンズを履いている。

寒いのか暑いのかよくわからない。

リックを背負い、リックの横にアニメのぬいぐるみがついている。それが結構大きい。全体的にアンバランスだ。

会社終わりにふらついているわけではないのであろう。

一度家に帰り、気合を入れて夜の街に繰り出しているようだ。

しかし、何か行動するわけでもなく、ただじっと行きかう女性をいやらしい目つきで見つめている。

今回はあの男にしよう。

「あなたはここで何をしているのですか?」

「な、なんですか。別に何もしていませんよ」

男は話しかけられることに慣れてないせいか、目をみひらいておどおどして答える。

「あなた、そこで何もせず立ち続けるつもりですか?綺麗な女性を見て満足?違うでしょう。退屈な日常を抜け出すために、いつか誰かと巡り合うのを期待しているのでしょう?」

目が泳いでいる。

「う……あ……いや……」

どうやら図星のようだ。

「どうです?私と取引しませんか?あなたの願いかなえてあげましょう」

「え……」

「まあ、いきなりこんなこと言われても信じないでしょう。これは名刺です。今までの退屈な生活にうんざりしているならここに来てください。では」

一方的に男に告げ、立ち去った。

「今までの退屈な生活」と言った瞬間、男の眼の色が変わった

奴は必ず来るだろうなと確信した。



変な奴に会ってしまった。

中年男はしばらく呆然とし、そう思った。

黒ずくめの男の言う通り、朝、支度をして仕事に行き与えられた仕事をやり、年下の上司に怒られ、家に帰り、1人でご飯を食べ、テレビを見て寝る。

毎日毎日同じことの繰り返しで、いい加減うんざりしていた。

そんな毎日を変えたくてここ最近、町に繰り出すことにした。

そう、新しい出会いを求めて。

もちろん今は独身。

彼女は10年ほどいない。

中年男は名刺を見る。


あなたのために力を貸しましょう!

Demon consult corporation

何でも相談に乗ります

出門 バラム(でもん バラム)

○○市○×町○○番○×丁目××ビル3階


ハーフなのか?確かに身長は高く色白だった気はするが……

いやそれより、英語標記の部分が見えにくく、いや、見えたところで英語は読めないのだが、結局、何の会社かわからない。

何か胡散臭いな。

行った途端、監禁され、何か高額なものを買わされるまで帰してくれないかもしれない。

犯罪に巻き込まれるのはごめんだ。

名刺を財布にしまい、再びいい女性がいないか探し出し始めた。

と言っても話しかける勇気はないのだが……


数日後

来てしまった……

一旦は無視しようと決めたものの、どうにも気になる。

仕事をしていても、家でテレビを見ていても、いつの間にかあの黒ずくめの男のことを思い出していた。

勘違いしないでいただきたい。

恋ではない。

一見、何の変哲のないビルで怪しい感じはまるでない。

しかし、犯罪に巻き込まれないよう、現金数万円だけポケットに入れてきた。身分書や携帯すら家においてきた。

対策はばっちりだ。

ビルに入り、玄関のドアを開ける。

「ようこそ。やはり来ていただけましたか。さあどうぞ。ソファにおかけになってください」

この前の男、出門が愛想よく出迎えた。

オフィスの中はソファとテーブル以外何もなかった。


「さて、どのようなご相談ですか?」

「いえ、あの~すいません。ここはどういう処ですか?」

「おや、知らずにここへ来たんですか?名刺を差し上げたのに。ここは悪魔コンサルト会社ですよ」

「は?あの~」

こいつ頭がどこかおかしいのではないだろうか。

しかし、出門の表情はいたって真面目。

茶化したようには見えない。

手に持っていた名刺を見てみる。

Demon consult corporation

これは悪魔コンサルト会社とよむのか……

怪訝な顔つきで相手を見ていると出門が説明し始めた。

「まあ、皆さん始めに聞いたときはそのような顔つきになりますよ。設立1年ですが、お客様のニーズに合った仕事をモットーにしておりますので最後には皆さん満足して帰られます」

「で、どのようなことをしてくれるのです?」

「基本的には何でもやります。しかし、人を殺すことはお断りしていますが」

「それ以外なら何でも?」

「ええ、まあ。しかし、それなりの代価はいただきますが……」

男は急に表情が暗くなった。

顔は警戒心が現れていた。

こいつ、まさかぼったくりまがいのこともやるんじゃないか?と考えたからだ。

「ちなみに……値段っていうのはいくらぐらいでしょうか?」

「まあ、当然、依頼内容にもよって変化します。支払いはお金ではありません。あなたの魂です。もちろんあなたの肉体が死んだ後の話。……人間界にはもうこの話は浸透していると思ったのですが……」

ますますわからぬ。

「もちろん、強制ではありません。帰りたくなれば、このドアから出て行っていただいても構いません。しかし、帰ればいつもの生活に戻ります。私を信用し魂を預けていただけるなら、全力でサポートさせていただきます」

狂人じみた感じはなく、むしろ説明に誠意すら感じる。

「こういっては失礼だと思いますが、なにか悪魔が存在する証拠みたいなものがあるのでしょうか?」

男は話では納得いかず、証拠を求めた。

「その意見はごもっともでございます。では、わたくしの未来と過去を見る能力であなたのことを当てて差し上げましょう」

そういうと、両手でじゃんけんのグーの形を作り、拳をあわせすきまから中年男のことを見た。一見、ふざけているようにも見える。

「渡辺 卓夫41歳。妻なし。彼女なし。趣味なし。金なし。ちょっとだけ借金あり。初恋の相手は近所のお姉さん。初体験は風俗店。好きなものは肉類。特にホルモン。嫌いなものイクラ、ウニ、ゴーヤ。人生でやり直したいことは……おや、たくさんありますね。生まれる家がダメだったっていうのは……どうしようもありませんね」

次々と言い当てられ、顔が真っ赤になった。

こちらからは何の情報も与えていないどころか、名前すら名乗っていないのだ。

悪魔は言葉をつづけた。

「童貞を捨てたのが、風俗ということは一緒に行ったバイトの先輩しか知らない……」

「わ、わ、わかりました。もう結構です。信じます。」

「それはよかった。では本題に入りましょう。今、あなたの願いは何ですか?」

改めて言われると、悩んでしまう。

やりたいことはたくさんあった。

しかし、歳を重ねるにつれ自分には無理だとあきらめ、忘れてしまった。

お金、女、王様になるのもいいな……いや、そんなことはできるわけないか。

「ちなみに、私の魂でどのくらいの規模の夢が叶うのですか?」

「おっと、大切なことを言い忘れていましたね……まず、あなたの魂の重さをはからせてもらいます。ちょっと失礼」

そういうと出門は、中年男の正面に立った。

なにを始めるのかと思い不思議そうに見ていると、突然、出門が私めがけ手刀をはなった。

出門の腕が中年男の体に突き刺さる。

「ぐ!?なにを……くそ……死ぬ……」

中年男は顔をゆがめ、苦悶の表情を作る。

「……痛くないですよね?」

言われてみれば、ほんとに痛くない。

苦悶の表情を作っていた自分が恥ずかしくなった。

「でも、次はもっとびっくりすると思いますよ」

そういうと、出門は思いっきり腕を引っ張った。

すると不思議なことが起こった。

出門の腕と同時に自分が前方に引っ張られた。

そして出門の手が半透明の人型の物体を握っている。

いや、よくみたら握られているのは半透明の自分の一部だ。

後ろを振り返ると、自分だった肉体が空の一点を見すえたまま立っている。

「これって、幽体離脱……?」

「そうです。悪魔の手にかかればこんなことだって朝飯前です。さて、では体重をはからせてもらいます」

そこに持ってきたのは普通の体重計。

「あの、魂って重さとかあるものなのですか?」

「それは、ありますよ。偉大なことを成し遂げた人間は魂が重たいです。その分、我々としては、そのような重量のある魂を持った人間の方が、価値があります」

中年男はそれに乗る。

いつもの体重計のように針がギューンと触れるかと思い描きながら針を見てみる。

しかし、予想に反して針は振れない。

秤を降り、もう一度乗ってみる。

針は微動だにしなかった。

その後、昇降を繰り返すも結果は同じだった。

これが魂の重さを図るというのならば、魂の重さはゼロ。

自分が無価値に思えてきた。

「おやおや、ビックリするくらい軽い魂ですね。体とは大違いだ」

出門は自分で言っておきながら、爆笑している。

こいつ……。

ちょっとした殺意が沸いたがこの状態ではどうしようもない。

それに今機嫌を損ねたら幽体離脱状態が続くかもしれね。

「しかし大丈夫です。魂なんてすぐ重たくも軽くもなるんですから。これからの行い次第ではもっと重くすることができます」

出門は漸く笑い終えたかと思うと軽快にこたえる。

「あの、魂の重さを量ってどうするのです?」

「あなたの願いをかなえるためにふさわしい代価を魂の重さで決めます」

「ふさわしい代価?」

「簡単に言えば、魂の重さで願い事のレベルを決めます」

「私の魂の価値はどうですか?」

「ほとんど価値がないですね……叶えられる願いは……金銭でしたら1万円くらいで、女性関係でしたら、女性を紹介するまでですかね~」

男は唖然とした。

堕落的な生活をしてきたといえども、自分の魂の価値が1万円しかないのはショックだった。

「すると、願いをかなえてしまったら、そんなことで魂を引き渡さなければならないのですか?あんまりだ……」

「そう嘆くことはありません。さっきもいったように魂の価値は変わりゆくものです。良いことでも悪いことでも……。大きなことをやれば魂の価値が高くなります」

「そんな簡単に言わないでいただきたい。いきなりそんなこと言われても……」

「大丈夫です。わたしがサポートしましょう。まずはいったん外へ出ましょうか」

魂を体に戻し、2人はビルの外へ出た。

「外へ出てきましたが、どうするつもりです?」

「まあ、最初は行動あるのみです。おや、あそこに荷物を持ったお婆さんが階段を上っています。助けてやりなさい」

男の指さすほうを見てみると、おばあさんが小包をかかえ歩いている。

確かに階段にお婆さんがいたのだが、特段、大きな荷物でもなかった。

しかし最初から反対していてもしょうがない。

中年男は出門の言うとおりにお婆さんに声をかけた。

「もしよければ運ぶのを手伝いましょうか?」

「とんでもない。これは大事なものなんだよ。人に持たせるなんて考えられない」

おばあさんはものすごい気迫で私に叫んだ。

「あ……そうですか。失礼しました」

心の中で指示を出した悪魔を罵った。

私は素直に謝り道を引き返そうとすると、おばあさんは何か思いついたのか、あわてて言葉を訂正した。

「いや、私こそ。ごめんなさい。お前さんは親切な方だね。じゃあお言葉に甘えて、これをこの先のビルの二階まで運んでくれるかい?」

婆さんの態度が急に変わった。

気味が悪い。

男はとまどいながら承知した。

これで出門も満足だろうと振り返ると、そこに出門の姿はなかった。

いつのまにか消えていた。

出門が見てないなら帰ろうかとも思ったが、結局最後まで持っていくことにした。


しばらくおばあさんと歩いていると、目的のビルが見えた。

「おばさん、ここでいいかい?」

「できれば二階に運んでいただけたら嬉しいです」

意外と図々しいなと思いながらも、仕方ないとあきらめた。

ビルの入り口に入るとき建物のテナント名を見た。

二階のビルは安藤商会

「失礼します~」

二階の室内に中年男が入る。

「誰だ、てめー」

「えっ……」

室内に入ると、明らかに堅気の人間ではない強面の人たちが一斉に男の方を振り向いた。

どういうことかと思い、後方にいた婆さんを振り返るが、肝心の婆さんはいない。

消えやがった。

「いや、荷物運んできて……」

「そうか、お前が新しい運び屋か。けど、今度の運び屋は借金のカタに捕まえた婆さんだと聞いていたんだが」

いつの間にか運び屋の片棒を担がされてしまった。

「いや、俺は運び屋じゃない……」

「なんだと……じゃお前は何もんだ!?……運び屋じゃなきゃ、生かしておけねー」

あのくそ婆、変なもの運ばせやがったな。

そう思っても後の祭り。

まさかあの婆さんが運び屋で、このビルの二階がヤクザの事務所だとは思いもしなかった。

男は逃げようとしようとしたが、普段からの運動不足がたたり、あっという間につかまってしまった。

「おい、お前はどこのどいつだ。サツか……いやサツならこんな間抜け送るはずないし……しかし身分証明書も財布もないなんて何かあるな」

出門の事務所に向かう時に身分証を置いてきたせいで、余計に疑われてしまった。

中年男の全身からものすごい量の冷汗が出る。

「私は善良な市民です。ここに来たのはただ頼まれただけなんです。お願いです。ここのことは誰にも言いません。」

「返してやってもいいが……ただで返すわけにはいかんな……」

「お願いです。何でもやりますので命だけは……」

「じゃ、1つ仕事を頼もうか。この荷物を俺たちの対立している組織がいる○○ビルに届けてもらおうか。うまくいけば、お前は解放してやる。うまくいかなかったら……わかっているな」

「も、も、もちろんやります」

中年男は悪い方向に自分がはまって行っているような感覚を覚えた。

中年男は体に色々機器つけられ、やっと建物から解放された。

もちろん後ろには見張りがついてくる。

見張りをまいたところで、体にはGPSがつけられているに違いない。

これから敵対する組織の事務所にこの小包を届けなければならない。

いったいこの小包の中身はなんなのだ?

誕生日プレゼントであってくれ。

男は儚い願いを抱きながら、神に祈る。

これ以上、厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。

相手の組織はここから少し距離があったため、タクシーをつかまえた。

隣には強面の男も乗り込む。

タクシー運転手も雰囲気が張りつめていることを察したのか、声はかけてこない。

車内の空気が非常に重たく感じる。

全身から嫌な汗が染み出てきた。

息苦しさを感じながらも目的地周辺に到着した。

タクシーを降りた後、見張りの男はまた少し後ろを歩いている。

ここで逃げてもすぐ追いつかれるだろう。

そして今度こそ殺されてしまう。

やっぱり行くしかないか。

男は一応決心した。恐怖で心がおれそうだった。

「すいません。お届け物です。」

恐る恐る室内に入ると強面の男がたくさんいた。

先ほどの事務所の3倍くらい人数がいるんではないだろうか。

もう死ぬ。

男は確信した。

中年男は腰が抜けそうになった。

「あ、安藤商会から、お、お届け物です。」

「安藤商会だと??てめー。奴らの差し金か??」

強面の男の視線は鋭く、目からビームが出そうな目力だった。

「荷物置いときますね」

そういって一番近くの机の上において猛ダッシュで逃げた。

怖すぎる。

追ってくる様子はないようだ。

また、安藤商会の見張り役の男も尾行をやめたようだった。

「やった。俺はこれで解放される」

仕事をやりきった脱力感で男はしばらくの間、町の中をフラフラしていた。

ふと見上げると街頭ニュースが目に入った。

“速報です。先ほど○○ビルで爆発がありました”

物騒な世の中だなと思う。

最近はこういう暗いニュースが蔓延している。

強盗、監禁、殺人、爆弾事件、テロ。

そういうたぐいの事件がここ1年で急に増えた気がする。

そう言えば、出門の事務所も1年前からだったな……これらのことはもしかして……

しかし、男の思考は突然の大きな声で中断した。

「てめーただじゃおかね~からな」

後ろから怒号が聞こえる。

やれやれ、物騒な世の中だと思いつつも、様子を見るために後ろを振り返る。

すると、半分服が燃えた男たちがこっちに向かって走ってくる。


その時、中年男の頭にふっと街頭モニターで流れていた情報がよみがえってきた。

○○ビルで爆発……○○ビル

「ん?○○ビルって、さっきの荷物送ったところ???」

男の心の中に沸々と恐怖が込み上げてきた。

俺が運んだ荷物はもしかして……爆弾?

やはり、誕生日プレゼントの類ではなかったようだ。

服の焼けた男たちがどんどん迫ってくる。

髪をふりみだし、目が血走り、ボロボロの焦げた服をまとった姿は中年男への殺意がほとばしっていた。


「たすけてくれー」

中年男は泣き叫びながら走る。

「待て、こらー」

後ろから恐怖が迫ってくる。

すぐに追いついてきそうな勢いだ。

すると、見計らったかのように出門があらわれた。

「助けてくれ、奴らに追われているんだ」

中年男は必死にすがる。

「御意に」

すると、追っかけてきた男の怒号が消えた。

振り返ると姿が見えない。

「助かった。ありがとう」

「いえいえ。依頼者の願いをかなえる。当然のことをしたまでです」

満足そうに答えた男の言葉に中年男の顔が曇る。

「ん?すると、もしかして私の願い事をかなえたことになったのか?」

「左様でございます」

みるみるうちに中年男はかおを真っ赤にした。

「ふざけるな。これは元はといえばお前が、ばあさんの荷物を持ってあげろといったせいではないか」

中年男は唾を飛ばしながら、抗議した。

「たしかに“荷物を持ってあげろ”とは言いましたが、何も“ヤクザの事務所まで持って行け”など言っておりません。歩道橋まででよかったのに。不服ならさっきの男どもをここへ連れてきましょう」

出門は飄々と言ってのけた。

確かに判断したのは自分だ。

「う……私はこれからどうすればいい?」

「ヤクザの事務所爆発させたとなれば、堅気の生活は難しいでしょうな。安藤商会に相談してみては?」

男は肩を落とし、言われるがまま安藤商会に戻った。

「……私を組に入れてください」

「ははは、まさかほんとにやってくれるとは。おかげで敵組織は壊滅、生き残った人間もどこか行ってしまった。いいだろう。おまえを一員としてやる。盃をかわそう」

こうして、中年男は組の一員となった。

しかし、度重なる激しい縄張り争いの際、敵の銃に撃たれて死んだ。



「おお、あの時のさえない中年男、今死にましたか。まあ予想通りの結果でしたが。

さっそく魂を回収しなくては」

出門は満足げだった。

「それにしても、人間はなんと愚かなんでしょう。魂の重さなんか、死んだらみんな同じ。それに普通の体重計に魂だけ乗っても針など振れないのに。落ち込んだ人間を少しそそのかせば、世の中は悪い方向に進み、それだけ人間は死に。魂を回収しやすくなるというもの。追い込まれた人間はケチな願いしかしないから、労力が少なくていい。こんなシステムさえ作れれば、俺も出世コース間違いなしだ」

出門は満足していた。

目先のケチな願いを叶え、魂をいただく。

たちまち大量の魂が出門の所に集まる。

月日がたち、大量に魂を地獄に送ったおかげで出門は出世し、魔界へと帰って行った。


しばらくすると、それまで荒れていた世の中が回復の兆しを見せ始めた。

やり手の出門が魔界に帰ったおかげだろう。


町の中にある男がいた。

ピンク色の頬に優しい笑顔。ふくよかな体の背中には翼が隠れていた。

男のもつ名刺には

あなたのために力を貸しましょう!

angel consult corporation

何でも相談に乗ります


円時絵流 ミカエル(えんじえる ミカエル)


○○市○×町○○番○×丁目××ビル3階



天使も悪魔も考えることは同じ。

だから世の中、良い時も悪い時もあるんです。


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