お父様の事は私が幸せにするから問題なし。
黒翼騎士団物語シリーズロウとエルナの娘目線の締めくくり。
私の両親は、貴族社会において少し……いや、大分有名だ。それも、良い意味ではなく、悪い意味で。
私のお父様とお母様は最初純愛といわれていた。幼い頃の約束を守った『ロウ』と『エル』なのだと。周囲の反対を押し切って、愛しい存在と結婚したと。だけど、それは破綻した。
お父様の『エル』はお母様ではなかった。お母様はお父様に出会った当初記憶を失っていて、それで勘違いして結婚し、思いだし、出て行った。
ようは、私とお父様は捨てられたわけだが、まぁ、特に私は気にしていない。物心ついた時にはお母様はいなかったし、時々交流がある。両親が揃っていないとしても私にとってはそれが当たり前だし、周りから口さがなく言われても「へぇー」って受け流していた。
ちなみにお父様の『エル』は、あの『剣姫』、エラルカだったらしいって、お父様が言ってた。お父様はよく思いを引きずりやすい性格をしているのかよく「あの時……」と語りだすことがあるのだ。不謹慎だが、そうやって落ち込むお父様は可愛いし、私は何時も必死に慰めている。
お父様の傍に居たかったがために平民なのに強さを身に着けた『剣姫』。
『エル』を必死に探し出そうとしていたけれど間違えたお父様。
記憶喪失の中で貴族のお父様に求められてついていってしまったお母様。
正直普通に考えてみると誰が悪いとかそういう話でもない。そもそもお父様がお母様の事を勘違いしなければ私はこの世に生まれて日常を謳歌するといった事も出来なかったわけで、それを思えば感謝しかない。だって怖くない? 私がもしかしたら存在しなかったかもしれないって。
『剣姫』に関しても見つけた時お父様がお母様ともう婚約していたから動けなかったらしいけど、そこで飛び込めばまた違ったんだろうなーとか。お父様に関しては昔の『剣姫』が病弱だったからって『剣姫』を除外しなきゃよかっただろうしさー。あとお母様もほいほい貴族についていかなきゃよかったし。
うん。誰が悪いとかそんな話なんじゃないよね。
でも、お父様はそのことで色々言われていたりするんだよ。事情を知らない人からしたら熱愛で結婚したのに嫁に逃げられたとかそんな感じだしさー。
両親の事詳しく知った私はさ、もっと価値観を広げようって考えて結構街に出たりしていたわけ。そうしたら頭の中ではこんな口調になってしまいましたと。貴族世界ではちゃんと、ですわとかいっているんだよ? 私は両方完璧だからね。
まぁ、やらかして噂されてはいるけど、落ち込んだ後は一生懸命仕事したりしているからお父様そこまで評判悪いわけではないしね。人の人生色々あるものだし、お父様の人生も色々あったっていうそれだけの話だよね。
いやー、それにしても改めて考えると『剣姫』も私の両親も夢見がちな部分あったんだろうね。
『剣姫』もお父様も幼い頃の約束を未来でかなうはずだって思い込んでいるし、お母様はお父様っていう貴族に求められて浮かれてしまったわけで。本当に誰が悪いとかいう話じゃないよねー。
「そんなわけで私は特にお父様が何かやらかした事に関しては何も思ってないんだけど」
「……そうか」
ちなみに目の前にいるのはお父様です。お父様は私が学校とかに通うようになって、外の噂を沢山聞いてどう思っているんだろうって聞いてきたみたい。
……私は結構外に抜け出していっているからそんな純粋培養ではないのだけれど、お父様には内緒にしていたし、お父様がこれ以上心労を患ってもかわいそうだしね。護衛の人とかにはいっているよ? でも一人で外に出る方が自由でいいから剣とかも習ってたりするの。
『剣姫』の事はね、その強さには正直憧れているんだよね。強さに関して言えばあんな風になりたい。貴族としてはどうかと思うけど剣を振るうのは楽しいし。
お父様は貴族の当主を継いでいるわけでもないし、将来的に騎士になれないかなーって思ってたりもするんだよね。
なんか、『剣姫』はともかく、『剣姫』の周りはお父様を近づけたくないみたいなんだけどさー。話し合いぐらいいいじゃんって思うからさー。私が騎士になって『剣姫』と仲良くなって家に連れて帰れないかなーって。まぁ、その時は『剣姫』の旦那さんも一緒にだけど。
お父様の憂いが少しでもなくなればいいなって私は思っているんだよね。だって周りがなんていっても、周りがどんな評価を下してもお父様は私にとって優しいお父様でしかないんだもん。何か言われたとしても正直知らないよ。お父様は私にとってちょっと頼りないけれど、自慢のお父様。
「ねぇ、お父様、私がお父様を幸せにするからね!」
「え」
「強くなってお金稼いで、精一杯親孝行して、結婚して子供沢山生んでお父様に孫を沢山見せてあげるから!」
「……えーと、リル?」
「ふふふ、だから楽しみにしていてね!」
「おーい、リル、聞いている? お父様はリルが元気に育っているだけで幸せなんだけど」
「そんなわけでお父様、私騎士団入る予定だから!」
「え」
「お父様を世界一の幸せ者にするための第一歩を歩むんだよ!」
私の宣言にお父様は目をぱちくりさせて狼狽していた。そんなお父様も可愛い。
とりあえず周りがお父様に何を言おうが、お父様を悪く思おうが、私がお父様を幸せにするから何も問題はないんだよ! 寧ろ周りを羨ましがらせるぐらい幸せにしてみせる!!
それが私の野望である。
―――お父様の事は私が幸せにするから問題なし。
(お父様は私が幸せにする!!)
黒翼騎士団物語のまとめです。
基本的に私はバッドエンドで終わる物語はすきではありません。途中で挫折や絶望があっても、最後には立ち上がる物語が基本的に好きです。
そんなわけでこんな物語になりました。リルは前向きというか、あんまりこんな両親でも気にする事ない性格です。またファザコンなのでロウトが幸せになるために必死なのです。
ロウトは大切な人との結婚は出来なかったけれど、娘に愛されて幸せですというのが、私にとってのこの物語の結末として考えていたものでした。
2013年にエラルカのお話を投稿してから不定期に投稿する短編連作のシリーズでしたが、読者様が少しでも心を動かされたらそれはそれで嬉しいなと思っています。
このシリーズに対する意見で傷つく事もありましたが、それはそれで読者様に何も感じられないよりは良いとは思っています。良い感情でも悪い感情でも、私の生み出したもので誰かが何かを感じているというのは一つの成果なのだろうなと思うので。
このシリーズをここまで読んでくださった方ありがとうございます。しめくくりのお話に納得のいかない読者様ももしかしたらいるかもしれませんが、これが私が思い描いた結末なのでお届けしております。
よろしければ、感想などいただければ嬉しいです。
2016年8月27日 池中織奈