バッドエンド
痛みが体を貫き僕の体は宙に浮かびゆうに3メートルを超える距離を弾き飛ばされた。痛みは一瞬にして熱さにかわり何かが突き抜けたあたりが燃えるように熱い。痛みに耐えようとして歯を食いしばろうとした時にはすでに僕の意識は深い闇の中に沈んでいっていた。
がはっ
自分のものとは思えないような声で再び意識を取り戻す。吐き出したのは真っ赤な血の塊。こんなのドラマや漫画の世界だけの代物だと思っていたけれど実際に吐き出してみると我がことながら気味が悪い。相変わらず熱を発する傷口とは反対に優しく柔らかい感触を後頭部に感じた。まだぼんやりとしてはっきりしないまま、僕は辺りの様子を探ってみる。体は全く動かないので目だけを動かしてみる。都会の眩しい光のせいで星も見えない空にぼんやりと輝く白い月と僕を覗き込むように黒い月がある。
「大丈夫か?……健人君。」
そして、聞き慣れた魔法使いの声がした。毎日、毎日彼女とどうでもいいようなくだらないことをした。朝僕の部屋に起こしにやってきたり、手作りのお弁当を持ってきてくれたと思ったら箸を忘れてきたり。その一つ一つは本当に些細な日常として楽しい毎日に埋もれてしまっていたとしてもその事実だけを見れば僕の人生は輝いていたと胸を張って言えるだろう。
痛みのせいで僕は僕の大切な人の顔をしっかりと見ることができない。ただ黒い誰が僕のことを見下ろしていることしか分からない。こんなに近くにいるのに僕は彼女の表情すら見ることができない。
「ごめんね。健人君を助けることが出来なかった。本当にすまない。」
「どうして、先輩があやまるんですか?………先輩は…悪くなんてないのに。」
「そんなことはないさ。私がもっとしっかりしていれば君は死なずに済んだかもしれない。私が魔法使いであるばっかりに君を。」
優しい魔法使いはそこで言葉を切った。ぽとりと温かい水滴が僕の頬へと落ちてきた。雲ひとつない空から温かな雨が僕の元へとぽたぽたと落ちてくる。
「ねえ、先輩は覚えていてくれますか。」
体から力が抜けていく。もう「この世界」で僕に残された時間は残り少ない。
「例え、僕が…死んでも覚え……ていてくれ…ますか?」
死にたくない。もっと生きていたい。僕はそう願う。そう願いながら僕は黒い月に見下ろされながら死んだのだった。
初めまして群青色です。
久しぶりに何かを書いてみたくなり投稿しました。最初は前に投稿した再会は雪の下でのようなちょっとした短編にする予定でしたがこの話はもうちょっと書いてみたくなりました。
次の更新はいつになるかわかりませんが出来るだけ早く続きを投稿できるように頑張ります。
これを読んで少しでも興味を持ってくれた方は前作も読んで感想なんかをいただけると嬉しかったりします。