休憩たいむです
「ふう……街は人が多くて酔ってしまいそうですね……」
青年が今いる街は、ルエリス地方の中でも比較的自然が多い場所である、“ナエウォル”と呼ばれる街だ。
ナエウォルは、その恵まれた自然環境により木造の建物や木造の道具、更には木造の日用品や武器と、とにかく“木”に関係するものが多いことで有名である。
そのため、他の地方から木材収集の依頼などが多く、建築家の往来も多い。
「この街は空気も澄んでますし、何より自然が多いので“老後の静かなひとときを過ごすのにはもってこいな街リスト”の候補に認定ですね」
そんなことを呟きながら、青年は人混みを避けながらゆっくりと宿屋に向かっていく。
「いらっしゃい、いらっしゃい! おいしいリンゴはいかがかな?」
「さあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 良質な木で作った木綿の服だよ!!」
「木でできたスプーンやフォーク、椅子や机など各種家具を売っておりますよー!」
宿屋に向かう道中では、客寄せのため声を張り上げて叫んでいる店主や、少しでも店の利益や知名度を上げるために、そこかしこにいる人々に声を掛けている店員など商売が盛んな場所を度々見かける。
……少なくとも、そうした商売がなければ村や街、ましてや城から税金や自分の生活、人々の生活の維持や旅のサポートなどには欠かせないので鬱陶しがってもなくてはならない存在ではあるのだが。
「捕まると少々厄介そうですのでなるべく目を合わせずに周囲に溶け込みましょうか……」
商売をしている者から見れば迷惑な客ですね、と思いながらも青年はできる限り自然な立ち振舞いで黄色い声が飛び交う通りを歩いていった。
「ふう、とりあえず厄介事は避けられたのであとは安心して宿屋まで行けますね」
黄色い声が遠くで聞こえるようになった頃、青年はそう呟きながら歩くペースを下げた。
「かわいい花が植えられている花壇、日除けにもなる木、暖かな陽射しを受けながら一息できるベンチ……人混みを除けば少なくとも環境は良さそうです」
ぼそぼそと一人で分析しながら青年は歩く。
「村も村でのんびりした時を過ごせるのでいいですが、城下町は頑丈な建物や魔法による防護壁もあったりしますし、ああでも税金はそれなりに取られそうですね……うーん、そうした点を考慮すると結局のところはやはり中間の街あたりがいいでしょうか、悩みどころですね……」
余談ではあるのだが、青年は興味のあることやふとした時に分析することがある。
少なくとも、その分析が実戦や予想で使えることはそれほど多くはないのだが。
「特別これといって浪費するものもないのでお金に関しましては大丈夫そうですが城下町だと街以上に騒がしそうですし、かといって街は魔物の襲撃や盗賊さんも多そうですし、ましてや村は交易だったりがいろいろとめんどうそうですし……うーん……」
青年は悩む。
恐らく都合の良い答えはなかなか出ないであると予想しながら。
「はあ、やはり人の少ない場所でご隠居するか家でも建てたほうが手っ取り早」
「キャーーー!!」
静かな街中に響く女性の悲鳴。
どうやら、すぐ近くの裏道で何かがあったようだ。
「……何とも都合が悪いことに、近くに警備の方や善良な前衛職の方はいらっしゃらないですね」
青年は、争い事や厄介事は嫌いである。
「仕方ありません、面倒事は苦手ですがここは助けに向かったほうが一般常識として賢明な判断でしょう」
青年は、女性の悲鳴が聞こえたと思われる裏道に入った。