メイスの一撃は重い
「一か八かではありますが……もうこの方法しか残されていなさそうですね」
青年は再び盾を前に構えると、左手に持っていたメイスを軽く上に振り上げて、すぐに振り下ろせるように構え直した。
「さあ、いらしてください」
『ガアアアアアアア!!』
フォレストウルフは、今までよりも大きな声で叫びながら、再び猛ダッシュで青年に向かって突進してきた。
「─────」
フォレストウルフが突進をしてくる間、に青年は小声で詠唱を始めた。
──そして、フォレストウルフが間近に迫る直前、
「プロテクトウォール」
青年がそう言うと同時に青年の周りを薄い黄緑色のオーラが纏い、そして
ガキッ!
フォレストウルフの突進を盾で受け止める。
ブォン!
──と、青年は振り上げたメイスをフォレストウルフの頭部を目掛けて勢い良く振り下ろした。
バキッ。
『ギャイッ』
何かが凹むような感触と、断末魔と痛みが混じったような声でフォレストウルフが鳴いた。
「……貴方に、安らかな眠りを……」
青年は、メイスを地面に突き刺し、メイスの形に凹んでしまい、もう動かなくなったフォレストウルフの前に方膝を付き、両手を組んで目を閉じ、祈りを捧げた。
「生きとし生ける者を救い、迷える子羊に道を教え導く聖職者たるもの、やはり殺生してしまうのは心が痛みます……たとえそれが自己防衛だったとしても……」
普通の人であれば、魔物は動植物に危害を加える存在として認知されているため、たとえ子供であろうと聖職者であろうととどめを刺したとしても何の罪にも問われない。
が、やはり心が優しい者や聖職者にとっては、とどめを刺す──殺生することは躊躇してしまう者が多く、それにより逆に魔物によって命を奪われてしまうということもまた、皮肉な現実である。
そのため、優しい心は持ちつつも時には何かを守るため、あるいは自分のために相手を殺生する、毅然とした心もこの世界では──旅人には必要なのである。
……たとえ、それが同じ“人”であろうとも、である。
「できることなら、できることならば……人も動物も草木も魔物も、何もかも争いのない世界になれば、殺生による悲しい思いや戦争などがなくなるのですが……今のご時世ではこれから先、まだまだ悲しみの連鎖は続きそうですね……」
そう嘆きながらも、青年は改めてその手で倒したフォレストウルフに冥福の祈りを捧げ、再び歩みを始めた。