堅実にいきますか
右手に盾、左手にメイスを持ち、青年は音がしたであろうと思われる草むらのほうを向き、いつでも戦えるよう身構える。
ガサッ!!
「……!」
キンッ。
予め前に構えておいた盾でうまいこと攻撃を受け流す。
──飛び出してきた“何か”は、四足の黒い体毛に鋭い牙を持つ“フォレストウルフ”だ。
『ガルルルルル……』
「これはこれは、お犬様……いえ、おーかみさんですか」
フォレストウルフは、特にこれといって秀でた能力はないものの、鋭利な牙やある程度の知能を有するため、初心者の旅人にとってはやや骨の折れる相手である。
「餌を与えて帰っていただく……わけにもいきませんか」
青年は争い事は苦手なため、できるだけ穏便に事を済ませようかと考えたのだが、如何せん、相手が相手なだけに交渉は難しく甘い考えは敵の先制攻撃により打ち砕かれた。
『ガアアッ!!』
ガキンッ!
フォレストウルフは青年に噛み付こうと飛び掛かってくるが、青年はそれに対して盾により受け流し、反撃をする機会を伺うため様子を観察している。
「うーん、僕はそれほど運動神経はいいほうではありませんし、少々卑怯ではありますが相手の心を攻撃していきましょうか」
キンッ。
ガキンッ!
ギャリン!
幸いなことに、このフォレストウルフは攻撃する直前に飛びかかる“癖”があるため、それに気が付いた青年は飛び掛かる直前に盾を身構え、攻撃を受け流す。
『グルルルゥッ……!』
「ああ、少々疲れましたか?」
何度か攻撃を受け流すと、心なしかフォレストウルフの動きにキレがなくなり息が少し上がっているようにも見える。
今が反撃の狼煙を上げる頃合いでしょうか、と心の中で呟きながら青年は次の攻撃に身構えた。
『ガアア!!』
「……そこですっ!」
攻撃を受け流す直前、軽く盾を下に構え、ブォン、と勢いよく盾を上に振り上げる。
バキッ。
『ギャインッ』
クリーンヒット。
まさに、これが今の反撃──カウンターに相応しい言葉であろう。
フォレストウルフは軽く弾き飛ばされ、ごろごろと転がる。
「あああ、少々やり過ぎてしまいましたでしょうか……」
見ると、フォレストウルフの牙が先程の衝撃により何本か折れており、下顎も腫れ、鼻からも血が出ている。
「もう少し手加減をすれば良かっ」
『ガアアァァァ!!』
今の一撃でどうやらフォレストウルフを怒らせてしまったようだ。
「ああ、厄介ですね……」
フォレストウルフは、青年目掛けて猛ダッシュで突っ込んでいく。
ギィンッ!
「あいたたた、衝撃に衝撃は腕にきますね……」
まさかの体当たり。
フォレストウルフは体ごと青年に体当たりをしてきたのだ。
さすがの青年もこれは予想しておらず、思わぬ反撃に未だ衝撃で痺れる腕を振りながら苦笑する。
「は……はは……防戦一方では少々厳しいですか……」
今の状態のフォレストウルフに防戦は不利と考えた青年は、次の手を考える。