厄介ですね
ガサッ。ガサッ。
草木を踏みしめる音が、風のささやきが聞こえる静かな森の周囲に響き渡る。
「歩いてみたのはいいものの、行くあてもなくさ迷うというのは、やはりあまり得策ではありませんでしたか」
ふう、と軽く溜め息を吐きながら青年は歩くペースを少し落とす。
あれから5分程歩いたのだが、一行に景色が変わる様子もなく、辺りに見えるものと言えば、木、木、木。
「──これが“樹海”なるものでしょうか……」
はあ、と本日2度目の溜め息を吐く。
ガサッ!
「!」
不意に、周囲のどこかの茂みで“何か”が蠢いていたであろう大きな音が響く。
「……ああ、厄介ですね……」
恐らく敵──魔物であると判断した青年は、アイテムバッグから杖を出そうかメイスと盾のセットを出そうかと悩む。
聖職者の武器は、大きく分けて“物理”か“魔法”──、
信仰により、神の奇跡の力を“施術”の力や“聖属性”の魔法に変換・行使し、人々やパーティーに神の教えを説き導いたり、時には窮地から救い、災厄から守る、献身的な後衛系回復職、“司祭”系統が好むとされる“杖”と、
聖職者の職杖である“メイス”による必要最低限の護身術と、“盾”による鉄壁の守りに長け、“剣士”や“戦士”系の職業には及ばないものの、最も“自己の”生存率が高く、かつ一人でも安定した戦闘が可能なことが最大の売りである“神聖騎士”、俗に“殴り系聖職者”と呼ばれる者が好むとされる“メイス&盾”のセット
この2種類の装備とスタイルが、多くの聖職者に好まれ、扱われている武器である。
また、近年では“補助”系の魔法の行使に長けているとされる、聖職者のみが扱える専用の武器として“聖書”もあるのだが、こちらは聖職者の間でも、人々の間でもまだまだ浸透されていない上、補助系の魔法の多くは回復職が一人以上いるパーティーの中でしか使えないようなものが多いため、もし持っていたとしてもソロではまず使えず、かつパーティーの中で使ったとしても素直に回復に徹したほうが堅実なため、好んで扱う者もそうそうおらず早くもお蔵入りとなりかけている謎の武器の存在もあるということを、ここに記しておく。
「うーん……よし、今回は堅実にいきましょうか」
青年は、迷った末に一人でも堅実に戦える武器である“メイス&盾”のスタイルとなり、そろそろ出てくるであろう草むらの魔物に向けて武器を構えた。